第三話
照りつける日差しというのは、現実世界では最大の敵だったがここではただの光だ。外で活動するにしても何にしても、ついて回ってくるのは昔のこと。
ヒカルは村の中で大きい屋敷の門周りの雑草を抜いている。屈んで、一本一本丁寧に抜いている。
ずっと同じ姿勢で固定されているのに、疲れはやってこない。そこのところはやはりゲームの中なんだなと実感する。
一時間ほどして草むしりに飽きてきた。ポケーとして、先ほどのギルド役場で起こったことを思い出す。
あのプレイヤーの女の子は、そのあと諦めるようにして出ていった。
何かあったのだろうかと思いはしたが、自分には関係ないと追いかけないことにした。
「ちゃんとやっていますか?」
背筋を伸ばしたメイド長のような人に咎められて、慌てて草むしりを再開する。
きっちりと仕事をしていることを見た彼女は鼻を鳴らして屋敷に帰っていった。
「……そう言えばこの屋敷入れないんだよね?」
この世界、建物の中は作り込まれている。見える範囲では、プレイヤーが好き勝手に出入りをしていた。しかし、ここだけは特殊だ。
草むしりの依頼を受けたことを報せるために、玄関をノックした。しかし、中に入ることはできなかったのだ。ドアが開いたときには中が作り込まれてはいそうだが。
入ろうとしたら、先ほどのメイド長に腕を掴まれて睨まれたのだ。
普通のオンラインゲームなら、すでに攻略勢か何かが解析しているだろう。しかし、ここは違う。
攻略勢は前線。ここに残っているのは、攻略されるのをゆっくりと待っているプレイヤーたち。こんな場所は放置されて当たり前だ。
ヒカルの興味が刺激される。少しだけと、窓に近づいてみた。しかし、カーテンが閉められていて外から覗くことはできない。
窓を叩く。『破壊不可オブジェクト』という赤文字が浮かび上がった。
最初から中に入れないなら報せるために、わざわざ玄関を叩かせないよなと考える。ましてやドアを開けて、作り込まれていることを見せつけたりしない。
「何をしているんですか?」
後方から聞こえたメイド長の声に、肩を跳ね上がらせた。自分の意思とは裏腹に、尻尾がピンと立つ。
振り返り、愛想笑いを返した。
「な、何もしてないです!」
「……ちゃんと指定された箇所は草むしりしましたか?」
「は、はいもちろん」
ヒカルの言葉に、メイド長は大きくため息をついた。疑わしそうに範囲を確認した彼女は、一応納得したように頷いた。
「これは報酬です」
手渡された百ルーン。すぐにインベントリに収納される。
同時にウィンドウが立ち上がった。
『依頼主の好感度がアップ。次回依頼達成報酬が、2%増加します』
こういった機能もあるのかと、感心する。百ルーンの2%アップなどたかが知れているが、もしかしたら好感度を最大まで上げたら屋敷に入れるかもしれない。
この街を早々に立ち去る予定だったが、ヒカルは予定をさらに変更することにした。
無駄かもしれない。考えすぎかもしれない。しかし、設計者の意図を汲んで隠しを見つけるのがオンラインゲームの醍醐味だと、彼女は思う。
※※※※※※※※※※
「一泊五十ルーン?」
宿屋の女将に提示された価格に、唖然とする。今日働いた分の半分が飛んでいく額だ。
いや、普通なら安いというところなんだろう。しかし、今のヒカルは武器なしだから草むしりのクエストしか受けられない。素手では、スライムさえ倒せない世界なのだ。
「これ以上負けたらうちは赤字だからね」
ヒカルの思考を先読みしたのか、女将が念を押してくる。その瞳は、絶対に安くしないという意志が感じられた。
そこをなんとかと一度食い下がると、好感度が下降する。
諦めて彼女は五十ルーンを払うことにした。
半分なくなった所持金に、彼女は肩を落とす。
この世界、時間サイクルはどうやら現実と同じ二十四時間で動いている。そしてどういうわけか、夜はちゃんと眠くなる。
路上で寝るプレイヤーもいるが、基本的にお勧めはできない。なぜなら、村の中でも攻撃する以外なら身体に触れられることができてしまう。
多くのプレイヤーは、余計なトラブルを避けて鍵がかけられる個室を用意するものだ。
貰った鍵の番号の部屋に入った。そこはベッドと机だけが置かれている。
ヨロヨロとベッドに近寄ると、そのままヒカルは寝転がる。目をつぶってリラックスする。
「……やっぱり臭いな」
シャツから漂ってくる臭いに、彼女は寝返りを打った。臭いで眠れないと思ったが、案外すぐに微睡みに落ちる。




