第四十一話
「ゲーマー? ふざけんなよ? 他人を殺す異常者が、ゲームをただ楽しんでるだと?」
「デスゲームというのはそういうものだろ? 人を殺すのも許容しているんだよ。だったら、それ含めて楽しむのがゲームだ」
「他人の権利を自己の都合で奪って楽しむのは、ゲーマーとは言わない! ただのエゴイストだ!」
「でも、そんな君も自分の都合で僕の楽しみ方を否定しているだろ? 何が違うんだい?」
モルドレルドからの瞳は余裕は崩れない。プリンの姿で歪な笑みを浮かべている。
ヒカルは抑えきれない怒りから、尻尾の先で地面を軽く擦る。握る剣は震えていた。
「僕は君を評価してるんだよ? 君なら分かってくれるはずだと。誰もなし得なかった物語の始点を君は見つけたんだ」
「……お前の評価なんていらない」
「そう、残念だ。君となら一緒にやっていってもいいと思ったけどね」
モルドレルドが仮面を取った。元の姿に戻り、地に足をしっかりとつける。
「だったら今から、君は邪魔な存在になった。ベルというNPCは渡してもらうよ」
「……渡してたまるかよ」
「ははは、殺してでも奪い取るだけだ」
彼も腰に提げた鞘から剣を抜いた。それは細剣で、白く輝いていた。
対峙するお互いの間に、風が吹き抜けていった。
「お前は言ったよな? 緑アイコンを攻撃するとオレンジになると」
緑は通常プレイヤーだとすると、オレンジは人を傷つけたことがあるプレイヤーといったところだろうか。
オレンジプレイヤーには当然ながら色んな制約が加わるのは、なんとなく理解していた。
例えば安全地帯にはいれなくなる。そうなればショップや鍛冶屋などが使えなくなる。デスゲームにとっては、致命的な制約だ。
それが分かっているからこそ、モルドレルドも自分の手を汚さないで緑プレイヤーを保っているのだ。
緑だから攻撃できない。それはヒカルだけでなく、彼にも当てはまる。
「僕の心配をわざわざしてくれるのかい?」
「してねぇよ。俺とお前じゃオレンジになる重さが違うって言ってんだ」
ヒカルがオレンジになろうと、別にやりようはある。一人になれば良いことだし、安全地帯を利用しないで過ごす方法も仲間がいなければ考えられる。オレンジを解除するために、多大な時間もかけられる。
しかし、モルドレルドはどうだ。彼は仲間とともにプレイヤーたちを支配しようとしている。そんな人間がいっときにしろ自由が利かなくなれば、多大な影響力を受ける。
ヒカルは背負っているものがないからこそ、モルドレルドに剣を突き立てられる。
駆け出したヒカルの姿を見ながら、彼は笑みを浮かべる。
「盤面を理解できると自分を過信してるところが君の悪いところだ」
目の前に文字が浮かんだ。
『デュエル・スタンバイ』
同時にウィンドウが開かれた。
『お互いの敵意を認識しました。ハーフスタイルバトルを開始します。体力を先に半分削った方が勝ちです』
「……は?」
『この勝負での攻撃によるカルマ値は変動いたしません』
モルドレルドが剣を構える。踏み込んだヒカルの剣を避けて、そのまま腹部に突き刺した。
右下にある体力バーがゴリゴリと削られていく。
そのまま彼に右肩で押されて吹き飛ばされた。数メートル飛んだところで、攻撃された腹部に手を当てた。
血は出ていない。傷は塞がっている。体力バーは半分手前で止まっている。
「君、弱いね。まだレベル一桁といったところかい?」
剣を素振りするモルドレルドのアイコンは、緑色を保っている。
「……デュエルシステムの利用で、合法的に傷つける……か。狡いことするな」
「狡い? システムでは容認されてるし、色んなところでプレイヤーたちのデュエルは行われているよ? それこそ、チーム間同士での対立の解決方法でも使われている」
「……は、でもそんな生ぬるさに甘えて良いのか? デュエルじゃ俺は殺せないだろ?」
「君こそ、甘いんじゃないか? 僕がそんな生ぬるいわけないだろ?」
彼が地面を蹴る。それは人間の速さを超えていた。目で追うことができず、気がつけば目の前まで肉薄される。
「……っ!?」
攻撃を防ごうとして、間に合わない。
モルドレルドの剣先が頭部を貫いた。体力バーは半分を優に超え、止まることなく削れていく。
決闘を終える文字が浮かび上がっても、体力の減衰は止まらない。
「決着は半分減った時点で着くけど、体力は半分以下も行くんだよ」
緑のバーは黄色に変わり、赤に変わり、完全に消え去る。
「もちろんなくなれば、死んだ判定もされる」
その言葉を最後に、目の前が暗転した。
表示されたウィンドウメッセージが、ライフを一つ削ったことを示していた。




