第四話
ここ数日、草むしりを繰り返した。好感度は確実に上がっていっている。しかし、変化は駄賃が20%アップしたくらいだ。
宿代と食費を抜いたら、手元に三十ルーンしか残らない。それでも何とかきり盛りして、武器を購入することができた。最低ランクのダガーだが、ないよりはマシだろう。
まだお昼過ぎ。もう一個依頼でも達成しようかなと、ギルド役場に立ち寄った。
掲示板を眺めていると、今日もあの女の子は立っている。
ここ数日見かけたところによると、彼女はサクラというプレイヤーらしい。ピンク色のボブカットに、赤い瞳が印象的な少女だ。種族はベーシックな人間である。
どうやらサクラは、手伝ってほしいことがあるから他のプレイヤーに泣きついているらしい。何でも、友人が村で行方不明になったという。しかしここは安全を取った人間が集まる最初の村。他人の事情を手伝うなんていう奇特な人間はいない。
無視され続けて数日、彼女の周りには誰も近づかなくなった。たまにすがりついているが、「見かけたら教えてやる」と雑に扱われて終わりだ。
彼女と視線が合う。何か言われるかと思ったが、ふいと顔を背けられた。
そりゃそうだと半笑いする。
客観的に見ればヒカルは臭いシャツを着てる変な人。よく見ても毎日草むしりだけ受ける変な人。
誰も関わりなくないというものだ。
当然ヒカルの方も関わる気はない。
加工用のスライムボールを五つ集めるというクエストを請けることにした。依頼主は道具屋の店主で、薬の基礎素材になるらしい。
これだけで二百五十ルーンになるのだから、どれほど無駄なことをしていたか自分でもわかる。
それでも、やはりあのメイド長の好感度をマックスにするまでは辞められない。あの屋敷は何かがあると、直感が囁いているのだ。
まぁ、ヒカルの直感なんてほとんど宛にならないが。
サクラのことを気にする様子もなく、ギルド役場をあとにする。
※※※※※※※※※※
スライムは青色の液状の魔物だ。火や氷に弱く、水に強い。ロールプレイングゲームの最序盤の雑魚敵としては、御馴染みのものである。
目はなく、草原を飛び跳ねたり這ったりして動いている。
結構大量に湧いていて、プレイヤーがストレス解消に狩っていることも多い。
依頼の内容文は『僕は薬の調合と店番に忙しい』だそうだ。スライムボール五個くらいなら簡単に狩れると思うのだが、そこは暗黙の了解ってやつだろう。
ダガーを取り出して、試し振りをしてみる。このゲームはスキル制ではなく、完全にプレイヤースキルに依存することになっている。例えば石ころを投げて当てただけでも、ダメージ判定になったりする。
攻撃が当たらなければ、一方的に殴り放題だ。
これが安全なゲームならば、拳一つ全裸装備で挑む猛者も現れそうである。
飛び跳ねるスライムと向き直って、ダガーを振る。油断を突いたからかクリティカルヒットと表示された。
スライムは飛び散って消滅する。後に残されたのは、スライムボールが一個だ。後はこれを五回繰り返せばいい。
当然毎回そんなうまく行くわけがなく、背中から服の中に入られた。ひんやりとした感触が背筋を襲い、口から変な声が漏れる。
体を震わせて、ヒカルは尻尾を忙しなく動かした。
「ちょ、ちょちょちょ!」
手をバタバタさせて、慌ててスライムを追い出す。
「こんにゃろ!」
シャツの中に入ったスライムは、特に執拗に攻撃しておいた。
無駄に体力を使い、膝に手をつく。やはり現実世界の体格差でまだ動きがぎこちない。うまく動かせるようになるには、もう少し慣れないとダメなようだ。
やはり、素手で無理しなくてよかったと息をつく。
五体目のスライムを倒すと、『レベルが上がりました』と表示された。
落としたスライムボールを拾い上げてから、ステータス画面を開いた。
配られたステータスポイントは2。これをやはり俊敏に割り振った。
やはり最初のレベルアップだけは早いなと、次の必要経験値を見る。その上に表示されている文字に、目を見開く。
『あなたは、第一の柱、魔の主バエルに選ばれました。必要経験値は五倍になります。獲得ステータスポイントは二倍になります』
「……は?」
表示されている言葉の意味が分からず、思わず瞳が揺れる。そして、一度死んだときに表示されたクエストのことを思い出した。
あれは気のせいでもなんでもなく──
「いやいや、必要経験値五倍はさすがにやりすぎだろ」
思わぬことに頭を抱える。
もう一度、確認のために言っておく。この世界は消えれば終わりのゲームの世界だ。




