第四十九話
「やはりつけられていたようですね」
後方から次々に現れるのは、大量のオレンジプレイヤーたち。彼らは一斉に突撃してきたが、ロッドウィグが盾を出して攻撃を受け止める。
火花が散り、金属が擦れる音がなった。たくさんのプレイヤーの剣を一手に受け止めても、ロッドウィグの足元は数ミリも動かない。
「……はっ!」
押し返し、はじき飛ばす。何人かは飛ばされて霧の中へと消えていく。
「クソが! ユウェイルさんにまた痛めつけられるぞ!」
その言葉を聞き、ヒカルの動きが止まった。やはりユウェイルかと、尻尾がピンと立ち上がる。
剣を握り近寄ろうとしたヒカルに、ロッドウィグは剣先を突きつけた。
「目的を見失ってはいけませんよ」
その言葉に、ヒカルの瞳が揺れる。ミサキやサクラが心配そうにこちらを見つめているのに気がつく。
拳を握りしめ、頭を振った。垂れ下がる尻尾が、彼女の不安を代弁しているかのようである。
「このために僕がついてきてるんですから」
ロッドウィグはさらに盾で攻撃を受け止めて、彼らを霧の中へと次々に飛ばす。
ギミックを利用して、一切キルすることなく制圧する様子はさすがと言えるだろう。
オレンジプレイヤーたちの波は止まらない。それでもロッドウィグが盾となって立ちはだかる。
彼から視線を外して、ベルにアイコンタクトを送る。彼女はランタンを片手に続きを歩き始めた。
「……助かる」
ヒカルの言葉に、新たなプレイヤーをはじき飛ばしながら鼻で笑う。
「別に礼を言われるためにやっていません」
「理屈屋が格好つけても締まらへんで?」
そんな彼に対してチャチャを飛ばしたのは、アキだった。彼女は所持品から小瓶を取り出して、ロッドウィグに手渡す。
「迷子さん防止用の追跡虫や。ついたら個チャを飛ばすから、それに従ってきいや」
「助かります」
ロッドウィグの言葉に満足気に頷いてから、アキはヒカルの方を見る。
目線が合うと、彼女はうなずいた。
「ほな、続き行こうか。モタモタしてたら、ロッドウィグの働きが無駄になるで」
「……分かってる」
ロッドウィグを置いて、ヒカルたちはベルの後を追う。
いくつかの霧の庭を超えた。後方のロッドウィグの戦闘音はすでに聞こえなくなっていた。
ミサキが周りを見回しながら、踏み込む。そんなとき、何か柔らかいものを踏んだような音が鳴る。
「うぇ……」
彼女は、顔をゆがめながら足の裏を確認していた。
「なんなんすかこれ?」
「おうおう、気持ち悪いものがいっぱい地面に広がってるはるなぁ」
「……少し怖いです」
彼女たちの反応が変わったのも当然だ。今まで芝の庭だったのが、突然様変わりしていたのだ。まるで腐ったかのように。
庭中に転がる物体からは鼻を塞ぎたくなるような臭いがする。よく見るとハエのようなものが飛んでいる。
それがヒカルには人の四肢のように見えた。
この光景を見たベルは、顔を歪めて視線を落とした。
「……ベル、これは人間か?」
聞かれると、彼女は下唇を噛んでいた。血が滲み、一筋の赤い液体がベルの顎を伝う。
「ベル、ここで何があった?」
「……これは、私の仲間たちです。言うことを聞かない魔族は、柱によって使い潰されゴミのように捨てられます」
「酷いです」
サクラが口に手を当てていた。ミサキがあからさまな顔をしていた。
「ま、よくあるストーリーやな」
「そうだな」
「問題はこの光景を作り上げた元凶がいるってことや」
ボス戦。ヒカルの頭に、その単語がちらつく。
このダンジョンの適正レベルは7から10となっている。
今、ヒカルはやっと8になったところである。果たして、適性通りボスが出てくれるか。もし格上となれば、覚悟が必要かもしれない。
「ミサキ、サクラ、油断するなよ?」
「はいっす!」
「わ、分かりましたです!」
ヒカルの言葉に二人が武器を構える。
アキを見ると、彼女は端っこに避難していた。目が合うと、笑顔で手を振ってくる。やはりここでも、彼女は参加する気はないようだ。
まぁ、頼る気はないと、彼女から視線を外す。
「ベーーーーーーーーールーーーーーーーー!」
長々とした野太い叫び声が聞こえる。その声に反応するように、ベルの肩がはねた。
聞こえたのは空からだ。声のもとを手繰るように、上空を見やった。
蜘蛛のような体が飛んでくる。それは人間一人を余裕で覆い尽くしそうなほど巨大である。
「避けろ!」
ミサキが飛び退いた。ヒカルはサクラを抱えて転がる。
目を白黒させる彼女を庇うように覆いかぶさった。
視線が合い、サクラは顔を赤らめて視線を彷徨わせる。
「大丈夫か?」
尋ねると、彼女は無言で何回も頷く。その答えに安堵すると、ヒカルは立ち上がって跳んできたものの正体を見やる。
それは巨大な蜘蛛の下半身を持った男だ。名を『汚染されたアラクラトロ』になっていた。




