第二十六話
七柱と聞いてイメージするのはなんだろうか。
ゲームの中でよく使われるモチーフは、七つの大罪といったところか。
ベルフェゴールはそのど真ん中の名前、バエルはベルゼブブの別名。もしそれがかかっているのだとしたら、他の七柱も全員それの系譜の可能性が高い。
ヒカルは宿のベッドに寝転び、不服そうに息を吐く。
村の外から聞こえるのは、いまだにやまないプレイヤーたちの声だった。
あのあと屋敷からは魔物が消え去っていた。ベルの姿もなく、正面玄関からも出れた。どうやら、一旦は撤退したようだ。彼女とはまたどこかで会う可能性もある。
それから戻った村のプレイヤーたちは混乱していた。なぜなら最後の一文が他のプレイヤーにも伝わってしまったからだ。
誰かがこの世界の物語を動かした。それはきっと攻略勢の目にもとまり、トップを走っていたつもりの人間たちも目の色を変えるだろう。
ここで予想できるプレイヤーの動きは、一つ目は七柱について調べ始めること。二つ目がこの物語のトリガーを誰が引いたか確認すること。三つ目がより安全な地帯にこもり始めること。
いずれにしても競争が必至な世界になってしまった。プレイヤー間の戦争は、もっと激化していくだろう。
「あークソが。迂闊だった」
開発者は待っていたのだ。誰かが引き金を引く瞬間を。
そのための三ライフ制という猶予だ。最初から、お互いを争わせるように設計されていたのだ。
まず多くのプレイヤーが探し始めるのは、ヒカルの存在だ。当然、こちらから言わなければバレるようなことはないだろうが。もしもということがある。
もしバレてしまったらどうなるか……。
保護という名目で囲い込みが始まる?
プレイヤーキルをちらつかせてでも、情報を取りに行く?
最悪愉快犯から真相とともに葬られる可能性すらある。
非常にまずいことになったとため息をつかざるを得ない。
幸い、パーティーメンバーのミサキは状況がわかるのか口を滑らせることはない。むしろ彼女は言わないだろう。サクラも自分が怖い目に遭う選択はしないだろう。
それでも、やりきれない気持ちが、心の中を渦巻いていた。
とりあえず落ち着くかと、ベッドの上にあぐらをかいた。後頭部をかいて肩を大きく落とす。自分はリラックスしてると言い聞かせる。
そんな彼女の尻尾は、忙しなく左右に動いていた。
所持品を開いて、手に入れた剣を選択する。
『茨の剱。夫婦の盲信ともとれる愛は遅効性の毒となる。これに刺されたものは、少しずつだが確実に死に至らしめることができる』
つまるところ、毒効果を付与できる剣ということだ。傷ついただけでも、致命傷になり得るユニーク武器といったところだろう。
続く説明にはこう書かれている。
『第七の柱の喉元に喰らいつくための剣。唯一の弱点になり得る。ただし、今の状態では弱すぎて使えない』
つまるところ、設計者はこう言っている。
特攻武器をお前にやるから、これを強化していけと。実に上から目線で腹立たしいことだ。
しかし、何も手がかりがないよりはマシかと割り切るしかない。いずれにせよ、情報のアドバンテージがなくなった今、他のプレイヤーと違って有利な点はこの剣の存在しかないのだから。
ノックの音が聞こえて、ヒカルは剱を所持品にしまった。
返事をすると入ってきたのはミサキとサクラだった。彼女たちには外の様子を見てきてもらっていたのだ。
「それでどうだった?」
あれから数時間は経っている。それなりの変化は起こっているだろう。
「見知らぬ人が何人かいたっすね。見覚えのある旗を掲げてはいたっす」
「け、剣を重ねたような紋章です」
「多分あれは攻略勢の中で今一番人を集めているチームっすね」
そりゃそうなるだろうなと大きくため息をつく。
人がいるところはまず人海戦術に打って出る。今行けるすべての街や村に人を派遣することだろう。
この初心者村にまで派遣してきたということは、そのチームはかなり大規模なものになる。
「プレイヤーキラーに攻略勢……。気分は四面楚歌だな」
「あはは、まさしく言い得て妙って奴っすね」
「笑えねぇよ」
本当に笑えない。心の中で大きくため息をつく。
この村から出るのも難しくなったといったところだ。今動き出せば、目立つことは間違いない。今この初心者村から出ようとする人間なんて、何かを知っていると思われる。
しかしだからといって、停滞している時間もないと来たものである。
まさしく手詰まり。そう考えた時に、まだ所持品に残っているあるものが目に入った。
それは下水道に入るための鍵だ。そう言えばこの鍵を持っているのは、自分だけだったことを思い出す。
「なぁサクラ」
「は、はいです?」
「下水道ってまだ隅々まで調べてないよな?」
「は、はいです。あのときはネズミの大群に追われてましたです」
その言葉を聞いて、行ってみる価値はあるかと考える。




