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第四十四話

 静寂に包まれた教会内部。やっと奥から現れたシスターが、怯えながら壊れた箇所を直し始めた。

 白い鎧の人たちは残されたユウェイルの部下たちを牽制するように取り囲む。黄色いアイコンになってる彼らは、悔しそうに教会から出ていった。


「手を貸しましょうか?」


 尻餅をついているヒカルに、ロッドウィグの手が差し伸ばされる。

 ヒカルは一瞬手を取りかけたが、振り払った。自分で立ち上がり、尻尾を揺らす。


 ユウェイルに曲げられた指は治っていた。握っても痛くないところを見ると、やはり仮想で作られた体なのだと自覚する。


「いやぁ、危なかったなぁ」


 アキが笑いながら近寄ってくる。猫耳はピクリと動いていた。


「……」

「なんやなんや? 嬉しそうやないなぁ」


 彼女の言葉に瞳を揺らす。白い鎧の人たちを見て、表情を固くする。

 彼らに知られてしまった。そのことが頭を埋め、お礼の言葉が出てこない。


「お言葉ですが……」


 ロッドウィグが話そうとしていたことを遮り、アキが一歩前へと出た。

 彼女はヒカルに顔を近づける明らかな怒りを顔に貼り付けて。


「お前、余計なお世話やと思ってるんちゃうやろうな?」


 その声は、いつもの軽い調子ではない。

 アキの耳はピンと立ち上がり、尻尾は逆立っていた。


「そんなこと……」

「そんなこと? だったらなんや? お前は一人でやって一人で負けて一人で殺されかけたんやろ? それやのに、まだ一人でやろうとするんか?」

「俺は元々ソロプレイヤーだ!」

「それがなんや? お前がソロだと主張してもすでにサクラがいるやろ? ミサキがいるやろ? なんなら、うちもいるやろ? お前が消えたら少なくとも悲しむ人間はすでにできてんねん」


 彼女は言葉をたたみかける。拳を握りしめ、怒りから震えている。

 そのアキの表情を見て、逃げるように視線をそらした。


「俺はアドバンテージを失うくらいなら、助けはいらなかった……」


 その言葉で限界を迎えたアキが、拳を振り上げた。その腕を、ロッドウィグがとめる。


「まだ町の人たちが見ていますよ」

「……ちっ、わーってるわ」


 ロッドウィグの手を振り払って、彼女は自分の手首を握りしめていた。荒れた鼻息を抑え、ヒカルを睨みつける。


「アドバンテージを取ったとしても、死んでしまったら何も残らんやろ」


 その言葉を言ってからアキはヒカルに背中を向ける。


「外で待ってるわ。うちも頭を冷やしたい」


 そう言って彼女は教会から出ていった。


「ま、感情の面はすべて彼女が言ってくれたとして、盤面を整理させてもらいますか」


 ロッドウィグは眼鏡を掛け直し、近くの椅子に腰掛けた。


「僕が動いたのは、アキから君がこのゲームに必要な人間と聞かされたからです。そして、あらかじめ僕たちはモルドレルドが君に興味を持っていたのも知っていた」

「……何が言いたい?」

「君を助ける価値はある。そう判断したから、僕は介入させてもらいました。あなたは頼んでいないと言うと思いますが」


 ヒカルの尻尾が不安げに揺れる。モルドレルドとはまた違った理性的な目が、彼女を見つめている。

 ロッドウィグは近くの机に肘をかけて、頬杖をついていた。


「でもまぁ、モルドレルドたちが本格的に踏み外し始めたなら、その対処に動くのは僕たち最大チームの役目です。君の持っているか細い物語への鍵に全力投資するわけにもいきません」

「……つまり?」

「僕を仲間に加えてください。チームリーダーはそれで満足してくれるでしょう」


 そんな提案飲むはずがない。そう口に出しかけた時、ロッドウィグがさらにたたみかける。


「残念ですがあなたには拒否権はありませんよ。これは取引ではなく、確定事項です」

「そんな勝手な」

「だったら、ここに集まったチームメンバーたち。町の人たちを集めた労力。そのすべてに対価を払えるのですか? 無理ですよね? あなたには何もないんですから」


 言われ、口をとめる。

 ここでも自分の弱さを真正面から突きつけられるのかと、拳を強く握った。


「それを、僕が同行するだけで手を打とうと言ってるんです。あなたにとっても悪い話ではないと思いますが?」

「何が悪い話じゃないだよ。選択肢なんてないに等しいだろ」

「えぇ、ないですよ? 現実でもゲームでも強さは正義です。あなたがきっちり強ければ、モルドレルドにつけ入られることはありませんでした。ユウェイルに暴力を振るわれることはありませんでした。

 ましてや、プリンアラモードというプレイヤーへの雪辱を果たせたんじゃないですか?」


 その言葉に、ヒカルはツバを飲み込んだ。


「あなたは思い上がったんですよ。自分なら、プレイヤーキルのことを解決できると慢心した。そこをモルドレルドに突かれた。ただ、それだけです」


 ロッドウィグの青色の瞳は、完全に冷えている。それはまるで侮蔑しているように見えた。


「あなたが選んだ結果です。まだ、自分の我がぎりぎり通せるだけマシだとは思いませんか?」

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