第二十三話
剣戟が飛ぶ。蜘蛛型の魔物は鎌になったような前足をすり合わせてから、飛び上がってくる。
ヒカルは弾き飛ばし、隙を見て倒していく。
死角から飛んでくるそれは、後方のミサキが的確に矢を当てる。
蜘蛛たちの名前は『汚染されたサイススパイダー』その名の通り、汚染液を飛ばしながら鎌になった前脚で襲ってくる。
避ければそこらに咲いている花を刺激し、花粉を飛ばす。さらにその花粉は汚染されている魔物たちには効果がないようだ。
ここのダンジョンにも、設計者のいやらしさが出てくる。
花粉に当たらないように気をつけながら、最後の一体を斬り飛ばした。直後、レベルが5になったことを報せるウィンドウが表示される。
一息ついて、剣を一度収める。
「やっぱり普通のダンジョンと違って敵が手強いっすね」
弓をしまいながらミサキが息をついた。近くの花から花粉が飛んできて、慌てて彼女は離れる。
サクラは少し体力が削れたヒカルのことを回復してくれた。彼女も少しずつ自分の判断力がついてきたようだ。ありがとうと言うと、サクラは無言で何回も頷いてくる。
ダンジョンの敵は、下水道のように大量にはわかない。しかし、一体一体は強く、中々思うように進まない。何よりもダンジョンの花によるギミックが厄介である。
いずれこういうようなギミック付きのダンジョンが出てくるというのはわかっていたが、こんなに早く来るとは思わなかった。
厄介なのは、痺れ花粉。これは少しでも身体に付着すると、痺れのデバフがついてしまう。まだヒカルやミサキが痺れるのは良いのだが、サクラがかかってしまえば終わりだ。
情けないなとヒカルは心の中で愚痴る。一人で攻略しようと意気込んではいたが、今ではサクラやミサキの力を頼りにしてしまっている。時間をかければ一人でもクリアできるかもしれないが、それだと時間がかかってしまう。
ヒカルはアニメや漫画のような一人ですべてを解決できてしまう無双型ではないのだと思い知らされる。
「……素材も集まらないっすし」
ミサキは倒した蜘蛛を剥ぎ取ってみるが、首を横に振っている。
見せてもらうと、使い物にならないものばかりが取れていた。サクラにも剥がせてみたが、結果は変わらない。
つまり、このダンジョンはそういった用途では作られていないということが示されている。
「ただ、クリアするためだけにあるダンジョンか……」
本筋を隠しているくらいなのだ。ただクリアさせるためだけにダンジョンが作られていても何ら不思議ではない。むしろわざわざ手間をかけて設計しているあたり、開発者の本気度が伝わってくる。
だからといって、素直に褒めれるわけではないのだが。
普通にゲームを作れば、初の仮想空間型のゲームとして世界を獲れたはずの技術だ。しかし、それをしなかった。
ヒカルはそこに憤りを感じる。
彼らはゲーム文化を冒涜したのと変わらないのだ。
少し考えに耽っていると、足音が聞こえた。
他のプレイヤーがこのダンジョンに気がついたのかと、少し警戒する。しかし、すぐに足音が真正面から響いてきていることに気がついて、さらに警戒心を強めた。
入り口はヒカルたちが入るより前は閉ざされていた。そしてこの通路の出口はあの入れない屋敷に続いているはずだ。先にプレイヤーなどいるはずもなかった。
通路の奥からランプの光が揺らめく。誰がくるか分からない緊張感から、ヒカルの尻尾が張り詰めるように立った。
「ネズミが入り込んだと思ったら、小さい虫が三匹でしたか」
現れたのはメイド長だった。
茶色の髪を一つに結び、赤い瞳をこちらに向ける。冷めた顔はまるで汚物を見ているようだった。
「何しに来たんですか? ここは、私有地ですよ?」
「冒険者は未知を探検するのが仕事でね」
「触ってはいけない未知も中にはあるのですよ?」
メイド長がランプを自身の後ろに落とす。それから移った炎が、通路を塞ぐように燃え広がった。
ウィンドウが警告のように表示される。
『第七の柱の眷属が戦闘態勢に入りました』
『レベル差が開きすぎています』
そのウィンドウを見て、小さく舌打ちする。負けイベントかと一瞬疑ったが、死亡回数の制限があるこの世界で、そんなものを仕込むわけがないとすぐに否定した。
「おいたをする悪い虫には、お灸を添えてやりましょう」
メイドから角が生え、尻尾が伸び、黒い翼が生える。圧倒的なオーラを備えるそれは、空気の重さを二段ほど下げた。
名前の表記が『泥の主の背信者︰ベル』へと変わった。
「……これは、私たちではどうしようもないっすよ」
ミサキの一言に、悔しいが同意するしかなかった。




