第三十九話
ヒカルたちはとりあえず最後にカイザーたちがプリンと別れたという商店通までやってきた。普通のプレイヤーたちが行き交い、楽しく買い物をしている。
ここでも白い鎧の人間たちを見かけて、思わずフードを目深にかぶる。
「聞き込みしてみるか」
「わかったっす!」
ミサキの明るい返事に続いて、サクラもコクコクと頷いていた。
果たして、有力な情報を手に入れれば良いのだが。少なくとも、あの時いたプリンが偽物なのだとすれば、とんでもない情報を漏洩している可能性があるのだから。
やはり、簡単に人間を信用するべきではなかった。最近、ミサキやサクラとともに行動していたからそのことをすっかり忘れていた。
尻尾を揺らしながら、近くのアイテム屋へと入った。
「いらっしゃいませ〜!」
響き渡る元気な店員の声。その顔は明るく、いつも通りの接客といった様子だ。
「すみません」
「あ、はい! どうしましたか〜?」
「プリンアラモードという冒険者を探してまして、何か知りませんか?」
その問いに彼女は顎に指を当てて考える。しばらくしてから、申し訳ありませんと返ってきた。
数店跨いで聞き込んでみたが、やはりあまり成果はない。そんなとき──
「その子なら昨日見かけたよ」
とあるプレイヤーが声をかけてきた。
薄ら寒い笑顔を浮かべている人間だった。金色の短い髪に、青色の瞳を持った背の高い青年だ。薄い絹の服の上に、金属製の軽鎧を纏っている。
「本当っすか!」
近寄ろうとしたミサキの手を掴んだ。彼女がどうしたのかといった顔でこちらを見てくる。
「お前は誰だ?」
そんな彼女の様子を無視して、ヒカルは青年を睨みつけた。
プレイヤーマークは緑色。プレイヤーネームは不明。
こんなときに話しかけてくるプレイヤーは、絶対にろくなことがない。そう、ヒカルの心の中で警鐘が鳴っている。
「選り好みしてる暇はあるのかい?」
見透かすような視線で、彼はヒカルを見下ろしてくる。彼女の尻尾が不安げに揺らす。
「人の生死が関わってるのに、情報を知ってるかもしれない人間から何も聞かず、見過ごすのかい?」
その言葉一つ一つで、心を剥がされるような気持ちになってくる。
喉を詰まらせ、拳を握る。彼を見上げ、冷静さを務めるように大きく息を吐いた。
「少なくとも、そんなことを言うような人間に聞くことはない」
「……そうかい」
ミサキたちを連れて、彼の横を通り過ぎようとする。そのヒカルの後ろからさらに声をかけてくる。
「なんだっけ、ベルだっけ? あのNPCはどうしたんだい?」
その言葉に、足を止めた。
何故知っているのか。振り返り、彼の顔を見る。
青年はにやけたまま、肩を軽くすくめていた。続きを話すなら、こっちに来いと言われているかのようだった。
「アキから聞いた……ってわけじゃないよな?」
「さぁ、どうかな?」
彼の気配に、ヒカルの尻尾の先が震えた。それに気がついたように、さらに笑みを深める。
「体は正直だね」
「……っ」
視線を泳がせる。靴の裏がジャリっと鳴った。
ミサキが不安そうにヒカルの服を握りしめてくる。サクラは隠れるように身を縮めていた。
「……ミサキ、アキを探してくれ。町からは絶対に出るなよ」
「な、なんでっすか?」
「何でもだ。とにかく、アキを探せ」
彼女たちが走って町の中に消えていくのを見送る。雑踏に消えていく後ろ姿を見つめた。
「二人から目を離して良いのかい?」
「お前と対峙させるよりはマシだろ?」
「はは、酷く嫌われたものだね。君は第一印象で人のことを決めつけるタイプかい?」
「第一印象を悪くしたのはどいつだよ?」
その言葉に、しかし彼は余裕の笑みは崩さない。
「別に僕は君に対して敵意を剥き出してないよ。ただ質問をしただけさ。プリンってプレイヤーの生死が関わってるのに選り好みしてる暇はあるのかいって。ベルってNPCは元気かいって
本当にただ、君に聞いてるだけだよ」
「そもそも!」
思わず大声が出たことで、自分自身びっくりした。口を塞ぎ、周囲のプレイヤーからバツが悪そうに視線を外す。
「そもそも、何でそのプレイヤーが生死関わってるって知ってるんだよ? 俺はただ、そのプレイヤーを見てないか、店の人に聞き回っていただけだぞ?」
その言葉にそれでも彼は余裕の笑みを崩さない。まるでそこを突かれるのが分かっていたとでもいうように。
青年はただじっと見つめる。そしてゆっくり口を開く。
「知りたかったら、僕についてきてくれるかい?」
さらにヒカルの尻尾が揺れる。
彼の瞳は、選択肢がないと言っているように見えた。




