三十一話 ずっと自分たちでいたい
ライブが始まった。皆それぞれの思いを胸に。キラキラ輝く彼らの姿は初めて出会った日からは想像もつかないくらい大きいものだった。この物語が、いつまでも続いて欲しいと願って。
そして待ちに待ったライブが始まった。私は舞台袖で常にメンバーを見守る立ち位置にいた。もし不足の事態が起きた場合は私が真っ先に動く。あれだけ入念に準備をしたから、今の所不安材料はないが。
長い余韻の後、メンバーが登場するとファンの歓声が会場を包み込んだ。サイリウムに照らされる八人の姿があった。服がキラキラしているから、ではなく本当に彼ら自身の輝きが舞台袖まで伝わってきて、歳のせいか涙もろくなった私はまた泣きそうになってしまった。初めにデビューシングルの二曲を歌った。まだDreaming Makerは曲数があまり多くなかったが、今回のライブに際した書き下ろし曲もいくつか用意されていた。その中には作詞作曲を躑躅森レイヤが担当するものもあった。あの人はアイドルをしながらも曲作りの才能にも長けており、ちゃらんぽらんなところもあるが実力は確かな人だ。メンバーはセットリストを次々とこなして行った。
途中でMCのコーナーも挟んだ。この後は明石くんから順にソロ曲、デュエット曲のパートになる。そのままMCコーナーを見守っていると、ふと異変に気付いた。ここからでも分かる、御影くんが震えているように見えた。時折胸を撫で下ろし、肩で呼吸をしていた。幸い次のパートの御影くんの出番はまだまだ先だ。そしてMCコーナーもそろそろ終わりになる。メンバーがはけていく中、凰太くんに肩を預け、息の荒い御影くんが舞台袖に帰ってきた。すぐに私は備え付けのベッドまで御影くんを案内した。
「あの…カバンの中にある、薬…」
「薬?…えっと、これ?」
御影くんのカバンから、薬が入った袋を取り出す。水を渡すと沢山の錠剤を飲み込んだ。
「ていうか御影くん、このお薬私知らないんですけど、私に何も話してませんよね?」
「ああ、心配させちゃいけないと思ってずっと隠してて…」
アレルギーや薬など、処方箋はちゃんとマネージャーや会社に伝える約束だ。
「御影く〜ん!その方が余計に心配じゃないですか!何の薬ですか、さっさと言う!」
私が久々に怒ると、御影くんは俯いた。
「えっと…喘息なんです。子供の頃はひどかったです。それでも一時期落ち着いたんですけど、Dreaming Makerに入ってから酷くなってまた薬を貰いに行って。」
その言葉に私以外の関係者も御影くんに歩み寄る。
「ごめんなさい…どうしても、喘息でもなんでもアイドルしたかったんです。お願いします、このステージだけは、最後まで出させてください。これからはちゃんと報告しますから。」ベッドから立ち上がり、深々と礼をした。もう息もだいぶ落ち着いてきたようで、出番も迫っていた。
「事務所帰ってから怖ーい社長に報告ですからね!反省文も書かせますよ!でも今は、アイドル''御影天''でいてください。やりきってきてね。」
「う、うん!」
御影くんは顔をぱっと明るくして衣装を着替えにその場を離れた。
その後も御影くんのソロも問題なく終え、書き下ろし曲が次々と披露されていった。アンコールも受け、踊りきった彼らのステージは幕を閉じた。
舞台袖に帰ってきた彼らは額に汗を浮かべ、ぐったりとその場に座り込んだ。
「マネージャー!水、水!」
「はいはい分かってます!」
冷蔵庫からキンキンに冷えた水を渡すとメンバーは一気に半分くらい飲み干した。
「見てくれたかな、皆!お姉ちゃんたちのこと思い浮かべながら歌ったんだ!」
「きっと見てくれているさ。俺たちのステージには悔いも何も残っていない。今日、今出せる全てを出し切った。」
「明日からまた次の仕事で大忙しだなぁ…!アイドルとしては、すごい嬉しいけど!」
皆早口に感想を口にした。その目は何よりもキラキラと輝いていた。余韻も残るが、事務所に戻って社長たちにライブ報告をしに、またバスに乗り込んだ。
「ただ今戻りました!」
社長の前にメンバーを連れ、深々と礼をする。いつも険しい顔をしている社長だが、今日はどこか満足そうに見えた。
「よくやったよ。おめでとう。これでまた一歩前に進んだな。」
ぶっきらぼうな口調は変わらないが、祝福してくれているようだ。メンバー一人一人の口から感想を聞くたびに、深く頷き言葉を返していただいた。そして、御影くんの薬の話も伝えた。メンバーはその内容に驚き、明石くんが「お前、重大な隠し事とかやめろよ。わがまま貫き通すな。」と注意すると「えへへ、ごめん」と苦笑いしながら返した。一方の社長は驚く様子もなく、「知っていた。御影の口から直接聞くのを待っていた。私があぶりだしても本人の成長には繋がらないからな。」と返した。御影くんは今度こそ申し訳ない、とお辞儀をした。反省文を書かせ、今後は報告をしっかりとします。と反省していた様子だった。
それから、彼らは壁にぶち当たることも度々あったが、自力で乗り越えて、八人バラバラになることなく年月を重ねていった。何年も何年も、ずっと自分たちでいたい、という願いを胸に。その願いは、有効期限切れが迫っていたが。




