第五話
欲しい防具の値段が五千ルーン。服の最低金額は三百ルーン。
ヒカルは計算して、ため息をついた。やはり、しばらくは臭い服のままで過ごすしかなさそうだ。
いくつかの仕事をこなしたとしても、数日で貯まるというわけには行かない。
その上、貯まった端から武器を新調しているため、手持ちルーンは相変わらず寂しいものとなっていた。
いくつか武器を試した結果、片手剣が性に合っていることが分かる。基本的に振りやすいし、扱いやすい。
現在ヒカルは、ギルド役場で一息をついている。依頼をこなしながら魔物を狩っていたが、レベル3にはまだまだ届きそうにない。やはり、必要経験値の大きさが嫌というほど響いていた。
かと言って、効率のいい狩場などこの近辺にはあるはずもない。それもそのはず、安全地帯で過ごすことに決めた高レベルの人たちが常駐しているからだ。
レベル2のヒカルは、細々とやっていくしかない。
それよりもと、彼女は所持品から一本の古びた鍵を取り出した。あのメイド長から好感度上昇の際に、特別クエストが発注されそれを請けたら渡されたものだ。
クエストウィンドウには『メイドからのお願い、その1』と書かれた依頼が浮かんでいる。適正レベルは不明と書かれていた。
やはり、好感度を上げれば何かあるという彼女の読みは、間違っていなかったようだ。
依頼内容は、『最近地面の下から物音が聞こえてくる。信用ある冒険者に調査を頼みたい』だそうだ。
渡された鍵は、屋敷が管理している下水道に入ることができるものらしい。村の端っこに古い扉があり、その中に入れるようになるらしい。
どうしようかと悩み、行ってみるしかないと心に決めた。最初死んだ時に減らしたライフは回復して二回は死ねるのだから。
ただ、買った武器が消えるのは嫌だなと、眉をひそめる。ギルド役場の中を見回して、仕方ないかと腰を上げた。
ギルドには貸し倉庫という概念がある。上限があるのだが、ここに預けたものは死んでもなくならない。
ただし、管理費として一日百ルーン取られる。その上預けられるものは十個までというお高い設定。
上限を解放することはできるのだが、そのたびに必要なお金が増えていく仕様となっている。
しかし、買いなおすよりはマシかと、買った武器を預け入れた。取り敢えず持ち物には一番強い剣一本だけ持つ。防具の方は、臭いシャツだけなので気にすることではない。
ギルド役場から出て、マップを確認しながら入り口へと向かう。そこは村の中では比較的汚く、自身の着ている服の臭いが霞むほどの悪臭を放っていた。
ゲームに臭い機能なんていらないだろと眉根を寄せながら入り口に近づく。
「あ、あの!」
ドアに手をかけようとしたヒカルに、聞き覚えのある声でかけられた。顔を向けると、サクラがそこに立っていた。
もじもじと手を絡め、視線を彷徨わせている。
「その中に入るです……?」
「……えっと、そうだけど?」
「だったら私も連れて行ってほしいです!」
その発言にヒカルは眉根を寄せた。
正直な話、この中に入ることができるのは、メイド長の好感度を上げた人のみだろう。その権利を他のプレイヤーにも分けたくなかった。
鍵を持つ手に力がこもり、どうやって断ろうかと首をひねる。
「私の友達がこの村で行方不明になってしまって、もう探してないところはここしかないです!」
そしてここは入れなかったという。諦めかけたその時に、ヒカルがドアを開けようと現れたらしい。
「お、お願いするです! 私を一緒に連れて行ってほしいです!」
ピンク色の髪を揺らし、上目遣いで迫ってくる。ヒカルはたじろいで、一歩ほど後退った。
真剣な瞳に射抜かれて、仕方ないなと大きくため息をつく。
「……分かった。ただし、この場所のこと他の人に言ったりするなよ?」
その言葉に、彼女は無言で何回も頷く。
できれば一人でこの中に潜りたかった。しかし、二人のほうが生存率が上がるのもまた事実である。
バレるリスクよりもメリットのほうが大きい。
そう心の中で自分に言い聞かせ、納得することにした。
ウィンドウを操作して、サクラにパーティー申請を送った。彼女は震える手でウィンドウを出現させた。何やら操作すると、視界の右上に新たな体力バーが追加される。
「それじゃあ中にはいるけど、友達が見つからなくても恨まないでくれよ?」
またしても彼女は無言で何回も頷いていた。その様子を見て、ヒカルは肩をすくめる。
ドアの前に立ち、鍵穴に古びた鍵をさした。回すと、カチャリとした音が響き渡る。




