第二十話
準備として、当然ながら装備を整えることにした。すべて合わせてこの村最高とまではいかないが、それなりに強いものを買うことができた。
剣なんかは、店買いできる中では一番強いものを手に入れた。これ以上となると、次の拠点に移るか素材を集めて鍛冶屋に頼むかしないといけない。あとはレアドロップを狙ってのものか。
「ふふふ」
少し心許ないなと悩んでいると、近寄ってきたミサキが得意げに腰に手を当てていた。
「見てくださいっす。この新調した弓!」
それは白色に輝くオーラを放っていた。レア度が高いことを表すパーティクルだ。
「どうしたんだそれ?」
「タイラントボアの魔核で作ってもらったっす! これでかなり強い攻撃ができるはずっすよ!」
「え、魔核を取ったのはサクラだろ? それをミサキが使ったのか?」
「……」
ヒカルの言葉に、ミサキの顔は何とも言えない表情になる。そのままサクラに近づくと、その弓を彼女に渡していた。
「は、はわわ!? わ、私に渡されても困るです!」
あたふたするサクラに涙目で見られたので、ヒカルは苦笑しながら冗談だと言う。
「そうっすよね、私が有効活用してもいいっすよね!」
「いや、次からはちゃんと許可取れよ? こういったところから確執って生まれるからな」
「……そうっすよね」
その後深々と彼女はサクラに頭を下げていた。
サクラはどういうリアクションをしていいのかわからず、ただ慌てるだけである。
そんな彼女たちを横目に、自分の装備を改めて確認する。
ちゃんとした絹の服。そのうえに革のプレートでできた軽鎧。そして新調した剣。
初心者は抜け出せてはいないだろうが、どこからどう見ても貧乏人には見えない。
嬉しさから尻尾が左右に大きく揺れる。
ただ、この買い物で所持金をすべて使い果たしてしまったため、全ロストすればまた臭いシャツ生活に逆戻りだ。しかも、まだ残り死亡回数が二回のため、そうなったらしばらくは動けなくなってしまう。
ギリギリなのは変わりないため、涙が出そうになってくる。
「しかし、ほんとうに金がなかっただけなんすね」
「……どういうことだ?」
「臭いシャツが早く動けるとか言い出す変態プレイヤーかと思ってたっす」
「あれに、俊敏のアドはないだろ。敵を寄せ付けるあたり、むしろデバフだ」
ヒカルの言葉に、ミサキの笑い声が漏れた。
店の外に出ると、清々しい空気が肺に入ってくる。今までどれだけ自分が臭いシャツとともに過ごしてきていたか、これだけで分かってくる。そして、そのシャツの臭さに慣れてしまっていた自分がとても悲しい。
ここからは服を気にする生活とはおさらばだ。つまりやっと普通のプレイヤーの仲間入りである。
嬉しい尻尾の動きも、ある男たちが目に入って止まった。彼らはギルド役場で物色していた人間たちだ。緑色のプレイヤーマーカーを見ると、村や町に入って人間を品定めする担当だろうか。
嫌な奴らを見たなと顔をしかめる。
「二人は宿に帰ってろ」
「え、なんでっすか? 抜け駆けする気じゃないっすよね?」
「するつもりならわざわざ帰ってろなんて言わん」
二人はまだ納得している様子ではなかったが、追い払うと嫌々宿に向かっていった。何回も「置いていったらひどいっすからね!」というミサキを見送る。
ヒカルは息をついてから、普通を装って屋台から果物を取る。硬貨一枚手渡してから、近くの柱にもたれかかるようにして、果物をかじった。
「あー疲れた……」
男のうち一人が、大きなため息をつく。
「たくよぉ、おいしい思いできると思ってついてきたのに、失敗したらこっちが怒られるって聞いてないよなぁ」
「……まったくだぜ。だから攻略組から炙れたんだろうが」
白昼堂々、プレイヤーキルの話とは恐れ入る。といっても、詳細を知らなければただの落ちぶれたプレイヤーの会話にしか聞こえないところが彼らのいやらしいところだ。
実際、ヒカルも襲われていなければ、この会話はどこかのダンジョンにでも失敗したのかとしか思えない。
彼らの会話内容から、まだプレイヤーキルは続ける予定であること。今度はもっと慎重に選ぶということを聞き取る。
今すぐにでも危険がないのなら、放っておく。……というか放っておくしか道はない。ヒカルたちはまだ彼らに敵わないのだから。
ヒカルたちができることは彼らの目に入るようにしないこと。そのためには物色している四人の顔を覚えておくことにした。
それにしても、彼らはあまりにも堂々と行動しすぎた。それほど腕に覚えがあるということだろうか。
いや、まだ攻略組が秩序を守れるほどの余裕がないと見たほうがいい。
どちらにしても、関わっても良いことはないなと結論づけた。




