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第四十八話

 倉庫から『茨の剱』を取り出す。これから向かうところは、このアイテムがキーになってくるらしい。

 ロッドウィグに預けようか悩んでいると、彼の方から近寄ってきた。


「それはきっちりあなたが持っていてください」


 ヒカルの表情を見て、ロッドウィグが呆れたように肩をすくめた。

 

「なんですかその表情は?」

「てっきり、僕が預かりますとか言うと思ってた」


 どころか、クエスト自体をロッドウィグのチームで受けると言いかねないとさえ思っていたのだ。

 あまりのヒカルからの信用なさを感じたからか、彼は鼻で笑う。


「できれば僕たちでやりたかったですよ。そこは本心です」


 そう言い放ってから、彼は一拍ほど置く。


「ですが、このゲームの進行度管理はかなり精巧にできているみたいです」


 曰く、ヒカル主体で動かなければ、ベルはほとんど確信をつくようなことは言ってくれないという。世間話程度しかできないと諦めるように肩をすくめた。

 新たに受けるにしても、すでにヒカルという存在がいるため、そこに介入することはできないという。


「それこそ、あなたを殺して権利を剥奪させるしか手はありませんね」


 その言葉に少し距離を置く。

 彼は眼鏡をかけ直して、苦笑を見せた。


「さすがに僕はそこまでの人間じゃないですよ。殺しても奪い取るのは、やはり間違っていると思いますね」


 本音を言えば、高レベルの攻略隊を組んでさっさと終わらせたいがと溢している。


「ま、僕はあいつらとは違うってことですよ」

「……それはどうだかな」

「はは、本当に信用ないですね」


 彼の空笑いが聞こえたと同時にミサキの声が広がった。


「そろそろ出発するっすよ!」

「わ、私も準備できましたです!」


 やる気満々の彼女たち二人に挨拶を返し、歩き始める。


「まぁ、僕のことは護衛とでも思っていてください」


 そう言って、ロッドウィグは距離を取って歩き出した。



※※※※※※※※※※



「ここを抜けていきます」


 ベルの後について入ったのは、『霧の庭』と呼ばれたダンジョンだった。年中霧に包まれたこの場所は、冒険者の方向感覚を失わせる。


「お言葉やけど、ここはこの町周辺でも『乱れ狂いの沼』の次に行くダンジョンやで? うちはてっきり茨の城に向かうもんやとばかり思ってたわ」

「あの城は、外からは入れない設計になってます。ここを手順通りに進まないといけません」

「なるほど、ダンジョンの道順ギミックか」


 ヒカルが納得したように呟くと、ベルが肯定するように頷く。


「……ほんま、このゲームの開発者は意地が悪いなぁ」

「えぇ、僕もそう思いますよ」


 二人のつぶやきに、ヒカルは心の中だけで同意をする。


 このダンジョンは四方二十メートルの箱形の庭がいくつも連なってできている。一つの区画に入ると、魔物が現れる。

 魔物を倒せば四方向好きな方向に行けるようになる。しかし、間違った方向にいけば、最初に戻されまた魔物を倒さなければならないという。

 ゲームの中ではお馴染みのギミックだった。


 魔物はロッドウィグが簡単に倒していく。すべてを蹴散らすと、ランタンを持ったベルが先に進んで道を示してくれるといった具合だ。

 あまりにも簡単すぎる工程に、ヒカルはつまんなさそうにため息を漏らす。


「ま、こんだけレベル差が開いてたら当たり前やな」


 アキは苦笑しながら、耳と尻尾を動かしていた。


「私の回復必要なさそうです」


 サクラは杖を握りしめながら、少し落ち込んでいる。


「楽っちゃ楽っすけど、一気につまんなくなったすね」


 ミサキはつまんなさそうに唇を尖らせて、石ころを蹴っている。


「とか言いつつ、全部僕に倒させてるじゃないですか!」


 ロッドウィグが細剣をしまいながら眼鏡を掛け直す。その額にはどこか青筋が浮かんでいるようだ。


「楽やし」

「体力温存っす」

「ごめんなさいです」


 三者三様に言われ、彼は肩を落としている。


 そんなとき、ヒカルは剣を抜いて次の区画に先にはいる。


 やはり彼だけに頼りっぱなしは嫌だ。ヒカルはできる限り前に出て、魔物の相手をすることにした。

 その意図を汲んだのか、ロッドウィグが剣を収める。


「やっぱり私もやるっす!」


 ミサキも続いて弓を引く。

 サクラは無言で杖を構え始めて、ヒカルの傷ついた分を回復させる。


「頑張ってはるなぁ」

「……あなたは前に出ないんですね」

「うちは情報専門やからな」


 そんなアキとロッドウィグのやり取りを横目に見ながら、続いての魔物を打ち倒す。

 地面に倒れる魔物からは、きちんと素材を剥ぎ取る。


 そんなときだった──


「おりゃあ!」


 後方から聞き覚えのない声が響き渡る。振り返ると、ロッドウィグが剣で攻撃を受け止めていた。


 オレンジアイコンのプレイヤーだ。


「……やはり来ましたか」


 彼は眼鏡をかけ直すと、ベルが示す方向とは別の区画へとプレイヤーを投げ飛ばす。不思議な霧の奥にのまれ、そのプレイヤーは姿を消した。

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