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第三十八話

 ミサキとサクラを除いて訪ねに来る人物には心当たりがない。彼女たちは屋敷にいるのだから、ここに尋ねてこれるはずもなかった。


 いや、一人いた。アキだ。彼女なら朝っぱらから様子を見に来てもおかしくはない。


 喉をゴクリと鳴らし、拳を握る。尻尾の先が不安そうにピクリと動く。


 こんなところで身構えていても仕方ない。別に悪いことは何もしてないのだ。普通に応対して、普通に過ごすだけ。

 言い聞かせ、ドアに近づいた。


 ゆっくりと開ける。すると見覚えのある人間たちが目に入った。

 エルフの男と天使族の女性。確か、プリンと一緒にいたプレイヤーである。


「尋ねたいことがあるんだけど……大丈夫かな?」


 エルフの男はどこか不安げな表情を浮かべている。天使族の女性は、落ち着きなく羽を動かしていた。

 

「何を尋ねたいんだ?」


 何やら嫌な予感がする。これ以上踏み込んだらまずい、そう心の中で警鐘がなっている。

 それでも、無碍にすることができずに口を開いてしまった。


「……昨日からプリン──俺たちの仲間が見えないんだ。何か知らないか?」


 その言葉を聞いた瞬間、やはり聞かなければよかったと後悔する。



※※※※※※※※※※



 どのゲームにも、一緒に遊びやすくするために連絡を取りやすくするフレンド機能というものがある。当然このゲームにも搭載されており、プレイヤーたちは個人チャットを飛ばすのに活用したりしている。

 

 フレンドリストには、その人の名前が乗っている限り死んでいないということもわかる。逆にリストから名前が消えてた場合は──


「そんな嘘っすよね!」


 宿屋の一階にある会話用の個室。そこに集まり、何が起きたのか聞いていた。

 身を乗り出したのは、ミサキだった。

 

 エルフの男──『カイザー』は、俯いている。隣にいる天使の女の子──『猫宮』は顔を手で覆い震えていた。

 

 最初、ミサキが行方不明になったときとは明らかに違う。

 ミサキの場合はまだフレンドリストに名前が載っていたからサクラが一人で村の中を探し回っていたのだ。しかし、今回はプリンアラモードの名前は、彼らのフレンドリストから完全に消えてしまっている。


「プリンちゃんは……」


 サクラが口を開きかけたところを止めようか悩んだ。しかし、余計な隠し事をしたほうがややこしくなると、続きを促すように頷く。


「プリンちゃんは昨日は私たちと一緒にダンジョンに行ったのです」

「本当か!? それはいつ頃!」

「午後だな。帰ってきたのは夕方あたりだ」


 続けたヒカルの言葉に、カイザーの瞳は揺れる。ありえないとでもいうように首を横に振る。


「その時にはもうすでに……プリンの名前はなかった」

「なに? 見間違いとかではなく?」

「見間違えるもんか! 俺たちがどれだけ昨日探し回ったか!」


 その言葉にヒカルは眉根を寄せる。だったらあの一緒にダンジョンにいた子は誰だったのか。

 ミサキのほうを見ると、彼女も信じられないといった顔をしていた。


「なぁ、ミサキとサクラに聞きたい。あの子はちゃんとプリンだったんだよな?」

「は、はい!」

「間違いないっす!」


 彼女たちの返事に嘘が混じっているようには聞こえなかった。だったらカイザーたちが嘘の情報を言っている可能性もあるが……。

 いや、そんなことして何になると考え直す。


 いつもなら他人のことと無視した案件。しかし、今回は関わってしまった以上、放置して置くわけにはいかない。

 ミサキとサクラにアイコンタクトを送ると、彼女たちも首を縦に振る。


 ヒカルの尻尾は落ち着かなさげに縦に揺れ、床を何回も叩いていた。


「二人が最後にあったのはどこだ?」


 聞くと、猫宮が顔から手を外してポツリと呟いた。


「あなたたちにあったあと。ダンジョンレベ上げしようと、準備で少し別れた」

「その後二時間待っても帰ってこなかったんで、個人チャットで連絡しようとフレンドリストを開いたんだ」

「……そしたら消えていたと」


 確実にいたはずの人間が、システムではいなくなった扱いになっている。何かのバグかとも考えるが、それこそフレンドリストの表示が消えるバグはゲームとして成り立たなくなるからありえないと考える。

 ここの運営は少なくとも、ゲームの体裁は保っているというのだから。


「……わかった俺たちも探してみる」

「あ、ありがとうございます!」


 二人は泣きながら頭を下げた。他の友人にも頼んでみるということで、宿屋から出ていく。

 

「じゃあ手分けするっすか?」


 ストレッチしながら確認してくるミサキに、ヒカルは首を横に振った。


「放ってはおけないけど、三人バラバラになるのはやめよう」

「え? なんでっすか?」

「何か作為や悪意を感じるから」


 ヒカルが嫌そうな表情を浮かべる。

 どこか人間の汚い部分が見え隠れしているようで、彼女の尻尾は苛立たしげにまた床を叩いた。

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