第三十四話
魔物のラッシュを経験し、流石に学習したのかプリンは下手にβに手を出すことはなくなった。
そこからのダンジョン攻略は非常にスムーズに続き、ボス部屋までたどり着く。
現れたのは巨大な木の化け物。名前は『汚染されたウッドリーパー』。
その名前を見た瞬間、ヒカル、ミサキ、サクラの三人の動きが止まる。
「……なんや? どないしたん?」
「ここの敵ってずっと汚染されたってついてたか?」
「あん? ついてたけどそれがなんや? ここの周辺のボスエネミーは基本的にあの二つ名がついとるで。初心者村でも村長クエ受けてたら『汚染されたラウンドフォックス』と出会うやろ?」
そうか、周りにとってはこれが普通なのか。だからこそ、特段情報が降りてこなかったというわけだ。
「……やっぱり話は繋がってるすね」
ミサキの一言に同意するように、サクラが何回も頷いていた。
「つまり、ここら一帯は泥の主の縄張りってところか」
これはもしかしたら、もっと細かく情報を集める必要が出てきた。正直な話、茨の城どころの話ではない。
魔物はこちらを見つけると、大きな叫び声を上げる。頭を振ると、泥がとんできた。
その付着した地面は、煙を上げて溶ける。
「あうあうあう……」
プリンがダガーを握りながら涙目になっていた。
「これを一人でクリアしようとしてたんだな……」
「あう……無理なの」
「ま、臨時とはいえ今は俺たちもいるから安心しろ」
ミサキにアイコンタクトを取る。彼女は矢を二発ほど放った。注意が向いた瞬間、ヒカルが懐にはいる。
幹の部分を斬り上げて傷つける。紫色の液体が、血の代わりに噴き出した。
痛みで呻くように大きな咆哮が鳴る。頭の葉っぱにいくつもの赤い実が成った。
そのことを見逃さなかったヒカルは、弾く瞬間に赤い実を一つ潰してみる。周囲に緑色の煙が撒き散らされ、ボスの動きが弱まった。
「毒やな。あれをつぶすのはオススメせんで? 近づけんなる」
「……いや、それはおかしい」
「何がや?」
プレイヤーへのデバフだけならば、ボスの動きが弱まる理由がわからない。しかし確実に、微細ながら動きが緩慢としている。
「ミサキ! もう一個つぶしてみてくれるか!」
「簡単に言ってくれるっすね!」
それでも彼女は正確に一つ射抜いた。さらに絶叫を上げて動きが鈍る。
やはり何かある。弱点とまではいかないものの、何かしらが仕込まれている気がする。
「わ、私も頑張るの!」
飛び出そうとしたプリンの後ろ首を、サクラが掴んだ。手をジタバタさせている彼女に、彼女は苦笑する。
「プリンちゃんは私と一緒にいるのです」
「え、えぇなの!?」
「見ててくれるだけでいいのです」
サクラに心の中で賞賛を贈ってから、ヒカルは改めて『汚染されたウッドリーパー』を見つめる。
魔物の顔がより凶悪に引き裂かれていた。苦しそうなうめき声を上げるそれは、変化前の何かを予兆している。
毒の霧に当たらないように気をつけながら、ヒカルも肉薄する。攻撃を躱しながら、一つ、二つと潰す。
ミサキも援護するように矢を放って潰していく。
最後の一個を潰した時だった。『汚染されたウッドリーパー』は、今までよりも一番甲高い大きな声を上げた。
『背信者ベルが近づいています』
そのメッセージウィンドウが出た瞬間、ヒカルは「退避しろ」と叫んだ。
振動、轟音。土煙の先に、先ほどまでいた魔物は消えていた。代わりに、あの屋敷のメイドが立っている。
「また、私の邪魔をするつもりですか?」
懐かしのメイド長に、ヒカルが乾いた笑いを漏らした。
「やはり繋がってたか……」
「なんやこれ? なんなんこれ?」
アキがわからないといった顔をしていた。
「……過去に実を全部潰したパーティーがいたけど、こんなん出なかったで?」
「あー多分それは前提条件を満たしてなかったからだな」
「……何か他にフラグがあるってことかいな?」
「ま、簡単に言うとそうだな。ただ、悠長に話してる暇は無さそうだけど」
ベルを見やる。彼女は大きくため息をついて、肩を落とした。
「屋敷でも邪魔して、ここでも邪魔して……本当に迷惑な人間たちですね」
「他人を利用しないといけていけない奴がよく言うな」
「あいつは他人を利用しないと勝てないからです! うまく欺いていたのに、屋敷の失敗のせいですべてがボロボロだわ……」
頭を抱え嘆くベルの様子に首を稼げた。
「……まて、お前は泥の主の仲間じゃないのか?」
「何を言ってるの? 私は泥の主に取り入って、奴を殺すものよ」
その言葉が、ヒカルの中で構築していたすべてのピースが分解した。




