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第二十九話

「今、あんたたちの状況を説明するとな、最大のチームと最低のチームがあんたを取り合いを始めたってところや」


 アキは淡々と告げる。


「いやぁまさか驚いたで? まったくマークしてなかった初心者村にこんな隠しがあるなんてな」

「ゲームの情報屋を名乗るなら、リサーチと繰り返しのハムスター作業は基本のきだろ」

「いやはや面目ない。うちらは、攻略組や中間層に安全な情報を提供することを売りにしてたんや……でも、それも状況が変わった」


 七柱が動き出したという全体通知。それに伴って、競争を激化しようとしてする勢力も現れ始めた。

 つまるところ、プレイヤーのほとんどが本格的に動き出したということだ。わかっていたこととはいえ、実感させられるとやはり少し焦りというものが出てくる。


「それで、うちはそのなかで一番大切なのは情報やと思ってるんや」

「……そうだろうな」

「皆が協力する時間は終わったとなると、うちらも出し抜くしかないやろ?」

「それで、俺たちに目をつけたわけか?」


 アキはその言葉に頷く。しかし、その表情はどこか渋いものだった。


「胸を張ってうちらの成果やと言いたいところなんやけどな。正直なところ、出し抜かれたのは事実や」


 先に情報をつかんだのが、その過激派のチームだということからも、完全に後手に回った自覚はあるんだろう。

 それでもと彼女は目を輝かせた。


「初心者村からどうやってここまで見つからずに来たかは知らんけど、一番最初に接触したのはうちや。どうや?」

「どうやって言われてもな。俺らにはなんの得になる話になってないぞ? 警告してくれるのはありがたいけどな」


 確かに、殺されたり捕まったりするのは本望ではない。そんな毎日に曝されるのも、望んでいない。

 特にサクラは気が気でない毎日を送るにはあまりにも精神が弱すぎる。

 しかし、彼女との協力関係を結ぶにしてはあまりにも向こうのカードが弱い。


 情報をよこしてくれる? それならこっちで自力で調べる。

 動きを教えてくれる? それなら見つからない方法を探すまでだ。


 アキはそんなこともわかっているとでも言うように大きな笑みを作った。


「うちから提供するのはこれや」


 見せたのは赤い液体の小瓶だった。それは先ほど、瞬間移動を作り出したものだった。


「……なんだそれは?」

「うちら『ブック・リスター』だけが持ってる古代術式が込められたアイテムや。これ一本あれば、好きな場所に繋げられるで」


 例えば、どこにも繋がってない家の中。人が中々来ない密林の奥。そんなところを一度訪れてさえすれば、移動できる。

 ワープポイントのないこのゲームでは明らかにアドバンテージになるアイテムだった。


「先乗り特典で手に入れたものやな。いわゆる、ユニークアイテムや」

「……それを何で俺たちに?」

「言ったやろ? 協力関係を作りたいって。このゲームをクリアするのは、競争でも殺し合いでもなくどれだけ出し抜けるかや。その中であんたは必須。そんな人間を殺したり監禁したりするのはもったいないやろ?」

 

 アキが誘ってくるように小瓶を揺らす。中の赤い液体が誘ってくるように揺れた。

 

「見返りは?」

「かー! お硬いなぁ! うちらはただ、このゲームから一刻も早く出たいんや。そのために、あんたに賭ける言うてんねん」


 アキ曰く、他のチームはもうクリアどころではないという。どこもかしこも優位に立とうと必死だ。こうなってしまっては、ゲームのクリアは遠退くだろう。

 ヒカルとしてもそれは憂慮する事態だ。治安が悪化すれば、邪魔も大きくなってくる。

 そうなると彼女と手を組むのは悪くないように思える。

 

 しかし──


 まだ渋っていると、小瓶をしまって彼女はずいっと顔を近づけた。


「だったら、こっちから一つお願いするわ。それならあんたも心置きなくうちらと協力関係を結べるやろ?」


 ただより怖いものはない。その心理を逆手に取るように、先に相手の要求を提示する。

 分かっているなと、彼女のことを心の中で評価する。


 ヒカルはミサキの顔を見た。彼女は面白そうと頷く。

 桜の顔を見た。彼女はヒカルさんの決めたことならと怯えながら頷く。


「で、なんのお願いをするんだ?」

「お? 条件飲んでくれるか?」

「そのお願い内容次第だ」


 その言葉に、彼女はまた「硬いなぁ」といって肩をすくめる。


「実にわかりやすいお願いやで。あの通知のあとにできたこの町の近くにあるダンジョンやけどな。一つだけまだ入れてすらいない奴があんねん。そこのクリアを手伝ってくれることや」


 屈託のない笑顔を見せた。アキの尻尾と耳は、ヒカルたちの反応を待っているかのように揺れている。

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