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第二話

『一つ目の命が失われました。残り2となります。命は、一週間に1回復します』

「なんじゃそりゃ!?」


 思わず起き上がったヒカルは、自分がどこか室内の水浴び場に浸かっていたことに遅れて気がついた。防具や装備はすべてロストして、裸になっている。

 恥ずかしげに尻尾をピンと立たせてから、水の中に浸かる。


「冒険者様お目覚めですか?」


 女の人の声が聞こえ、赤らんだ顔を上げた。黒いシスター衣装に身を纏った女性は微笑みを見せて指を組んでいる。


「あ、あのここは?」

「ここは教会。復活の間です」

「……復活の間?」


 聞き返すと、彼女は驚いたように目を開く。また笑顔を見せるとそのまま説明してくれた。


 神に祝福された冒険者たちは、死ねば各地に点在する復活ポイントに体が再構築されるようだ。なるほどそういうシステムねと納得した。

 しかしあのシステムメッセージを見る限り、命は有限らしい。一応時間経過で回復するようだが、あまりに連続で死ぬと消滅する……ということになるのだろうか。

 消えた人間はどうなるか分からない。少なくとも、現実世界には一人たりとも帰ってきていない。


「それで……なんで裸なんですか?」

「身に着けているものには、祝福がなされていないので」

「……そういうことか」


 つまるところ、初心者が何かのバグに当たって裸一貫でスタートになってしまった。そういうことか。

 ウィンドウを開くと、所持品の中には配られたはずの木剣すらない。


 死=全ロスト。最近の大規模オンラインロールプレイングゲームにしては、重すぎるコストだ。死に猶予があるにしても、そう何回も殺られてはいられない。

 不幸中の幸いなのは、通貨らしきところに五百という数字があることだろうか。

 死ぬ前に確認したときもこの通貨は変わっていなかったので、デスペナルティは装備や持ち物に限るということ。


 これで帰るだけの装備を買おうと、泉から上がった。


「どこに行かれるのですか、冒険者様?」


 出口にシスターが立ち塞がる。


「いや、外に出ようと」

「先に神様への貢として、五百ルーンいただきます」

「……へ?」


 彼女の手が差し出されると、小銭袋が現れた。ウィンドウを開くと、お金の表記がゼロになっている。

 これで何もかもをなくした。その絶望感から、ヒカルは膝から崩れ落ちたのだった。



※※※※※※※※※※



『萎びたワイシャツ。防御力1。誰が着たかも分からない古いシャツ。ちょっと臭い』


 教会からもらった価値ゼロのシャツを一枚羽織って、ヒカルは外へと出た。尻尾はうなだれ気分は落ち込み気味だ。


 本当ならここで初心者装備を店売りして、ちょっと良い装備を揃えるつもりだった。適正レベルより少し上の狩場で魔物を狩って、明日には次の町へと目指す。

 そんな彼女の想定は、初っ端からはかなく散った。


 ただでさえ他のプレイヤーとの差が一ヶ月もあるというのに。

 

「……くよくよしてても仕方ないか」


 本当に臭うシャツに眉をしかめる。

 できるだけ意識をしないことにして、周囲を見回した。


 見えたのはのどかな田舎。いかにも初心者の村といったところだ。

 ステータス画面のマップを見ると『はじまりの村』と書かれていた。本来はここで開始するんだろうなと、遠目に見る。


 まぁ過ぎたことは仕方ないと、近場のクエスト発注書を探した。ここはセオリー通りにコツコツと金を稼いで装備を買うことにする。


 村の中を歩いていると、かなりの数のプレイヤーを見かける。初心者村にしては珍しいなと少し考えて、安全だからという答えにたどり着いた。

 命が惜しいプレイヤーはここに留まることを選んだのだろう。

 プレイヤーの服装も、鎧さえ着ずに布製の衣服で溢れかえっている。といっても、ヒカルほど凄惨な格好の人間はいないのだが。

 

 裸足で歩く彼女を、プレイヤーたちはヒソヒソと何やら話していた。

 それでもヒカルは、気にすることなく村中を進む。


 依頼場という名のギルド役場に足を踏み入れた。ギルドの受付嬢らしい人たちが、せっせと何やら働いている。

 書類の整理をしているように見える。


 ペタペタと足音を鳴らしながら掲示板へと歩み寄っていく。貼り出された依頼書を見つめて良さそうなものを探す。


 そのほとんどは魔物退治だった。低レベルとは言え、素手で戦うのは今は避けたい。そうやって依頼を弾いていくと、雑草抜きが百ルーンという依頼が目に入る。

 いくら何でも安すぎる。しかし、これ以外は何もない。頭を悩ませながら尻尾を揺らしていると、女の子の大声が耳に入る。


 プレイヤーらしき彼女は、他のプレイヤーにすがりついて泣いていた。

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