第二十二話
ミサキに案内された場所は、遺跡の残骸が溶けたような跡があった。そこらに爪で引っ掻いた場所があり、粘ついた毛もついている。
明らかにここは何かの縄張りと主張しているかのようだった。
弱い魔物も近づかないからか、周囲にプレイヤーがいない。これがネームドの枠直前となると、集まってくるのだろうか。
「ここ……です?」
サクラが杖を握りしめながら、周囲を見回す。粘ついた何かを踏み、半泣きになっていた。
「といってもどこを探せばいいか分からないっすよ?」
「そうだなぁ……。適当に探しても見つからないだろうな」
言いながら、ヒカルは周囲を注意深く見る。
爪の跡は、激しく戦ったあとなのか傷ついた体の痛みを和らげるためなのか。とにかくそこかしこについている。
まるで何かを求めている。ヒカルにはそのように感じた。
「うう……気持ち悪いです……あう!」
ふらふらと歩いていたサクラが躓いて転ぶ。そのままゆっくりと立ち上がり、涙目で見てくる。
ミサキの大爆笑が響き、彼女はさらに顔を真っ赤にした。
「大丈夫か?」
ヒカルが近づいて確認する。どうやら彼女は石畳の地面にある窪みに躓いたようだ。
「……だ、大丈夫です」
ヨロヨロと立ち上がったサクラ。彼女が転んだ箇所を見つめる。
初め窪みだと思ったところは、爪の跡が重なってできた場所だった。ここだけ何回も執拗に引っかかれている。そのおかしさに眉をひそめ、しゃがみ込んだ。
「何をしてるんすか?」
訝しげなミサキが近づいてくる。
「ここ、手をかざしてみて。風が吹いてないか?」
ヒカルの言葉に首を傾げながら、ミサキが見様見真似で手をかざした。
「確かに感じるっすね」
「それによく聞くと風の音もかすかになってる……」
「……つ、つまりどういうことです?」
サクラの疑問に答える前に、石畳と石畳のすき間に剣を刺した。折れるのも承知で、てこのように力を込める。
数十秒頑張っていると、石畳が浮き上がるような感触があった。
もう少し、と精一杯の力を込めた。
急に抵抗感がなくなる。急なことだったために、大きく尻もちをついてしまった。
お尻を擦りながら、顔を上げる。先ほどまでなかった通路が大口を空けていた。
やはりあったことに尻尾がピンと立ち上がる。
「やったすね! サクラもお手柄っす!」
サクラはミサキに抱きつかれて、照れくさそうに笑っていた。
ヒカルはゆっくりと穴を覗き込む。はしごのようなものがかかっているのが見える。
少しして下から湧いてくるような生暖かい空気に、思わず顔をしかめた。空気の濁りが何段階も跳ね上がった気がする。
何かある。そう思わせるには十分な入り口だ。
二人の顔を見る。ミサキは真剣に頷き、サクラは怯えながらギュッと杖を抱きしめている。
覚悟を決めるかと、大きく息を吐いた。
気味の悪い空気に抗うように、ヒカルは中へと入っていく。
※※※※※※※※※※
流石に下水道ほどのきつい臭いはない。それでも鼻を覆いたくなるほどのものはあった。
通路の壁は所々が崩れ、地面もデコボコと穴だらけである。そこかしこに腐食液が付着し、溶けていた。
「見たこともない花もあるっすね」
簡易ランタンを用意していたミサキが、辺りを照らしながら近づいていく。不用意に顔を近づけて、何かが花から撒き散らされる。
それを吸い込んだ彼女は、痺れながら地面に倒れる。
「……サクラ、治療してやれ」
「わ、分かりましたです」
サクラの杖によって治療されているミサキを横目に、彼女が持っていたランタンを拾った。
周囲を照らして、確認する。
ツタが絡まり、先ほどの紫色の花がそこかしこに咲いてあった。こんなところで戦闘になったらと思えば、ゾッとする。
「いやぁ、油断したっす」
治療されて起き上がったミサキが、恥ずかしそうに後頭部をかいていた。その彼女に向かってヒカルは大きなため息をつく。
「お前はあれか? 学校の実験でアンモニアを直接嗅ぐタイプか?」
「よくわかったすね!?」
「あはは、ミサキちゃんあのあと二日間は鼻が使えなくなったよね?」
「あれはかなり先生に怒られて反省したっすね……」
そして、その反省はまったく活かされていないといったところか。
「で、この花なんなんすか?」
「天然の罠だな」
明かりを照らしながら先へ進む。花に近づかないように気をつけながら、足の踏み場を確認した。
「ほら、生き物を捕縛してそのまま生き殺しに合わせるとかって奴。死骸からは良い養分が取れるからな」
「ひ、ひえ……」
サクラは悲鳴をあげてミサキの後ろへと隠れた。
そんなヒカルのひと言を裏付けるように、ツタに巻かれたガイコツが不気味に横たわっている。




