第三十三話
「いーやーなーのー!」
魔物の群れを突破して少ししたところで、ダンジョン中に響く大きな声。何事かと身構えると、前方から獣人の少女が、泥をまき散らしながら走ってきた。
見たことあるなと思えば、町であった3人組のうちの一人だった。
犬耳と尻尾を慌ただしく振っている様子は、何かから逃げているように見える。
「プリンっす!」
どうやらそれが彼女の名前らしい。緑色のプレイヤーマーカーの横に『プリンアラモード』と書かれているのを確認した。
ダンジョンで追われているとなると予想できるのは二通り。魔物かプレイヤーキラーだ。そしてこのダンジョンの構造上──
大量の『ウッドリーパーα』が後から現れて、大きなため息をヒカルは漏らした。
「ぷ、プリンちゃんを助けるです!」
「もちろんっす!」
二人が乗り気で向かい撃っていく。残されたヒカルは、アキに横目で見られた。そんな彼女の表情は、かなりにやけてる。
「で、あんたはどないするん?」
そのムカつく表情に後押しされながら、ヒカルは剣を抜く。
大量の魔物は、協力して倒すことができた。やはり多対戦を想定しているのか、一体の強さはそこまででもない。
サクラが杖を振りかざすと、体力が回復していく。
「……あ」
その後すぐに彼女は小さく声を漏らした。
「魔力が切れたのです」
「マナポーションは残ってるっすか?」
「一応まだまだあるのです」
サクラは所持品から紫色の液体が入った瓶を取り出すと、飲み始めた。
二人のやり取りを横において、ヒカルは泥沼にも関係なく膝から崩れ落ちているプリンを見る。彼女は呼吸を整えるように、ゆっくり肩で息をしていた。
「それで、何があったんだ?」
尋ねると彼女は顔を上げ視線が合った。
「ひ! 悪魔なの!」
後方に逃げられて、思わず眉間に皺を寄せた。ヒカルの尻尾が不満げに左右に揺れる。
後ろからのアキの大爆笑に、睨みつけた。彼女は関係ないとでもいうように、口笛を吹くフリをする。
「あー私が話を聞くっす」
「み、ミサキちゃんなの!」
「プリンやっほーっす……で、何があったっすか?」
「わ、私もいつまでも仲間に頼りっぱなしじゃダメだと思ったの……。だから、一人でダンジョン攻略しに来たの!」
そして『ウッドリーパーβ』を倒してしまい、ワラワラと魔物を引き連れてしまったという。
そして、あわや魔物を引き連れてプレイヤーにこすりつけるトレイン行為紛いなことになってしまったというわけだ。
「……言ったら悪いが、多分一人でやるには向いてないと思うぞ?」
「あ、あうう……」
「そ、そんなことないっす! 私だって罠に引っかかりまくってるから大丈夫っすよ!」
「ミサキちゃん……それ、慰めになってないです」
笑い合う中で、プリンはゆっくりと立ち上がった。モジモジしながらも、頭を大袈裟に下げる。
「こ、こここんなことを言うのもなんですが、一緒にダンジョンクリアしてほしいの!」
どうするという視線がヒカルに集まる。
ここで関わってしまった以上、見捨てるのも違うなということで同行することを許した。
「ありがとうなの!」
その笑顔は儚い可愛さがあった。
「しっかし、このダンジョンを一人でなぁ……」
「アキ、何か問題でもあるのか?」
歩き始め、前を行く三人を見つめながら口を開く。時たま泥に足を取られるのを顔をしかめた。
「いや、あんたみたいに情報知ったら面白ないって馬鹿ならまだしも、しばらくあの町で過ごしてきた人間ならわかると思うんやがなぁ?」
「このダンジョンのギミックか?」
「そやそや。少なくとも、一人で行かせるような真似はうちはせんな」
考え、しかしあり得ない話でもないとも思う。
何も調べ物をせずにダンジョンに突入してしまう人間は往々にしてある。そして昔から、そういう人間たちは一塊に集まることも多い。
プリンの仲間もここのダンジョンの構造を理解していない可能性だってあった。
「またβが出たっす!」
そのミサキの言葉を発した頃には、プリンがダガーを振り下ろして倒してしまっていた。
「や、やったの!」
喜ぶプリンを四人は無言で見つめる。その一秒後に、再び魔物の絶叫が響き渡った。
「だからβは倒しちゃだめって言ったっす!」
「え、えぇ!? そうなの!? 知らなかったの!」
「せ、説明したです〜!」
絶叫に引き寄せられた魔物たちが再びワラワラ集まってくる。ヒカルは大きく肩を落として、また剣を抜いた。
「……やっぱりあれはそういったプレイヤーだろ」
「……いわゆる、トロールプレイヤーって奴やな」
アキの言葉に賛同しかけて、頭を振った。
「いや、そういう人を見下す言い方は俺は好かん」
「お、聖人ゲーマー」
「野良の良し悪しも楽しんでこそのゲーマーってもんだからな」
それよりも今は、この状態を切り抜けるのが優先だ。




