第三十一話
「なんやなんや? 攻略に行ったんちゃうんか?」
ギルド役場で座っていると、アキが意地の悪い笑みを作りながら近寄ってくる。
「……よく言うよ。わかってたくせに」
「まぁそりゃそうや。で、依頼は断念するんか? うち的には別にそれでもええけどな」
「いや、依頼は継続する。ただ、俺たちの下地を整える必要があると思ってな」
「……ま、妥当やな」
このゲームはある程度はプレイヤースキルで埋められる。しかし、それにも限界がある。
あまりにもレベルやステータスがかけ離れていれば、攻撃は与えられないのだ。それでも『茨の剱』ならコツコツと体力を削れるが、今の状況でそんな切り札を持ってることを知られたくない。
当然その知られたくない対象にはアキも入っている。
「で、どのダンジョンをクリアするんや?」
「普通に昔からあるやつだな。新ダンジョンは攻略勢の巣窟になってるだろ」
ミサキとサクラのほうを見ると、彼女たちも納得するように頷いていた。
そんなとき──
「あれ、ミサキ?」
突如聞こえた声。その声に反応するように、ミサキがそっちに向いていた。
ヒカルもあとに続くように声のした方へと見やる。
それは三人のプレイヤーだった。
一人目は軽装鎧を身に着けたエルフ耳の男性。二人目は少し薄着の小柄の獣人の少女。三人目は天使族の羽とヘイローを持った杖の女性。
三人の装備を見る限り、初心者村から出てきたばかりのように見えた。
「お、元気にしてたっすか?」
ミサキは満面の笑顔を見せると、エルフの男性も嬉しそうに笑う。
「おう、ミサキの方も初心者村を出ることにしたんだな。サクラがいるから、出ないって言ってたのに」
その言葉にサクラは少し縮こまり、申し訳なさそうに頭を下げた。
ミサキとサクラが楽しそうに喋り始める様子を見て、ヒカルはアキの顔を見る。彼女はヒカルの意図を汲んだのか、首を横に振った。
「知らん顔やな。少なくとも、攻略勢の中にはおらんで」
「……そうか」
「心配性やなぁ」
「どこから情報が漏れたり、敵が現れたりするかわからんからな」
その言葉にアキは納得するように頷く。
「ま、同意やな。一応彼らの所在について調べておこうか?」
「いやいい。お前のことも信用してるわけじゃないから」
尻尾を揺らしながら睨むと、アキはいたずらっ子のような笑みを見せた。チラリと覗く牙が、獣人性を物語っている。
「慎重なのは良いことや」
「そもそも慎重にならざるを得ない今の状況が異様なんだけどな」
「そりゃそうや。……といっても、モルドレルドが動かなくても時間の問題やったと思うで?」
悔しいが、アキの言うとおりではある。
このゲームはいくらデスゲームだとしても、十万の人間が囚われていれば色んな人間がいるのだから。
遅かれ早かれという言葉は、まさにそのことだろう。
だからといって、モルドレルドのしたことを正当化するつもりはないが。
「ま、少なくともプレイヤーキラーどもも興味があるのはあんたか上位のプレイヤーだけやから安心しいや」
「安心はできねぇよ」
「ははは、そりゃそうや!」
そんな話をしていると、ミサキとサクラが戻ってきた。
「もう良いのか?」
「っす。あの三人は普通のプレイヤーっすから」
「わ、私たちが初心者村にいたときによく一緒になってた人たちです。今の私たちと一緒にいるわけにはいけないです」
どこか諦めたような二人の表情に、なんとも言えない気分になった。ヒカルの尻尾が気持ちを現すように垂れ下がる。
「といっても、別にずっと会えないわけじゃないっすから」
ミサキは笑顔で言ってから、ヒカルの隣に座った。その後へ続くように、サクラが近寄ってくる。
普通の女の子たちのような振る舞いに、自分の意思じゃないにせよ巻き込んでしまったんだなと思う。だからといってそれを口にしたり謝ったりはしなかった。
謝ったところで、ミサキもサクラも自分たちが選んだんだと答えるだろうから。
「で、どこにするっすか?」
尋ねられて、並べられたダンジョンの名前を見る。どれも名前からは想像つかないほど普通のものだ。アキからの情報でも、過去に何か特別なものが見つかったという報告はない。
「ま、戦力上げが目的だし、適当に回るか。行ってみないことには分からんこともある」
その発言に、二人は素直に頷いた。
「ほんなら、うちも連れてってや」
「アキはチーム活動があるだろ」
「今のうちの担当は、あんたらの動向を探ることやで?」
その顔には、退かないと書いてあるように見えた。彼女の目を見て、大きくため息をつく。




