第二十八話
第二の町──『パアル』。初心者村とは打って変わって、一気に開ける。
流通もあり、攻略勢も常駐している。すべての拠点となる場所は、さまざまなプレイヤーが行き交う。
そのことを想定しているのか、NPCの数も多くいる。
ヒカルは尻尾の揺れをできる限り抑えながら、町並み観察した。これぞオンラインゲームの醍醐味だというにぎわいに、少し心を躍るのはゲーマーとして仕方ないことだろう。
「やっぱりここにもいるっすね」
通りを一緒に歩くミサキが、二本の剣が交差する紋章の旗を見つけて言い放つ。
曰く、最大攻略チームの『クロス・オーソード』。直訳すると、交差する誓いの剣といったところだろうか。安直なネーミングだが、これくらいのほうが覚えやすいだろう。
白色で統一された鎧は、街の中でも異様さを放っていた。本拠地はもう少し先の最大都市にあるらしいが、この町にも彼らの拠点があるという。
町のプレイヤーから聞き込みしている様子を見ると、わざわざ関わる気にはなれない。自然を装って、ミサキとサクラとともに道を変える。
「あんた、今逃げたよな?」
最初、その言葉は自分に向けられたものとは思わなかった。
「あんたやあんた。そこの悪魔族のあんた」
次に、目の前で猫耳の少女が立っていたことで、ようやく自分のことだと理解する。
彼女は黄色い猫のような目を向け、茶色い尻尾を揺らしていた。笑顔を向けてくる彼女の口の端からは、牙が覗いている。
「……人違いじゃないか?」
「人違いやあらへん。数日前に突如現れた初心者。開始から一ヶ月間はどこにいたかは分からへん。名前はヒカルで、一昨日初心者村から出てきたプレイヤーやな」
その言葉に、ヒカルは足を止める。
「そっちの二人はミサキとサクラやな。仲の良い二人組で有名や。ミサキの方はちょっと行方不明だったときがあるらしいけど、元気そうでよかったわ」
ミサキとヒカルはその言葉に息を呑んだ。
ヒカルはゆっくりと彼女を睨む。その視線を受けて、猫の少女は笑みを崩さない。
「そんな怖い顔せんでええ。別に取って食おうとしてない。うちはちょっとあんたらを助けてやろうと思ってるだけや」
「……その必要はない」
「ふーん。だったらあんたらは殺されるか保護という名の軟禁に会うかのどっちかや」
その言葉に、ヒカルは眉根を寄せた。
その表情も気にすることなく、彼女は遅ればせながらと続ける。
「うちはアキサカナ、『ブック・リスター』のメンバーや。どうかアキって呼んでや」
※※※※※※※※※※
アキのあとに続いて、路地を歩く。入り組んだ道の先には、一つの扉があった。
「入ってくれや。別に何もあらへんから」
彼女の言う通り、入ってみると六畳一間くらいの大きさの部屋だった。家具もなければ窓もない。
「こんなところで何しようっていうんだ?」
「そんな警戒心剥き出しにせんでもええねん。うちだって結構ギリギリの綱渡りしてんねん」
「……何をだ?」
「他のチームを出し抜くのも楽やないってことや」
アキが所持品から何かの赤い液体が入った小瓶を取り出した。
それを床に垂らして円を描き始める。
直後のことだった。路地の奥から人影が数人見える。開けっ放しのドアを囲んで目が合った。
「いたぞ、取り囲め!」
あまりの状況の変化に、サクラが目を白黒させている。ミサキでさえ、ついていけてないようだった。
「……なるほど」
ヒカルは肩を落とすように息をついた。
つまるところ、自分が物語を動かしたことを一部に知られてしまった。それも、少し過激なところから。
「あんたはどっちだ?」
「少なくとも利用しようとはしてるで?」
アキが最後の一滴を垂らす。すると、地面の液体が淡い光を浴び始める。
「クソ、逃がすな!」
彼らが手を伸ばした瞬間、目の前の景色が変わった。
周囲を見ると、書庫のようなところだった。本が積まれ、少し埃っぽい。
ミサキが興味津々で本に手を伸ばして、静電気にでもあったようにす顔を顰めて手を引っ込めた。
「注意してや。そこらの本は全部大切なものやから、チームメンバー以外が触ると感電するで」
ミサキが涙目になりながらアキを見ている。隣にいるサクラは呆れるように苦笑いを見せていた。
アキは気にすることなく、唯一の机に座る。
「それで、ここはどこだよ?」
「ここは、『ブック・リスター』の秘密基地や。普通は来られへんところやで?」
光栄やろ? とでも言うような顔には、ヒカルの質問の意図をわざと外しているように見えた。
「まぁ、あんまり肩肘張るなや。うちは協力関係を結びたいって思ってるんや」




