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Dreaming Maker Memories  作者: 菖蒲P(あやめぴー)
一章
30/33

二十九話 真っ直ぐに伝えてください

その後大地はシャインエール・プロダクションに異動した。事務所が変わっても償いとしてマネージャーを続けるつもりだったが…そしてDreaming Makerの単独ライブが決定する。メンバーも世奈も、ひたすらに突き進む。

「新入り…ですか?」

上司から聞いた話によると、今日からうちの事務所に新入りマネージャーと新しいアイドルたちが入るらしい。急遽決まったという事項に関係者は慌てている様子だった。いや、私も急遽関係者となったわけだが。なんでもその新入りマネージャーの教育を私が担当するらしい。私ももちろんDreamingMakerの皆もいて忙しいが、他に人手がいないらしく仕方なく私に任せることにしたらしい。まぁそれはいいのだが、相手はどんな人なのだろうか。

「ちょっとワケありの人で、君にも見覚えがあるあの人だよ。」

上司のその言葉で私は大方理解した。そろそろこちらに来るらしい。きっと大地だ。ドアが開くと、ひときわ背の高い男が「おはようございます、新入りの沢城大地です。よろしくお願いします。」と礼をした。シワ一つないスーツ姿の大地だった。いつもと変わらない見た目だが、顔が少しやつれているのは分かった。


「よろしく〜。菅井さんには詳しい話は後でするから、とりあえず今日は沢城くんを見ててね。マニュアルは渡しておくから。あとDreaming Makerのレッスン日とは被らないようにしているから菅井さんはめちゃくちゃ出勤日が増えるわけだけど〜。その分稼ぎが出るということでよろしく。」

出勤日が増えたくらいで私はへこたれないし体も丈夫だ。と思いやってみせます、と頷いた。その日は大地について歩いた。


その日は顔合わせとレッスン内容や仕事についての話が主だった。新しいアイドルたちは女の子二人。あの二人のことを思い出したりしないだろうか、と最初から心配していたが、その心配は的中した。たまに間違えて伶奈ちゃん、灯ちゃん、と呼びそうになっていたり、ずっと重い表情のままだった。事務所の屋上、大地に缶コーヒーを渡す。

「…ねぇ、今誰かに話したいこととか打ち明けたいこと、楽しい思い出話でも辛い話でも、何かない?」

大地にそう聞いた。話せば少し楽になる、今までの経験上、アイドルたちとお互い声を交わしている時が一番生き生きしていたと思っている。大地も話して楽になるなら私は話を聞いてあげたい。

「…伶奈ちゃんと灯ちゃんとの昔話、いいですか?」

うん、と頷きゆっくり話す大地の言葉に耳を傾けた。


「出会った初日は伶奈ちゃんは僕にも灯ちゃんにも心を開いてくれませんでした。一人で頑張る、みたいなことを言っていました。それに対して灯ちゃんは二人で輝くんだ、って言い切って、喧嘩になって。それでいざ初めてのステージに立った時。草が生い茂る空き地みたいなところでのステージ、ステージとも言い難いものでしたが、意外と二人とも息ぴったりで、そこで初めて意気投合しました。観客はその辺を歩いていた子供くらいしかいませんでしたが、三人で喜びを分かち合いました。」

そう言ってコーヒーを一口飲んだ。私たちと出会った時は、性格が真逆なのは分かったけれど息は合っていると思っていた。二人と出会った時の話を聞かせてくれた。

「灯ちゃんはお爺様が事務所の上層部にいるので、とても可愛がられていました。それでも調子に乗ったりはせずに、自分の実力だけでやっていくってはっきりと言い切ってくれました。伶奈ちゃんは灯ちゃんのお爺様から敬遠されていて、それで傷つく場面もありました。灯ちゃんも上手く慰めることができないと僕に泣きついてきて。灯ちゃんと二人で、また心を閉ざしかけた伶奈ちゃんに話をすることにしました。話していく内に、少しずつですが「そんな大人に負けない、私は灯とずっと一緒に歌って踊る」という思いを抱いてくれるようになりました。二人は誰にも負けない親友だったんです。」

「本当にいい子達だね。うちの八人も、アクは強いけど皆根は素直で、手こずってばっかりだけど、いつも最後にはアイドルになってくれる。Dreaming Makerに、夢を託してくれる人がたくさんいたら、私ももっと頑張らなくちゃいけないね。」

そう言って私はベンチから立ち上がった。




そして翌日、一本の知らせが事務所に届いた。ついに決まったのだ。再来月に、Dreaming Makerの単独ライブが行われることになったのだ。すぐにメンバーにも伝えた。メンバーは喜びを隠しきれない様子だった。

「それまでにたくさん宣伝しますから、もうマジで忙しいですからね!体調にはどうか気をつけて!」

「マネージャーさんも、ね。最近ほとんど休んでないって聞いたから。」

御影くんに指摘され、思わず苦い顔をしてしまった。ここ最近本当に休めてなくて寝不足とか朝飯抜きが当たり前になっていた。マネージャーとして皆に迷惑かけないように、倒れないように、それを念頭に置くことにした。それからの日々は駆け足で過ぎ去っていった。レッスンを重ねて、直すところや伸ばすところを見つけ、愛想の良い笑顔をファンに振りまいて。そうして単独ライブは一か月を切った。


その頃、単独ライブにばかり集中していられない事態も起きていた。大地と女子アイドル二人、仲違いが起きていた。埋まらないほど溝が深くなっていた。私はあくまで教育係だから、これ以上口出しはできない。経過を見守るしかなかったが、大地はあの二人のようなアイドル像を目の前の女の子二人に求めていたのだ。大地にはまだあの二人が見えているのかもしれない。思い通りにならない目の前の現状に大地は腹を立て、今まで見たことのないくらい顔を真っ赤にして叱責をしていた。私も流石に止めに入ろうとしたが、大地に振り払われ手出しができなかった。その数日後、ユニットは解散、女の子二人は事務所を退所したのだった。


カレンダーにどんどんバツ印が足されていく。その向こうにある丸印がもう目の前に迫っていた。私は改めてメンバーに向き直り話をした。

「今のうちに、話しておきたいことはありますか?嬉しかったことでも悲しいことでも、なんでもいいです。少しでも気持ちを伝えてもらいたいんです。」

そういうと、御影くんが挙手した。

「えっと、また僕の弟、陽昇が見に来るんです。今度こそ、心からアイドルを目指してもらいたいって思っています。僕にできることってなんでしょう?」

「そうですね、以前は緊張が上回って体調に支障をきたしましたけど、ここまでがむしゃらに突っ走ってきた御影くんにはタフなハートが身についているはずです。あまりあれこれ計画を立ててはかえって不具合が生じた時に対応が難しくなります。心のままに動いてください。陽昇くんに伝えたいことを、真っ直ぐに伝えてください。」

そう言って御影くんの手を握った。御影くんは笑顔で「はい!」と返した。

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