第十五話
道中のキツネ型の小型の魔物を倒していく。一体一体はそこまで強くない。冷静に対処すればやられることはない。
飛びかかってくるキツネの喉元を、ヒカルは剣で斬った。ミサキは残ったものを弓で撃ち抜く。サクラは少し後ろに下がりながら、回復魔法を展開する。
やはり普通のダンジョンは安定して攻略できる。あの大量発生したネズミたちがおかしかったのだ。
ミサキは倒れたキツネから素材を剥ぎ取ると、所持品に入れていた。
「このキツネたち、簡易的な服の素材にもなるっすよ」
そういう彼女の視線はヒカルのシャツを見つめている。
彼女の視線から逃れるように顔を背けた。ヒカルの尻尾は、気恥ずかしげに揺れている。
「このクエスト終わったら服もそろそろ新調しようか……」
いつまでも臭いシャツでいるわけには行かない。なぜなら──
ヒカルが突然振り向いて剣を振った。草の陰から飛び出した魔物を斬り落としたのだ。
瞬間的な行動に、サクラが感心するように拍手していた。
「……やけに魔物寄ってくるっすね」
「多分このシャツのせいだと思う」
やはり臭いも索敵対象になっているんだなと、改めて思う。
ミサキが鼻を動かすように、ヒカルの着ているシャツを臭ってくる。すると彼女は鼻を押さえた。
「そ、そんなシャツどこでもらうんすか!?」
「教会で復活して持ち金がなくなったらくれた」
「……そんな要素があるんっすね」
「私、お金なくならないように気をつけますです」
二人が少し距離を取った気がして、失礼なやつだなとため息をついた。
ヒカルだって好きでこうなっているわけではない。ただ、ゲーム始まってすぐになんか知らないけど強い敵に狙われて即死しただけだ。いまだにあのドラゴンは何だったんだと思っている。
ダンジョンも終盤に行くと、道中の敵も少し歯ごたえがあるようになってくる。それでもパーティーが崩れるほどのものではなく、安定した攻略ができていた。
最後のキツネを倒した時、ヒカルのレベルが4に上がる。いつものようにウィンドウを開いてステータスを振り分け始める。
それを見ながらまたしてもミサキは疑問を口にする。
「ヒカルさんレベル上がるのなんか遅くないっすか?」
「……そうか?」
「そうっす。サクラのほうが先に9へ上がってたっすよ」
「……たまたまだよ」
そう言っても納得していないように彼女は首を傾げていた。
中々に目敏いなと唾を飲む。どうしてこんな子が初心者村にいるんだと考え、サクラのためかと納得した。
しかし、そんな子が攻略組を目指すと言い出したってことは……。
──あの事件で運営の不信感が振り切ったんだろうな。
そのうえで助けてくれたヒカルへ一緒についていこうと決めたのだろうか。そしてそれは臆病だったサクラも一緒に決めたことだろう。
危ういなと気づかれないようにため息をついた。
行き過ぎた使命感は時として周りを巻き込む。ここは普通のゲームではなく消えれば終わりのゲームなのだから尚更だ。
少なくとも、二人は割り切りを覚えてくれないと、この先ついてこられた時にヒカルは困ってしまうだろう。
「さ、一回目のボス戦っす!」
森が開けた場所に出た。そこは明らかボスが来ると分かるような広さだった。一歩足を踏み入れると、大きな鳴き声が響き渡る。
巨大イノシシが草をかき分けて突進してくる。咄嗟に避けようとして、一直線上にサクラがいることに気づく。
慌てて剣を構え、巨大イノシシを受け止めた。
剣芯が震え、腕に伝わる。肩を突き抜けるような痺れがやってくる。これが現実世界なら、とっくにイノシシにふっとばされていることだろう。
「ご、ごめんなさいです!」
後方でサクラが謝りながらワタワタしている。少しずつ押されているヒカルには、そこを逃げろという余裕すらない。
足の裏は地面を引きずり、擦れる音が響いた。
「イノシシ、こっちっす!」
ミサキが大きな声を出しながら、弓をひいた。矢はイノシシの首元に当たる。
大きな声を上げながら、標的をミサキへと変えた。
「わ、わわ! 私は前衛じゃないっすよ!」
追いかけられる彼女は、背中を見せながら逃げている。その間に、ヒカルはサクラに回復してもらった。
体力が満タンになったのを確認すると、そのまま駆け出し始める。
イノシシはミサキに攻撃されたことに怒り心頭で、どうやらこちらの動きに気がついていない。どの世界でも怒ったら終わりだなと冷笑しながら、飛び上がった。
剣を胴に突き刺した。そのまま体重をかけて深く抉った。
イノシシが痛みでその場に暴れ回る。飛ばされないように剣の柄を力一杯握りしめた。
「ミサキ! 矢で援護しろ!」
「分かったっす!」
彼女は指示通り引き絞り、矢を放った。目にクリティカルヒットをして、イノシシの体力は削り切った。




