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第十八話

「いやぁまた冒険者に助けられて情けない限りじゃわい」


 村長自身のひげをいじりながら、申し訳なさそうに眉を下げた。一見してテンプレセリフのように聞こえるが、ヒカルはどこか違和感を覚えた。


「どうして、毎回迷子になるんだ?」


 その質問に、彼は言い淀む。しかし、観念したように首を横に振った。


「毎回寝てる間に攫われるんじゃ……気づけばいつの間にかここの森で殺されかける」

「なんすかそれ? 気をつけることはできないんすか?」

「無理じゃ。なぜか知らんが眠気に抗えん。傭兵も雇ったことあるが、やつらも眠りこけておった」


 その彼の言葉にヒカルは疑問を口にする。


「なあ爺さん。爺さんが村で殺されるのと、毎回いつの間にか迷子になって森でたまたま魔物に殺されるのなら、どっちが事件性が低い?」

「何を急に言っておる?」

「重要なことなんだ。答えてくれ」


 ヒカルの問いに小さくうめきながら彼は考える。少しして、ゆっくりと口を開いた。


「後者ならボケた老人扱いされて、誰も相手せんだろうな」


 そりゃそうだ。毎回どこかに消える老人の話など誰も聞かないだろう。傭兵たちも自分たちの失態を隠そうとして真実を語らない。

 つまり、誰かがこの村長を殺そうとしている。そして殺そうとしているのは十中八九、屋敷の関係者だ。

 村の裏の構造に行き着いた気がして、ヒカルの尻尾の揺れは止まった。


 森の奥から響いてくるのは、得体の知れない獣の声。その声にサクラが小さな悲鳴を上げた。肩を震わせながら、涙目でこちらを見る。


「一回村に帰るか」


 その言葉に、サクラが何回も無言で頷いていた。彼女の中では怖さは限界に達しているらしい。


「その前にミサキ、確認したいことがあるんだけどいいか?」

「ん? なんすか?」

「ミサキの俊敏って今どれくらいある?」


 なんで今それを尋ねられているのかわからず、彼女は首を傾げる。

 しばらく見つめていると、彼女は答えた。


 その数値は、集中的に俊敏を上げているヒカルより少し低いくらいの数値だ。


「なら、このダンジョンから出てすぐサクラを連れて走れるか? 俺は村長を連れて走るから」

「……え? なんでそんなことする必要があるんすか?」

「多分だけど、出待ちのプレイヤーキラーたちに狙われてる」


 その言葉に、ミサキとサクラは見合わせていた。



※※※※※※※※※※



 森の出口から身を出す。ヒカルは村長の手を引いて走り出す。風をきり、地面を蹴った。

 そんなヒカルの頬を矢が掠めた。あと数センチずれていたら傷がついていたところだ。


「ちっ! 気づかれてたか!」

「おい、あいつらうまくもっと偵察しろって言っただろ!」


 やはりと聞こえてきた声に確信を落とす。


 ギルド役場で人間を物色していたあの男たち。あれは村長クエストを受ける人間を調べていた。実質、初心者村卒業といわれるクエストをする人間は、それなりにうまい物資を持っていることが多い。お金もきっとたんまりと持ってることもあるだろう。

 攻略組からあぶれてお金を狙う人間の中には、こういったことをする輩も出てくるというわけだ。


 ほかにも三回の死の猶予があるせいで、殺している実感は薄めているという点も大きい。


「てか、そいつはシャツの奴だ! 狙うなら他の二人にしろ!」


 その言葉にカチンとくる。

 たしかにいまだに臭いシャツ一枚だし、防具もつけてない。所持金だってあってないように等しい。


「いたたたた! 痛い痛い! おぬし、手に力こもりすぎじゃ!」

「……悪いな爺さん」


 謝りながら何とか冷静さを取り戻した。


 今は相手している場合じゃないと、走ることに集中する。


 後方をチラリと確認する。ミサキと目が合うと、彼女は首を縦に振った。

 なんとかついてこられているようだ。


 村までの距離はそんなにない。何とかしてたどり着ければ、こちらの勝ちだ。相手もそれが分かっているのか、必死になって矢を放ってくる。何人かは飛び出して来て、剣を振ってくる。


 プレイヤーの頭上に浮かぶマーカーが目に入った。普段は緑色に対して、彼らはオレンジ色になっていた。


「村に入らせるな! 追えなくなる!」


 剣を避けながら、走り続ける。矢を一本避け損ねて、村長に当たってしまった。


「おひょう!? し、しびれるううううう!?」


 どうやら矢には痺れ毒か何かが付与されていたらしい。ここまで用意周到にできるのなら、他に活かせと思う。しかし、説教したところで無駄だと分かっているので、ヒカルはただ走り続ける。


 十分間の走行の末、村の敷地内へと駆け込む。遅れてミサキとサクラも入った。


「……なんなんすかあいつら」


 悪態をついてる彼女の足元で、村長が痺れ転げていた。

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