第四十話
「そんなに身構えないでよ。別に怖がらせるつもりはない。今日はあいさつだけだよ」
町の外へと青年は向かっていく。その後ろを、ヒカルはついていく。
白い鎧を着た人間たちが、彼の顔を確認すると目を逸らした。あの偉そうだった人間たちが、そんな態度を取るなんて、彼はただ者ではないだろう。
「怖がらせるつもりがない人間の行動ではないよな?」
「あはは、そうかな? 僕と君は意外と分かりあえると思うけど」
石橋の途中で止まり、彼は振り返る。ずいっと顔を近づけられて、思わず身を引いた。
「君は、ゲームは何のためにする?」
その質問に考え、見つめ返す。
「なんで答えないといけないんだ?」
「釣れないな。君が答えてくれないなら、ベルのことをリークしてもいいんだよ?」
「……ちっ」
舌打ちしてから、か細く答える。
「楽しむためにある」
その答えを待っていたとでもいうように、満面の笑みを見せた。口の端限界まで釣り上げて、大きく笑う。
「何がおかしい?」
「やっぱり君は僕と同じ思想の持ち主だと思ってね」
一通り笑ったあと、彼は目尻にたまった涙を拭うような動作をした。
「最初から確認したときから思ったんだ。君はゲームを楽しんでる。このデスゲームでさえね。わざわざ物語のキーを秘匿し、少数が有利になるように動いた。普通なら、皆と協力して情報を出し合うところを」
彼は再びくるりと向き、歩き出した。
「デスゲームをゲームとして楽しむ。僕と同じ考え方だ」
彼が動き出したのに合わせて、ヒカルは背中を追いかけた。
「でも、ほんの少し、詰めが甘かったね。ゲームを楽しむならもっと気をつけないといけないよ」
「……何の話だ?」
「プリンアラモード。初心者だからと彼女の前で色々とバラしたよね?」
やはり。彼女と彼は繋がっていた。
「……彼女は一体誰だ?」
その質問を放った直後、彼は立ち止まった。
そこは町から少し離れた場所の草原だ。周りではウサギ型の魔物が顔を出していた。
「そもそも情報を独占したいなら、邪魔なものは殺すべきだよ。そんな中途半端だから、バレるんだよ」
「だから答えろ。彼女は誰でどこにいる?」
その言葉に彼は肩をすくめてから所持品から一つの画面を取り出した。ピエロの顔をしたそれは、不気味な笑みを浮かべている。
「『キラー・ミラー』。僕のチームが持っているユニークアイテムさ」
「……それが何の関係が」
その答えを示すように、彼は仮面をつけた。
彼の姿が一瞬にしてプリンアラモードへと変化した。それをみて、ヒカルは目を見開いた。
「ふふふ、驚いたかい?」
プリンアラモードの声で彼は語る。
「昨日の彼女は、僕の仲間の誰かさ」
「……それで、本物はどこにやった? まさか、殺したとか言うんじゃないだろうな?」
「そのまさかさ。この仮面をつけてる間は、死んだと分かっている人間に化けられるんだよ」
「……っ!」
今、目の前の人間は何を肯定した?
「何を驚いてるんだい? デスゲームを楽しむんなら、人を殺すのも楽しむべきだろ?」
「自分が楽しむために、他人を足蹴にしていいのか?」
「当たり前だよ。足蹴にし足蹴にされるからこそゲームってもんだろ?」
「それはゲームじゃない! ただの快楽装置だ!」
プリンの顔のまま、彼は残念そうに息をついた。
「同族だと思ったからわざわざユニークアイテムまで見せてあげたのに残念だよ」
「俺とお前が同族なわけないだろ!」
「果たしてどうかな? 君は怒りのまま剣を抜いてるよ? 僕は緑アイコンのプレイヤーだというのに」
彼の指摘に、初めて自分が無意識に剣を抜いていたのに気がついた。震える手で柄を握る。
「ふふ……ふふふ。どうするのかい? 僕を斬る? そうなると、君は名実ともに同族になるってことになるよ?」
「……っ」
「考え方が理解できないってだけで、邪魔な人間を殺す。それは僕の考え方と何が違うんだ?」
「違う……」
「違うくないね。君は今、自分が楽しむために僕を殺そうとしている」
「違う!」
剣を振った。彼は軽々しく避けて、ヒカルの足を引っ掛けた。
よろけてそのまま地面に転倒する。顔を上げて振り返ると、彼はプリンの顔のまま静かに見下ろしていた。
「今の攻撃。僕に当たっていたら、君はカルマポイントを貯めていたよ? オレンジプレイヤーになったら、どうなるか分かってるよね?」
それはつまり、彼はシステム上では普通のプレイヤーということになっている。
他人を利用し他人に殺させ、そして自分の手を汚さない。
他のプレイヤーをクズのように扱う人間に、ゲームを楽しむ資格はない。
目の前の怪物に向けて、聞いていた。
「お前は……なんだ?」
その言葉は、理解したくないからか恐怖からなのかヒカルにはわからない。
「僕? 僕はモルドレルド。ゲームが大好きなゲーマーさ」
しかし彼は飄々と答える。




