第十九話
「もっと丁寧に助けられんかったのか……?」
状態異常から治った村長が、腰を抑えながら立ち上がる。
「すまんな爺さん。恨みは狙ってきた冒険者に行ってくれ」
「やれやれ……冒険者の質も落ちたのぅ」
その瞳には、憂いが帯びていた。
「それで村長、報酬をくれないっすか?」
ミサキの声に、村長は快く頷く。
「手荒とは言え助かったからのぉ。もちろんじゃ」
その言葉とともに、クエスト完了のメッセージが出てきた。
所持金を確認すると、確かに提示どうりの金額が増えている。他の三人も同じように貰えたようだ。
報酬が山分け制でないのは、良心設計と言えるだろう。
「ふぅ……ほんと、助かったぞい」
改めて村長はお礼を言ってくる。彼の瞳にはどこか諦観が混ざっているように見えた。
そんな村長の手を、ヒカルは掴む。
「あの屋敷について何か知らないか?」
その率直な言葉に、彼は目を見開く。瞳が揺れて、息を飲んでいる。
何か知っているその雰囲気に、彼の手をさらに強くつかむ。
「教えてくれないか?」
真剣な瞳で彼の目を見つめると、村長は肩を落とす。
「そのために儂を助けたのか?」
「もちろん」
村長は目を伏せる。
「……やっとか」
その言葉の真意は、ヒカルにはわからない。
※※※※※※※※※※
「あの屋敷は昔、儂の家じゃったんじゃ」
村長の家の居間につくと、彼はゆっくりと話し始めた。机に並べられた粗茶が、か細く湯気を立てている。
「娘夫婦に譲って、儂は村民たちと交流を深めるためにこっちに移ってきたんじゃ」
「それで、なんであの屋敷は誰も入れなくなったんだ?」
「あのメイドがやってきてからじゃ……。それから何もかもおかしくなったんじゃ!」
村長は語る。少しずつ田畑は荒れ、湧かなかったはずのスライムが現れるようになった。このままでは村は死滅すると。
村民たちに訴え始めた頃、村長は起きたら森の奥に捨てられるようになった。そんなことを繰り返しているうちに、ボケた老人扱いもされるようになる。
まさにお先が暗くなり始めたところだという。
「儂以外誰もあそこの屋敷の異変を信じん! 大量に冒険者がやって来た時だって、儂はただ助けられ金をむしり取られる存在じゃった!」
その言葉に粗茶を飲んでいたミサキが噎せた。先ほど金をねだった自分を思い出したのか、真っ赤になって顔をそらしていた。
「それで、あの屋敷に入る方法はないのか?」
「ある。少し遠いが、屋敷から遺跡に繋がる避難用の隠し通路がある。しかし、中がどうなってるか分からんぞ?」
聞いた瞬間、ウィンドウが立ち上がる。
『クエスト︰村長の頼みが発生しました』
しかし、ウィンドウの表示はそれだけではない。
『このクエストはこの世界の勢力がほんの少し変わります。このクエストはクエスト︰力の代償をクリアするためのクエストです』
来た。心の中でガッツポーズをする。
やはり裏シナリオが存在していた。しかも二つのただの掲示板に貼られたクエストに跨って発生するタイプだ。
きっとあの下水道のことを知らなければ、この村長は教えさえしてくれなかっただろう。
「はは、これは分かりにくいよ運営……」
そのヒカルのつぶやきに、村長は首を傾げていた。
このゲームを思想設計した奴は本当に意地が悪い。見つけて欲しいくせに見つけにくくしすぎだ。
「何々? 何が表示されたっすか?」
「あぁ、共有しておくな」
ウィンドウからクエストを共有する。サクラは首を傾げ、ミサキは目を輝かせていた。
もう彼女たちに隠すのは不可能だ。無理に探られてボロを出して他のプレイヤーに知られるより、彼女たちを仲間に添えることに決めた。
「受けてくれるんじゃな?」
村長の確認のような声に、ヒカルは大きく頷いた。すると彼は安堵したように肩を落とす。
「分かった。それじゃあ、儂からのできる限りの援助じゃ」
その言葉の直後、ウィンドウで村長から五千ルーンを貰ったと告げられた。
「遺跡は危険じゃ。この村でできる限りの準備をしていけ」
ミサキとサクラが喜んでいる横で、ヒカルはこれはと息を呑む。
ゲームが総じて何も対価なしにお金やアイテムをくれるときは碌なことが起きないのだ。
そろそろ臭いシャツのままではダメかもなと、自分の貧相な服装を見る。
村長を探すクエストの報酬と、今回の五千ルーンを合わせたら割りかし多くの資金を手に入れられた。村長の言う通り、しっかりと準備していくことにする。
村長にお礼を言って頭を下げると、ヒカルは立ち上がった。ミサキとサクラも遅れてあとに続く。




