第十三話
翌日の朝の宿でとりあえずの確認をする。
レベルは一応ボスを討伐したおかげか3に上がっている。クエスト報酬は断ったから何もない。
いつものように貰ったステータスポイントは全て俊敏に振っておいた。
クエストを確認すると受けているのは、『力の代償』のみだった。内容は『あなたは屋敷の秘密の一端を目撃した。この村で何が起きているかさぐれ』といったようなものである。
「さぐれと言われてもなぁ……」
昨日のログでメイド長との関係が修復不可まで悪化したことを指し示していた。今度は草むしりでこつこつと好感度を稼ぐことはできないだろう。何か方法を考えないと、これ以上進めることができない。
迂回する方法はかならずあるはずである。ヒカルは前提となるクエストをクリアしたのだから。
そう考えるのは、あまりにも楽観か?
悩んでいると、ノックが三回聞こえた。
訪ねてくる人に思い当たらず、眉根を寄せる。ゆっくりと立ち上がり、ドアを開けた。
目の前にいたのはミサキとサクラだった。
「おはようっす!」
元気に挨拶する彼女は、ツインテールを揺らしていた。その後ろのサクラは、恥ずかしそうに頭を下げる。
「何しに来たんだよ? てか、よく俺のいる宿知ってたな」
「ちょっと相談したいことがあるんす! 宿については、この村で一番安い宿はここしかないっすから」
そういうミサキは、ヒカルの着ている服を見つめていた。そういうことかとため息をつく。
彼女の顔を見ると、瞳を輝かせている。何を言っても退かないと顔に書いてあった。
「……少しだけだぞ」
中に通すと、ミサキは明らかにテンションが上がる。あとに続くサクラが何回もヒカルに頭を下げていた。
「私たち攻略組になりたいと思っているんすよ」
単刀直入にミサキがそう言った。
椅子に座って机に頬杖をつきながら、それでと興味なさげに続きを促した。
「それをヒカルさんにも手伝ってもらいたいんす」
「え、やだ」
「えーーーーーー」
断られるとは思っていなかったのか、ミサキは驚いた顔をする。
サクラのほうを見ると申し訳なさそうにまた頭を何回も下げていた。
「そもそも、俺はまだこの村ですることあるんだよ」
「え、何をするんすか?」
やべと思った時にはもう遅かった。彼女の瞳は輝いている。まだ、屋敷のことについて知られたくなかったのだ。
顔を背けるが、煌めく目の圧をひしひしと感じる。
「何々? この村に何かあるんすか?」
八重歯を見せて笑う顔は完全に引き下がらないと言っている。多分どんなボスよりも彼女を退けることはできないだろう。
そもそも、初期村の定住組とはいえ、一ヶ月のアドは向こうにある。少なくともヒカルが全力で逃げようと思っても彼女のほうが脚は速いだろう。
頭をフル回転させて、何とか彼女の気を逸らせることを言えないかと咄嗟に口にする。
「ほら、俺お金ないからさ。次の村に行こうにも準備をしたいんだよ」
その言葉にミサキはなるほどと手を打った。
「だったら良いクエストがあるっす」
「……どんな?」
「村長を捜索してくれってやつっす」
なるほど迷子になった誰かを探すクエスト。よくあるお使い系のクエストだと、頭のなかでぼんやり考えてから目を見開いた。
「待って、村長いるのか?」
「そりゃいるっすよ。村っすから」
「……どうしたです?」
二人が顔を見合わせて、首を傾げていた。
ヒカルは状況を整理しようと頭に手を当てながら彼女たちに質問していく。
「村長ってあの屋敷に住んでる人か?」
「あーあのケチンボ草むしり屋敷っすか? あそこには住んでないっすね」
「普通に村の中心に家がありますです」
「ただ、よく迷子になるっすから、誰かがクエストをクリアした日しか会えないっすよ」
彼女たちの言葉を聞いていて、少し道が拓けたような気がする。
ただの草むしりクエストに重要なことを隠していたくらいのゲームだ。他のものにも隠している可能性は高い。
「俺そのクエスト受けてくる」
「私たちも行くっす!」
その言葉で立ち上がったヒカルの動きが止まる。ゆっくり振り返ると、ミサキと目が合った。
ニコリとするとニコリと返された。あぁ、これはもう何言ってもついてくるやつだと諦める。
「……わかった、一緒に行こう」
その言葉に、彼女たちは喜んでいた。
これは完全に懐かれたなと、大きなため息をつく。このままだと、ズルズルと彼女たちがどこまでもついてくる未来が見える。
なんとかして別れる手段を考えないといけない……そう思うのだが、良い手が思いつかない。
直球で断ったとしても、二人はきっとついてきてしまうだろうから。
曖昧な笑顔を見せると、ミサキは笑って首を傾げるだけだった。




