第十七話
「屋敷に裏があったんすね」
獣道を歩いている途中。ミサキに簡単に話した。同じように聞いてたサクラも驚いた表情をしている。
話してしまったことに少し後悔をしながら、ヒカルは先に進む。
「だから、最初の村からまだ出たくないって言ったんすね。ずるいっすよそういう独り占め」
「……うっさい。ゲーマーってそういうもんだろ?」
「まぁ、それはそうっすね」
ミサキがあっさり受け入れたことに、サクラはそうなの? と驚いていた。
「私だって絶対情報渡したくないっすもん」
「その言葉が聞けて安心だよ……」
「あはは、こういう情報は独占するから価値があるもんっすもん」
ミサキの回答から、彼女も典型的なゲーマー気質なのを伺いしれた。シシシと笑う顔はどこかいたずらっ子のように見える。
「でも、隠し通せなかったのはまだまだ甘いっすねヒカルさん」
「……そのことはサクラに感謝するんだな」
「私です?」
サクラの返答を聞きながら、伸びた草を分け入り進む。時々手に付着する粘液に、ヒカルは顔をしかめた。
「サクラが俺にミサキの救出を頼まなければ、お前たちは決して知ることなかっただろうしな」
「あーこの子昔っからリアルラックも高いんすよ」
「なにそれチート?」
「チートっすね」
二人の会話についていけないサクラだけが、首を傾げていた。
少しして、さらに開けた場所へと出た。タイラントボアと戦ったときとは違い、無理やり切開かれたような場所である。
木は溶解液で溶かされ草は枯れきっている。空気の圧力も先ほどとは違って重い。
周囲の木々のざわめきも、やけに耳についてくる。
「た、助けてくれぇ!」
耳の奥を揺さぶるような叫び声が聞こえてくる。森の奥から腰を抜かしながらお爺さんが現れた。ひげを伸ばした彼は、震える手をこちらに伸ばしてくる。
「来たっすね」
ミサキの声に頷いて、ヒカルは腰に提げていた鞘から剣を抜いた。
数秒後、明らかに獣のものとは違った雄叫びが上がる。木を溶かして倒しながら、大きな狐が現れた。毛並みはベトベトに汚れていて、赤く光る目が獰猛に光る。牙が覗き見える口からは、涎が垂れ落ちている。
敵名は『汚染されたラウンドフォックス』だった。
走り出したヒカルに合わせてミサキが弓を引く。飛翔した矢は、魔物の首を貫いた。
傷口からは紫色の血があふれ、ギロリと赤い目がこちらを向く。
すでにヒカルは攻撃できる距離に入っている。剣を振り被り、瞳を狙った。血が周囲に飛び散り、キツネは叫び声を上げた。
手負いの相手は後方に飛び退り、警戒するように低い唸り声を上げている。
「サクラ!」
「は、はひ!?」
「村長を安全な場所に連れて行ってくれ!」
「わ、分かりましたです!」
ヒカルの指示通りに動き出す。しかし、よろけながら少しへっぴり腰になっているので中々素早く動けていない。
サクラへ敵視が向かないように、ミサキは定期的に弓を放ってキツネの気を引いていた。ヒカルも隙をついて、体を切りつける。
何とか避難を完了させたところを見やり、大きく踏み込んで剣を横に薙ぎ払った。
顔を狙った一撃。クリティカルを狙った攻撃だったが、剣を口で噛みつかれて動きを止められる。そのまま引き寄せられそうになったので、慌てて柄を放す。
剣を口にくわえたキツネは、そのまま遠くに投げ飛ばした。
「……ちっ」
やはり一直線だったタイラントボアと違い、少し手強いボスだ。
痺れる手を振りながら、顔をしかめた。
飛びかかってくるキツネが大きく口を開ける。涎を飛ばす口は、鋭い牙が光っていた。
思わず腕を前に出して、顔をかばう。
噛みつかれる寸前、ミサキの放った矢が二本刺さる。相手は悲鳴を上げながらまた飛び退いた。
「悪い、助かった!」
「なんのこれしきっすよ!」
ミサキの笑顔を見て、安堵した自分に気づいて複雑な感情を浮かべる。武器を取られてしまうという初歩的なミスをしてしまうとは、自分が恥ずかしい。
キツネの気がそれてるうちに、ヒカルは剣を取りに行った。
拾い上げて再び走り出す。ミサキへと牙を向けようとするキツネの胴横を突進の要領で突き刺した。
再び大きな叫び声が上がる。紫色の血を撒き散らしながら、距離を取る。
そのまま低い唸り声を上げて、牙を見せつける。しかしすぐに森の奥へと消えていった。
『汚染されたラウンドフォックスが逃走しました』
そのウィンドウが出た瞬間、肩の力を落とす。正直、今回は油断しすぎたと反省する一戦だった。
やはりモニタ前で繰り広げられる戦いと、剣を握って戦うのは違うなと思う。
仮想世界でのゲームは、今までのゲームよりもさらなる状況判断を要求されることを肝に銘じた。
少し反省するかのように、ヒカルの尻尾が揺れている。




