第二十一話
翌日を迎える。臭くない朝というのは、これほどまでに清々しかったんだなと、心の中で感動する。
所持品から装備を着用し、準備を完了させる。
尻尾は期待感から無意識に揺れてしまっているのに気がついて、思わず顔を真っ赤にしてその動きを止めた。
ノックが聞こえたので、ドアを開ける。そこにはミサキとサクラも準備を整えて立っていた。
サクラは少しおびえた様子。ミサキは八重歯を見せてワクワクした様子だ。
「置いていかなかったんすね」
「置いていったとしても追いかけてくるだろ? バラバラに行動したほうが危険だ」
「さっすがわかってるっすね!」
満足そうに頷くミサキは、ヒカルの後をついてきた。
「わ、私もできる限り頑張りますです!」
サクラが杖を握りしめながら、小さく鼻息を漏らしていた。その姿を見て、ヒカルは苦笑する。
「死なないようにしてくれたら一番だから」
ヒーラーが死んでしまったら元も子もない。いつのゲームも回復職は大切な存在だ。
「あと一人で逃げ出すのもなしっすからね」
「わ、分かりましたです……」
二人の会話を聞きながら、あぁ結構サクラが逃げ出すのは常習なんだなと、地下での出来事を思い出しながら心の中で苦笑する。
そのまま宿屋の女将に軽い挨拶を交わして、宿の外へと出る。陽射しに眉をひそめ、深呼吸をした。心の中で準備ができたことを確認すると、よしと気持ちを切り替える。
勝負は村から出るところから始まっている。あの男たちに勘付かれたら一巻の終わりだ。
「いつもの出口からは出ないようにしよう」
「どうしてっすか?」
「前のプレイヤーキラーの仲間が、村の中を探ってる。あいつらに見つかったら面倒どころの話じゃないからな」
その言葉を聞いて、ミサキは静かに頷いた。サクラは震える手で握り拳を作っていた。
幸いなことに、ここは定住者の多い初心者村。プレイヤーたちの波に隠れながら、村の中を渡っていく。
誰もいないことを見てから、柵を乗り越えた。三人とも無事外に出れたことを確認すると、足早に離れていく。
※※※※※※※※※※
村から北にある廃遺跡。ここはダンジョンではなく、狩場として機能していた。
現れるのは、遺跡を根城にしているウサギ型やネズミ型の魔物。
遺跡の残骸はそこかしこに広がっており、かつては別の文明があったと思わせる様子だ。中には機械らしきものも埋まっていて、すっかり苔むしてしまっている。
村長曰く、かつては調査隊が定住していたが、今となってはここは誰も興味をなくしてしまったらしい。ここでなくても他の場所にも同じような遺跡があり、そちらの方がまだ価値の高いものが見つかるからだそうだ。
「といっても、どこを探すんすかね?」
狩りに集中している他プレイヤーを横目に、ミサキは見渡すような姿勢を作る。
「一つ一つ探すとなると骨が折れるっすよ?」
普通この手のゲームにはクエストを受ければマップに目印か何かが記されるものだ。しかし、当然そんな親切をここの運営が施すことはない。
自力で探さないといけない状況に、ヒカルは少し考える。
「出てる魔物って普通なんだな?」
プレイヤーたちが倒している魔物を観察する。ネズミ型の魔物は『ビッグラット』と表記され、ウサギ型の魔物は『ハイラビット』と表記されている。
「そりゃ狩場っすからね」
「いや、ここは屋敷から通じる入口があるんだろ? ただの魔物だけしかいないっていうのがおかしいんだよ」
語り、サクラが小さくあって声を漏らした。
「『汚染された』……です?」
「そう、今までずっとその二つ名がついていた。つまり、ここにもいるはずなんだ」
少し考えたあと、ミサキが手を上げる。
「あーそれならわかるっすよ」
「本当か?」
「はい。ここ、ネームドモブの湧き場所にもなってるんで。それが確か『深層汚染のラウンドフォックス』っすね。湧き条件が、確か村長が村にいる間っす」
なるほど、あの逃げた魔物はここで再びやってくるのか。恐らく、傷ついた魔物の帰属意識の設定を作り出したものだ。『ラウンドフォックス』の帰属先は当然、屋敷関係となってくるだろう。
クエストやネームドの繋がりが大きいことに驚かされるばかりだ。
「それでどうするっすか? 今日はもうネームド出ないと思うっすけど」
「……確かに」
村長救出から一日経っているということは、また村長はダンジョンで迷子になっているだろう。再び救出するのは手間だし、何よりヒカルたちの目的はネームドではない。
「どこに湧くか覚えてないか?」
「何回か参加したことあるから覚えているっす」
それから、ミサキの案内に従って、『ラウンドフォックス』の現れる場所に向かうことになった。




