二十六話 道を明るく灯すユニットリーダー
番組の台本に納得がいかない圭人たち。世奈も交渉するが、番組の内容は変えられないと断言され、その番組は降りることに。次の仕事の雑誌インタビューとグラビア撮影で、圭人はリーダーとしての在り方に悩んでいることを明かす。
数日後のリハーサル、明石くんたちの意見を元に私は番組プロデューサーに台本の変更を求めることにした。リハーサル前に番組プロデューサーに声をかけ、話を始めた矢先にこう言われた。
「馬鹿じゃないの?」と。
「…メンバーの意見があったんです。この台本は少しふざけすぎです。私も台本を全部読んで憤りさえ覚えました。彼らにしかできない芸を…」
「これが出来ないならさっさと番組降りてよ。代わりならすぐ探してくるよ。」
その言葉に私は言葉が返せなくなった。そこに足音が二つ近づいてきた。私の前に明石くんと御影くんが立ちふさがった。
「今の言葉は流石に聞き捨てなりません。僕たち心から決めました。ね、明石くん。」
「ああ。もちろんこの番組からは降ります。出演を選ぶ権利はこちらにありますから。あんたたちのおもちゃになるくらいなら、もっと別の仕事探しますよ。」
二人とも明らかに冷静さを欠いていた。後ろを振り返ると、同じように憤りを覚えた様子のメンバーが立っていた。メンバー全員番組を降りる気だ。私としては皆に合わせたい、と思う反面、このチャンスを逃して周りに遅れを取らないか、という心配もあった。それでも皆の意思の固さを汲んで私は頭を下げ、この番組からは降りることになった。次の仕事はあと二週間後に迫った雑誌の特集だ。
そうこうしている間、ここ二週間くらいで彼女たち二人をテレビで見かけることが多くなった。Rock'in Heartの二人はCM出演をきっかけにメディアへの露出が増えてきたのだ。大地も忙しいと度々近況を報告してきた。私たちは確実にスタートダッシュで遅れをとった。いや、スタート地点は同じで、ホイッスルを鳴らされて駆け出したタイミングも同じはずだった。でも、運命のいたずらか、私たちは泥沼に足を取られていた。その責任を一番感じていたのは私、ではなくリーダーの明石くんだった。最近は他メンバーとの些細な喧嘩も増えてきた。明らかにピリピリとして張り詰めた雰囲気が漂っていた。その日のレッスン終わり、皆がバラバラに帰る中、明石くんの携帯が鳴り、立ち止まって携帯を開いていた。私はその横を通り過ぎた。
数日後、皆まだピリピリした中で雑誌の特集記事のためのインタビュー、撮影を始めた。私も後ろで見守っていた。経過をしばらく見ていると雑誌編集部の男性が私を手招きした。案内されるままついていくと、パイプ椅子に腰掛けた八人の横、クッションが敷かれた木製の椅子が私に用意された。
「ど、どういうことですか?私マネージャーですし、今インタビュー中ですよね?」
「この子たちの本当の姿を見るためには、貴女が必要だと思ってね。あ、そういえばデビューシングル買いましたよ。あの番組を見まして。」
男性はにこやかな顔で私とメンバーの手を順番に握った。
「菅井マネージャーも、今日はよろしくお願いします。私こういう者です。」
男性は懐から名刺を取り出した。私も慌てて名刺を差し出した。私の手に握らされた名刺、名前を見て驚いた。
「躑躅森さん…ですか?」
「いかにも。躑躅森レイヤの親戚なんですけどね。レイヤから話は聞いていて、マネージャーさんには是非会いたいと思っていたんですよ。アイドルとして夢と希望を抱いた彼らと、マネージャーとして皆の夢への道を指し示す貴女の九人組、私は九人の声を聞きたいし、皆に貴女たちの絆を、魅力を届けたいと思ったんですよ。」
そう言ってまた躑躅森さんはにこやかな笑みを浮かべた。
そうして私も交えた(私の名前は雑誌には出ないけど)インタビューコーナーが始まった。質問はベタなものから幼少期の自分や思い出話など、多岐に渡った。時折私にも質問が振られ、ドギマギしながらも答えた。段々メンバーの顔にも明るさが戻ってきたように見えた。そんな中でもまだ明石くんは暗い顔のままだったが。その様子を見かねた躑躅森さんが明石くんに一つ質問をした。
「明石くん、君はリーダーとして皆を引っ張っていきたいって思っているのかな?」
「…そんなの、当たり前じゃないですか!」
明石くんは思わず椅子から立ち上がった。すぐにハッとしてやるせなさそうに椅子に座り直したが。
「…だってリーダーだから、皆を引っ張るのは義務だし、皆を輝かせるのはマネージャーや講師の先生の仕事かもしれないけど、ステージには俺たち八人しか上がれないから、俺の指揮で全てが変わるんです。俺、デビューして1ヶ月も経たないうちはリーダーとしての自覚なんてさっぱり無かったし、カッコつけたいとかカッコイイって言われたいのは今も昔もですけど、リーダーとしてのプライドは昔は無かったです。でも、それでもリーダーに指名されたんだ。中身がスカスカじゃカッコ悪い。皆に頼られる器にならなきゃいけない。俺には皆を守って引っ張る義務があるんだ。雄大とか御影より、パフォーマンスは劣っているけど、それも穴埋めしなくちゃいけない。」
明石くんの思いが口から溢れ出る。初日の明石くんはリーダーに指名されたことすら覚えていなかった。それが今は、リーダーとしての在り方に葛藤していた。私は思わず感極まって泣きそうになってしまった。
「君はよく皆のことを考えているね。レイヤと会った時の話も聞いたけど、その時の君より成長しているんじゃないかな。そこで私は、そんな伸び代と夢と希望と若さの塊の君に一つ提案をしたい。君の思うリーダー像、ユニットで一番上に立てる素質のある、皆を先頭で引っ張っていけるというものだと今教えてくれたよね。僕は今まで数々のアイドルやボーカルグループなんかを見てきたけど、そんな完璧なリーダーはなかなかいなかったよ。僕は君を見て思った。君には皆を支える力、皆からも支えられる器があると思うんだ。皆の行き先を、道を明るく灯すユニットリーダーってアリじゃない?先頭じゃなくても、真ん中だって一番後ろにいたって、君のそのリーダーとしての自覚を見たメンバーは君を裏切ることはない。一緒のペースで九人で歩いていけるんじゃないかな。」
「道を…明るく灯す…?」
明石くんはハッとした顔をして自分の手のひらを見つめた。
「…俺、数日前にRock'in Heartのリーダーの石須伶奈と電話したんです。掛かってきた時は驚いたし、嫌味でも言いに来たのか、と思ったけど、なんてことない近況報告が主でした。Rock'in Heartとはデビュー間もない頃に合同合宿したんですけど、伶奈はリーダーだけど、さっき俺が言ったようなリーダーとしての素質は無かったです。おそらく俺たちの知らない場所でも努力を重ねてきたんだと思います。大人たちの待遇にも苦心していた様子だったけど、あいつはリーダーである以前に、一人のアイドルとして、心を許した灯と二人で同じ歩幅で進んでいたんです。俺は、正直まだ心を許していないメンバーもいます。上辺だけで付き合っているような、そんな奴も。それは単純に性格の不一致とか、考えの合わなさが原因でしょうけど、伶奈の楽しそうな声聴いてたら、俺って何に囚われていたんだろう、なんで他人に壁作ってんだろうって情けなくなりました。道を明るく灯すユニットリーダーになれたら…皆に心開けるのかな。」
この間の電話は伶奈ちゃんからだったらしい。伶奈ちゃんは嫌味なんて何一つ言わずに、喜びを伝えてくれたようだ。
「うーん…圭人さぁ、いつも小難しいことばっかり考えてるよね。もっとこうフィーリングで生きてもいいんじゃないの?」
「そうだ、人間関係なんてトンカチで叩いて直るか壊れるかの二択だ。俺はそういうこまけぇこと考えたことねーけど、俺はお前を信頼してるぞ。デビュー当初のお前はなんかスカした年上って感じではあったけど、今は違う。必死こいてるじゃねーか。お前泥臭い努力とか嫌いって今も言ってるけど、めっちゃ努力してただろ。」
明石くんにとっての気の許せる二人、久瀬くんと織くんは優しい笑顔で明石くんを励ました。
「言ってる意味ぜーんぜん分かんないけど、俺は明石さんがリーダーで良かったって思うよ!俺ならリーダーって仕事に対してこんなに真面目に悩めないよ!」
「明石は当初は虚栄心が強かったと思うが、今のお前は見栄を張るとか自分を見てもらいたいとか、そういうことよりも俺たち七人に対する信頼と努力を惜しまない気持ちが上回っているぞ。」
「うんうん、僕たちのこと信じてくれてありがとう。僕たちももう君を信じてる。裏切られることはないはずって確信がある!」
メンバーの暖かい声音に明石くんは表情が緩んだ。
「明石くんが僕のこと嫌いなのは知ってるよ。そもそも僕、 色んな人から嫌われやすいから慣れっこだけど。でも拒絶とかじゃなくて、僕のことまだ諦めてないんだよね。僕はこれからも僕を貫き通すし、これからも背中合わせの二人、背中を預け合える二人で行こうよ。」
「…ほんと、気にくわないな。」
御影くんの放つ言葉に、明石くんは笑顔で返した。私は初めて御影くんの言葉に笑顔で返す明石くんを見た気がする。その後のインタビュー、グラビア撮影も順調に進んでいった。




