第百六話
「お前たちは、いつも騒がしいな……」
ドワリンドが大きなため息をついた。長い白ひげをなでる彼は、どこか諦観している。
「まぁ、冒険者には色々あるんだよ」
「その色々にワシを巻き込むな」
「今回は巻き込んでないだろ? この村だって、ギルド役場の承認が得られて晴れて復興することになったしさ」
ヒカルは苦笑気味にごまかした。そんな彼に、ドワリンドは手を伸ばす。
「十万ルーンのこと忘れてないだろうな?」
「……忘れてないよ、忙しかっただけで」
「何が忙しいだ。ワシはお前の武器を強化してやったんだぞ? その恩を忘れるな」
彼の厳しい言葉に、顔を背ける。
視界の先にある村の出入り口には、到着したNPCが看板をかけ直していた。道中のサファイアウルフたちは、フェンリアルのおかげで襲ってこなかったという。協力を得られてなかったら、復興作業はもっと大変なことになっていただろう。
「あんたがドワーフ族の鍛冶師かいな?」
そんなとき、アキが割って入ってくる。彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「……そうだが、なんだ?」
「だったらちょっと話聞かせてぇな。うち、伝説って言葉に弱いねん」
ドワリンドはこちらに視線を向ける。ヒカルはどうしようもないというように肩をすくめた。
「お断りだ。ワシは有名になる気はない!」
そう言って彼は立ち去っていく。
「なんやなんや? フェンリアルは結構気さくに答えてくれたのに、こっちは全然やな」
「まぁ、偏屈爺さんだから」
「かー! どこの世界も職人ってそういう設定になるんやなぁ。もっと協力的になってもええと思うけどなぁ」
「ドワリンドの場合、事情が事情だからね」
彼を求めて、ここら一帯では第六と第七の柱が争った。もし人間に彼の力が知れ渡ったら、大変なことになるだろう。
きっと彼自身は村にプレイヤーが溢れても対応はしてくれない。
「わーってる。その辺りの話はフェンリアルから聞いとる。うちは個人的に彼の話を聞きたいんや」
「……それはホントか?」
「うちのこと舐めたらあかんで? 情報の大切さは誰よりも知ってるつもりや。それよりも、ヒカルこそええんか?」
問われて、何がと首を傾げた。すると彼女は頭を抱える。
「あかん、この男にぶちんや!」
その言葉に、ヒカルは苛つくように尻尾を揺らした。
「俺が男とわかってからさらに雑に扱うようになってないか?」
「男やからやないヒカルやからや」
アキは分かりやすく大きなため息をつく。そして、ジト目でこちらを見つめてきた。
その視線に、今度は落ち着きなさそうに尻尾を垂れ下げた。
「ミサキちゃんのことどうするんや?」
「どうするも何も……」
彼女はあれから口を聞いてくれない。友達のサクラとも話していない。
それでもこの村にとどまっているあたり、まだ完全に嫌われたわけではないと思うが。
「俺は悪いとは思ってない」
本心だった。その言葉を聞いたアキは大きくため息をついた。
「0点やな」
「なんで評価されてるの俺?」
「まぁもちろん、うちもヒカルが悪いとは思ってないで?」
あそこでまともにやり合っていたら、この町に着く機会を逃していた。足止めを食らって、物語を先に進めなくなる。
正面で戦うよりも大事なことはあるのだ。
正義をなすにも、生き残ることが先決だ。
「だけど、ミサキはあんたの手でユウェイルを裁いてほしかったんちゃうん?」
「無茶だ。そもそも、あいつは俺のレベルじゃどうにもならん」
正々堂々と正面からやり合ったとしても勝てない。罠にはめて、やっと一回倒せたくらいなのだ。
「それでも、あんたならどうにかしてくれると思ったんじゃないん?」
「そんな他人本位な幻想を俺に抱くなよ」
「うちに言われても困るわ。うちはそもそも、勝てると思ってないからな。これからだって、モルドレルドの仲間につけ狙われそうでハラハラやわ」
その言葉に、ヒカルは肩を落とした。
「でも、ミサキはちゃうやろ? 少なからず彼女にとってヒカルは憧れやったんやないか?」
そんなこと言われてもと、ヒカルは後頭部をかく。
「何回もいうが、俺に無駄な期待はするなよ。俺は何でもできる人間じゃない。できないことはできない人間だ」
「そうやな」
「俺だって、自分の手でユウェイルを倒したかったさ。でも、到底歯が立たないんだから仕方ないだろ?」
「そうやな」
アキは一拍置いてから、ゆっくりと続ける。
「ミサキだって分かってるって思うで? でも、正解と感情は必ずしも一致せんやろ?」
「……」
「あんたが少しでも面倒くさいと思ったなら、これからのためにちゃんとミサキの話を聞いてやりや」
その言葉を言ってから、アキは離れていった。




