第十四話
ギルド役場は午前九時から開き、午後八時に閉まる。今は開く三十分前だというのに、並んでいる人間が目に入った。
ヒカルは彼らの装備を見て、怪訝な顔をする。
初心者村にしては、整った防具や武器。人を値踏みするかのような視線。まさかなとは思うが、警戒することに越したことはない。
「村長捜索クエって一種の卒業クエみたいにもなってるんっすよ」
その不穏な気配に気づかないまま、ミサキは大きな声でしゃべる。
「ここの村で貼り出されるクエストの中では一番難易度高いし、次の拠点へ移る指標として受ける人が多いっすね」
「まぁ、そういうクエはあるだろうな」
「でもウケるっすよね。クエのために毎回村長が迷子になるなんて。よくこの村は保ってるなって思うっすよ」
「み、ミサキちゃん。それはゲームだからです」
サクラのその言葉にミサキは考えるように首をかしげた。
「それ言われたらそれまでなんすけど。このゲーム、作り込まれてるからそれも裏設定がありそうなんすよね」
彼女の言葉に、ヒカルは心の中で感心する。
サクラは巻き込まれただけの少女だが、ミサキはある程度ゲームをしてきた人間ではあるようだ。
少し待つと、職員の一人が鍵を開けた。先に待っていたプレイヤーたちは何も言わずに入っていく。
自分たちもその後に続いて入っていった。
ミサキが取ってくるっすというから、ヒカルとサクラは机で待つことにする。
「あ、あの……改めてお礼を言わせてです」
「…⋯そう言われることは何もしてないよ」
「で、でもヒカルさんのおかげで、ミサキちゃんが戻ってきましたです」
「俺は倒しただけ。戻ってこなかった可能性もある」
その言葉で彼女は悲しそうに俯いてしまった。しかし、ヒカルは分かってほしい。本当に結果論でしか過ぎないということを。
もしかすれば、ヒカルは本当に人殺しになりかねなかったことを。
だからこそ、懐かれたり感謝されるのはお門違いだと思う。
そんなことよりと、視線を先ほどのプレイヤーたちに向けた。
四人の男たちは、先にこのギルド役場に来ていた割には、何のクエストも取ることなく一角で座っている。楽しそうに談笑する傍ら、ミサキのあとを追うように視線を動かしている。
やっぱり何かあるなと、心の中に留めておいた。
「受けてきたっす! それじゃあクエスト共有するんでパーティー組もうっす」
ミサキが戻ってきて元気に言う。仕方ないなと、ため息をついた。
表示された情報を見て、ミサキが少し驚いたような顔をする。
「え、まだレベル3すか?」
「そうだが?」
「一ヶ月何してたんすか?」
尋ねられ、「寝てた」とあいまいに濁しておいた。
そういうミサキはレベル10ついでにサクラは8だ。これが攻略組ならすでに20は超えているのだろうか。
そんなことを考えていると、ウィンドウが立ち上がった。
クエストが共有された旨が伝えられたので、中身を確認する。
依頼主は村人。内容は『また村長が行方不明になった』というもの。いつもいなくなるせいで、ちゃんと村が回らないと愚痴るものだった。
「“また”……ね」
一見クエストの説得力を増させるためだけのフレーバーテキストに見える。しかし、だからこそヒカルは気になる。
「それじゃあ行こうか」
「っす」
「はいです」
考えながらヒカルは立ち上がった。その間も肌に貼り付くのは男たちの視線だ。
あれは値踏みしているなと、心の中でため息をついた。なるべく声に出さないように努めたが、ヒカルの尻尾は左右に揺れた。
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『輝く森』。適正レベルは3〜5となっており、このゲームの本当の最初のダンジョンとなる。森には獣系の敵がよく出て来て、レベル上げや素材集めでプレイヤーたちも集まってくる。
ダンジョンボスも巨大イノシシで、突進しかしてこないチュートリアルのような相手のようだ。
ミサキの説明を聞きながら周囲を見回す。淡く光る木々は、幻想的な雰囲気をつくっていた。初心者村のプレイヤーらしき人たちが、それぞれ討伐を行ったり素材を集めたりしている。
あの下水道とは違い、魔物は割りかしまばらに出現していた。
「このクエストを受けた人限定で、ボス部屋の奥にさらにボスが現れるんすよ」
そこに迷子になっている村長が現れるらしい。ボスを倒して彼の安全を確保し、村に送り返せば無事にクエストクリアである。
報酬も他のクエストよりは豪華になっており、二千五百ルーンとなっている。
一日一回の先着制限なのも、この割高な報酬だからだろうとミサキは言う。
心の中ではそれだけじゃないとヒカルは思いながらも、彼女の言葉に「分かった」と返事をした。




