第十六話
倒れたイノシシからミサキが素材を集めている。剣をしまいながらふうと息をついた。
入り口の方を見ると、ツタが絡まっており人の出入りを制限していた。どうやらボス部屋を誰かが攻略するまではほかに出入りできないようになっているようだ。
これからのためにゲームの設計を観察していると、サクラに声をかけられた。
「ま、また助けていただいてありがとうです……」
彼女は申し訳なさそうに涙目になっており、杖を持つ手は震えている。
なんて言おうか迷ってから、「仕方ねぇよ」とだけ返した。
「サクラ、ちょっとイノシシのここ剥ぎ取って!」
「ふ、ふぁ!?」
急に呼び出された彼女は、肩を飛び上がらせていた。何回もヒカルに頭を下げてから、小走りでミサキのもとに駆け寄った。
「ほら、よろしくっす」
彼女は満面の笑顔で剥ぎ取り用ナイフをサクラに渡している。
「な、何でまた私なんです!?」
「サクラが剥ぎ取ったほうがいいからっすよ」
ミサキの圧に負けて、サクラは嫌々と言った様子で剥ぎ取り始めた。ナイフを突きつける度にうぅだのうわぁだの声が漏れている。
そんな彼女を放ってミサキはヒカルの横にやってきた。
「……良いのかあれ?」
「魔法職をやらせるために知力と運を上げさせてるから、サクラが剥ぎ取ったほうが良いものが出るんすよ」
「……そういうことか」
中々どうして、考えているようだ。サクラのことをただの足手まといにせず、彼女にきっちりと役割を与えている。
やはりミサキはかなりゲーム慣れしているのが伺えた。
「う、うへぇ……」
イノシシのはぎ取りを終えたサクラは、ぐったりとした様子でこちらに近寄ってくる。
「何が取れたか見せてほしいっす」
「わ、分かったのです」
二人でやり取りしてると思ったら、ミサキが大きな声をあげた。
「『タイラントボアの魔核』! やっぱりサクラの運は伊達じゃないっすね」
「……え、これっていいものです?」
「武器の一流素材っすよ! これドロップ率しぶちんって言われてるっすから」
ミサキ曰く、今でも中間層には高値で取引されているらしい。なんでも千体倒してやっと手に入るといった領域のものらしい。
雑魚の魔核なら適当にやってても落ちるレベルだが、ボス個体となるとやはり別だ。
褒められたサクラは、照れたようにモジモジとしていた。
「それで──」
切り替えるように、ヒカルが言葉を発する。
「これでまだ終わりじゃないんだろ?」
「そうっす。村長クエストを受けた人だけに出現する獣道があるはずっす」
彼女の言葉を信じて、周囲を見回してみる。
確かに、広場の端っこに獣道のようなものができている。ヒカルはしゃがみ込んで、少し地面を触る。
泥ついた感触があり、彼女は顔をしかめた。
「……何してるんすか?」
ミサキの疑問に立ち上がって、ヒカルは抜いた草を見せる。
「ほら、先っぽが腐ってる」
「……腐ってるっすか?」
「言い方を変える。この道“汚染されてる”」
その言葉にミサキはわからないとでも首をひねる。代わりにサクラがあっと声を漏らした。
その後すぐ、思い出したかのように杖をギュッと握りしめて震えだした。
「これ、あの下水道と関係あるのです?」
「多分な」
「え? どういうことっすか?」
ミサキの疑問に答えることなく、ヒカルは顎に指を当てた。
汚染、腐った、泥。これはすべて偶然ではないだろう。つまるところ、草むしりクエストも村長クエストもつながりがあるということだ。
むしろ製作者は、わざと村長クエストでにおわせようとしたのだろう。しかし、プレイヤーたちは命がかかっているのだからそれどころではなかった。そう判断するのが妥当か。
村に残っていた人間が気づいてた可能性は──考えて気づいても見ないふりをするだろうなと首を横に振った。
「それじゃあ行ってみるか」
「説明してくれないんすか!?」
ミサキが愕然とし、仕方なく隣のサクラに説明を求めるように肩に手を置いた。そのまま彼女の首をがくがくと揺らしている。サクラは揺らされながら、困ったように涙目になっていた。
「所謂、裏シナリオってことだよ」
ヒカルの言葉を聞いて、手の動きをとめる。
「裏シナリオってなんすか?」
その疑問にすべてバラすべきか少しだけ考えた。諦めたように大きくため息をつくと、肩をすくめる。
本当ならこういったことを他人と共有したくないのだ。
しかし、サクラは兎も角ミサキはすでに一度システムに巻き込まれた側だ。自分が何のために下水道奥で捕まっていたかは遅かれ早かれ分かることだろう。
ヒカルは諦めて、口を開く。




