第四十六話
「ユウェイルさん……苦しいです……!」
森林の中、ユウェイルに木に押し付けられたプレイヤーがもがく。その彼の表情を気にすることなく彼は首を締め付けていた。
「お前、お前お前。口答えしたな? 口答えしたよな?」
「……してない……です」
「黙れ黙れ!」
そのまま斬りつけると、彼は赤いポリゴン破片となって中空に消えた。彼が身につけていた装備や所持品がすべてその場に落ちた。
興味なさげにそれらに大剣を突き刺す。アイテムたちは、粉微塵になって消え去る。
『プレイヤーをキルしました。業ポイントが増加します』
メッセージ表示を見て、大きく舌打ちする。大剣を振り、木を一本なぎ倒した。
「いやぁ、荒れてるね」
そこに聞こえてきたのは、聞き覚えのある声。額に青筋を浮かべて、その相手に刃先を突きつける。
「モルドレルド……! 俺を……俺を俺をオレンジにしやがって!」
「何を言っているんだい? 君が勝手にオレンジになっただけだろ? あと、剣を向けてるけど、今なら君を心置きなく斬れることを忘れたらダメだよ」
「ちっ……クソが!」
大剣を振り回したが、そこにはモルドレルドの姿がない。少し離れたところの岩に、すでに腰をかけていた。
「君は怒っているようだがね、僕は君が動いてくれたことに感謝してるんだよ」
「そんな安っぽい言葉はいらねぇ!」
「いやいや、本当に心からの賛辞だ」
モルドレルドの言葉に、ユウェイルは大きな舌打ちをして大剣を地面に突き刺した。
その様子を見ている彼は、薄ら笑みを消さない。
「あの、そろそろ私も出てきていいのです?」
二人の会話に割って入るように、少女の声が聞こえる。
「猫宮圭! お前は、一体一体何の用だ!?」
「何の用って、このヤマは私も一枚噛んでるのです」
天使族のプレイヤーである彼女は、羽をパタパタと動かしていた。
カイザー、プリンと一緒にいたあの少女である。
「君が最後の一手を打ってくれたことで、圏内は安全じゃないって証明できた。そのおかげで、保護という名目で彼女を『クロス・オーソード』に潜り込ませることができたよ」
「……ち、本当に本当に胸糞悪い奴らだ! おい猫宮圭! お前、自分の友達を手にかけて、何とも思わないのか!」
「思わないのです」
猫宮は即答する。
「元々あの甘えん坊は大っ嫌いなのです。本当殺されてスッキリしたのです」
「お前、相当相当イカれてんな」
「ユウェイルにだけは言われたくないのです」
猫宮の緑色の瞳には感情というものが見えない。不気味な様子に、ユウェイルは大きく舌打ちをした。
「おい、モルドレルド! あのヒカルって奴は俺が殺すからな? 手を出すんじゃねぇぞ! 絶対に絶対に絶対に手を出すな!」
「好きにすればいいさ。油断してまたやられないようにだけはしてくれたらそれでいいよ」
「俺がなんだって?」
「モルドレルドは、油断するなって言ったのですよ。この間抜け」
猫宮の一言に、モルドレルドの額にさらに青筋が浮かび上がった。
突っ立っている彼女の顔面を掴み、地面に叩きつける。
轟音が鳴る。石礫が舞う。砂煙が立ち上った。
地面が割れるほどの衝撃。彼女は頭を打ち付けられ、それでもユウェイルの指の隙間から感情の見えない瞳を覗かせていた。
猫宮の体力バーは、残り二割まで一気に削れている。黄色域を超えて、赤に入りかけていた。
しかし、ユウェイルが追撃する前に、全快まで持っていく。
「……ちっ! 天使族の加護がうぜぇな!」
「正確には、選ばれた天使族の加護なのです。誰もが持ってると思わないのです」
「うっせぇな! ぶっ殺されねぇだけありがたいと思え!」
手を離すと彼女は立ち上がり、澄んだ顔で衣装の埃を払っていた。
「そうすぐに何も考えずに突っ走るから、いっぱい食わされるのですよ。円卓のメンバーの中で、唯一オレンジになったことを恥と思わないのですか?」
「うっせぇ! また緑に戻せば良いんだろうが!」
「どうやって? あのクソ長そうなクエストをクリアするんのです? 一日でも動かないで過ごすことができないお前が?」
「うっせぇって言ってるだろうが!」
大きな声を出して、ユウェイルが大剣を振り回す。剣が猫宮の胴を両断する。
体力バーが完全に削り切る前に、また全回復した。
「……っち、うっざいのです。加護も一日で回数制限があるのですよ?」
「その回数制限を使い切るまで、ぶっ殺し続けてやるよ!」
「はいはいストップ」
二人が睨み合ってる中、モルドレルドの手を打った音が響き渡る。
「猫宮はそのまま潜入。ユウェイルは、あいつらの物語を追いかける。それで良いかな?」
二人は視線を外した。ユウェイルは納得いかないように、木に大剣を振り下ろしている。
「それで、モルドレルドは何をするのです?」
「僕は他のメンバーに声をかけてみるよ。こんな面白いお祭りに乗らないのは損でしょ?」
「……ほかの奴らが正直に従うとは思えないのです」
猫宮のため息にも、モルドレルドは笑みを返すだけだった。




