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第二十五話

 寝室のドアを開けると、一つ目の魔物が飛んでいた。小型のイービルアイと思しきそれは、ヒカルの姿を確認すると奇声を上げて突進してくる。慌ててドアを閉じると、大きな物音が鳴った。

 やはり屋敷内は化物の巣窟となっていた。


「どうしたんすか?」


 眉根を寄せるミサキに、ヒカルは視線を彷徨わせる。諦めて、肩を落とした。


「なんかダガーかなんかないか? あったら貸してくれるとありがたい」

「えーー? 仕方ないっすねぇ? これは貸し一つっすよ?」


 彼女は明らかに調子に乗った笑顔を見せる。その顔を見て、だから頼みたくなかったんだと内心で舌打ちした。

 そんなミサキの顔を見て、さくらが彼女の手を掴む。


「ミサキちゃん! 恩人にそんなこと言わないのです!」


 そのサクラの瞳は真剣そのもので、ミサキの笑顔は崩れた。ミサキは唇を尖らせてチェッと呟いた。そのまま所持品を開くと、ダガーを一本渡してくれる。


「言うて代用のあまりもんっすけどね」

「それでもないよりはマシだ。助かったよありがとう」

「まぁ、ヒカルさんのおかげで助かってるすし。特別シナリオも体験できてるっすし、ちょっとした恩返しってことで」


 その言葉を聞いたサクラは満足げに頷いていた。

 この短いやり取りからでも、ミサキとサクラの普段の関係性が伺いしれた。本当に仲の良い友達同士なのだろう。


 ヒカルがノブに手をかける。ミサキを見ると、彼女は弓に矢をつがえていた。サクラを見ると、彼女は震えながらも口を引き締めていた。

 心の中でカウントしながらドアを開け放った。一斉に飛び出し走る。


 浮遊するイービルアイたちの奇声が木霊する。ミサキは正確に一体一体を矢で落としている。ヒカルは正面から飛んでくる奴だけを正確にダガーで迎えうった。


「どこを目指すっすか!?」


 また新たな一体を撃ち落としながら、訪ねてくる。


「多分寝室だな」

「なんで分かるっすか!?」

「こんだけ魔物だらけでも屋敷の主が出てきてないんだぞ? 寝てるか地下に閉じ込められてるかのどっちかだ」


 そして地下で捕まっているのなら、村の外に何かしらの手がかりを残していてもおかしくない。それがまったくないということは自ら閉じこもっている可能性のほうが高い。

 

 それなら先にどこに入り口があるか分からない地下牢よりも、大体の構造が分かる寝室を目指したほうが良い。そこにいなかったとしても、一番の脅威であるベルは今この屋敷にはいないのだ。


 怪しい部屋を片っ端から開ける。そのうちの一つを開けると、息を呑んだ。


 花が咲いていた。ベッドを侵食するように大きな赤い花が。美しく咲いたそれは、暗闇のなかで光っていた。

 茎の部分では二人の男女が抱き合っている。体のすべてが侵食され、動かない。その二人が村長の娘夫婦だということはすぐに分かった。


『誓いの花︰悪魔に永遠を誓った夫婦の末路。永遠の力を手にした代わりに、周囲に汚染をばらまく花となる』


 まさしく、力の代償ということだ。


「きれいです……」


 サクラが思わず呟き、彼女は口元を抑えた。ミサキはそんな彼女を見て、肩をすくめていた。


 ヒカルは近づく。するとウィンドウが再び出現した。


『生かすも殺すもあなた次第。この選択によって、少し世界は変わります』

「“少し”世界が変わる? 世界が変わるのに少しも大きいもないだろ」


 女性と目が合った気がした。彼女は助けてと訴えかけている気がした。

 ヒカルはそんな夫婦の間を裂くようにダガーを突き立てる。


 響き渡るは、金切り声。それは部屋全体を揺らし、何かを警告しているように聞こえた。

 ヒカルはそのことを気にすることなく、夫婦の仲を裂くようにダガーで茎を斬り落とした。


『永遠の誓いは失われました』


 そのウィンドウが示す通り、夫婦は二つに裂けた。目からは赤い涙を流し、こちらを恨んでいるように見える。


「仮初の生活は楽しかったか?」


 その質問に夫婦は答えない。ただ、部屋を揺るがすほどの叫び声を上げ続けるのだった。


 しばらくして、声は収まる。赤い花は枯れ落ち、そこには寝室という普通の空間だけが取り残された。


『クエスト︰力の代償をクリアしました』

『報酬︰茨の剱を手に入れました』

『村の汚染は止まります』

『第七の柱、泥の主ベルフェゴールの好感度が下がりました。以降、あなたは第七の陣営から狙われることになります』

『第一の柱︰バエルが賞賛を送っています』


 ウィンドウの数々が、一つのシナリオが達成したことを告げる。

 そして最後に現れたウィンドウが、新たな物語を告げていた。


『全体通知︰七本の柱が本格的にスタートします』

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