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第四十七話

「この村の屋敷、入れることができたんですね」


 ロッドウィグが眼鏡を押し上げながら外の景色を確認している様子を、ヒカルは見る。

 

「安心してください。口伝するつもりはありませんよ」

「どうだか」

「信用されてませんね。それで、そのベルというNPCはどこにいるんですか?」


 彼に言われ、遅れて部屋に案内する。

 ベルがベッドの縁に腰掛けていた。


「また知らない人が増えたんですね」


 静かな瞳で、彼女はロッドウィグのことを見つめる。

 彼はベルに恭しく敬礼した。


「僕はロッドウィグと言います。第七柱の沼の主に反旗を翻そうとしているのは、あなたですか?」

「……反旗を翻すというほど仰々しくないです。ただ、少しでも嫌がらせになったら良いなと思っていただけで」


 彼女の声を遮るように部屋のドアがまた開かれる。

 ミサキ、アキ、サクラの順で中に入ってきた。


「なんやなんや、もう先に話し始めてたんか? 抜け駆けは許さんで?」


 騒がしいアキの声に、ロッドウィグはため息混じりに眼鏡を押し上げる。

 

「いえ、まだ話し始めたところです」


 アキとロッドウィグが会話している横を抜けて、ミサキがヒカルの側に寄ってきた。その後ろにサクラが静かに立つ。


「私はまだ、あの男のことは認めてないっすよ」


 小さく言う彼女に、ヒカルは肩をすくめた。尻尾は同意するように細く揺れている。

 サクラは少し後ろで苦笑していた。


「それじゃあ話してくれるか? 沼の主のことを」


 ミサキの声に反応するように、俯いていたベルが顔を上げる。アキとロッドウィグも会話を中止した。


「泥の主は、ここら一帯に疫病や泥をまき散らす支配者です。この世界を支配している王の一人となります」

「それが第七柱ですか」

「てことは少なくともそれだけいるっちゅうことやな。このゲームストーリーないとばっかり思ってたわ」

「いえ、確か何もない平原に一度第五柱と表示されたドラゴンが現れました。その時、何か変わったのでしょう」


 その言葉を聞いて、ギクリとヒカルは肩を跳ねさせる。揺れる尻尾を気づかれないように抑えた。

 ロッドウィグの視線が刺さる。平静を装うように、顔をそらす。


 彼は眼鏡を押し上げる動作をしたが、特に何も言ってこなかった。


「第五柱がこの地に現れたというのですか?」


 空気を変えたのは、ベルの驚いた声だ。


「何かおかしなことでもあるのか?」

「……基本的に柱同士は均衡を保っています。お互いを邪魔と思いつつも、力が拮抗しているため動かないんです」


 彼女曰く、三つ巴なるぬ六つ巴になっているという。一人が倒れれば、そいつの力が邪魔だった柱が大きく力をつける。

 例えると、沼の主は氷の主が大の苦手だという。


「待ってください六と言いましたか? 柱は七以上は確定でしょう?」


 ロッドウィグの質問に、ベルはゆっくり頷く。


「第一の柱、バエル様だけは特別ですから。彼だけは、柱が束になっても敵いません」


 その言葉に、再びヒカルの尻尾が緊張するように揺れた。

 ロッドウィグに睨まれて、落ち着きなく頬をかいた。


「で、どうするんや?」


 アキの言葉にロッドウィグは眼鏡をかけ直す。なんとか追及されなかったことに、ヒカルは安堵の息を漏らした。


「倒すしかないでしょう。柱たちを」

「でも、均衡が崩れるってことは、混乱が起きるかもしれないで?」

「分かっていますよ。でも、それ以外このゲームをクリアする方法を思いつきますか? 僕はダンジョンをクリアさえすればいいと思っていたのを、今大きく崩されたんですよ」

「ま、同感やな」


 話を勝手に進める攻略組チームの二人に、ミサキが割って入った。

 両手を広げて、二人の会話を中断させる。


「分かってると思うけど、このクエストを見つけたのはヒカルさんっす! 決定権はヒカルさんにあるっすよ!」


 その言葉に、ロッドウィグがため息をつく。アキはニヤけながら、彼の尻を思いっきり叩いていた。


「分かってますよ。ゲームは元来見つけたもの勝ちです。最初に受ける権利は、ヒカルさんに譲りますよ。ただ、受けないっていうなら、僕たちのチームが請け負うことになります」

「はん、素直やないなぁ」


 皆の視線を一点に受けて、ヒカルは首を縦に振る。


「受けるに決まってる」


 ちらつくのは、モルドレルドやユウェイルのこと。しかし、彼らに邪魔されたとしてもやはりゲームを楽しむのは変わらない。

 そこを変えてしまったら、わざわざこのゲームに囚われた意味がない。


 ヒカルの言葉が肯定のサインと取られたのか、クエスト受領のウィンドウが表示された。

 クエスト名は『背信者ベルとの旅路』だった。

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