二十三話 聞かせてくれてありがとう
個性を伸ばす個人レッスンを行うことになった。その矢先また喧嘩が起こった。雄大ははやる気持ちを抑えられないと語る。その後Rock'in Heartの二人の話を聞いて世奈は自分のことのように嬉しくなった。
それから、八人の持つ個性を引き出すレッスンを加えることになった。具体的なレッスン内容は講師の先生に任せることになるが、マネージャーとして客観的に見た意見も講師の先生には伝えてある。先生と話したが、皆の長所を客観的に見たときに、私から見ても先生から見てもメンバーの中で一番個性が飛び抜けているのはダンスが得意な織くんだった。あの子は調子に乗りやすいのでその事は伝えていないが。
サイン会から数日経った今日、中にはまだ余韻に浸っているメンバーもいた。
「皆さーん。そろそろ余韻から抜け出して、レッスンですよー。」
私のそんな呼びかけには耳も向けずに織くんは喋り出した。
「俺の後輩が来てたの見たか!?皆照れてちゃんと顔見てくれなかったけど、千尋は相変わらず俺にべったりだったしやっぱりあいつは可愛い後輩だな!」
「お前は可愛い後輩じゃないけどね。」
「そうだね〜。」
「うるせぇ!カッコよくない先輩は黙ってな!」
皆元気なのはいいことだが、レッスン内容は大分厳しくなる。私は直接話をしていないが、実はあの怖ーい社長も講師の先生と話をしたそうだ。もしかしたらまた偵察に来るかもしれない、とのことだ。そのことを伝えたら皆口から魂が抜けるから、言わないでおこう。
「と!いうわけで〜、ここからさらに個性を伸ばす個人レッスンになります〜!お疲れでしょうけど、ビシバシ行っちゃってください!」
講師の先生が私の声に頷いた。皆熱が入っている。雪室くんは中でもやる気がとてもあった。自分を変えたいという願いが強いのだろう。そんな雪室くんにはパフォーマンス中のファンサービスやトーク術についてのレッスンを課せた。苦戦しながらも何度も顔を上げて挑戦している。レッスンが始まったところで私は一旦部屋を離れた。冷蔵庫から出した冷えたスポーツドリンクの段ボールを抱えてもう一度部屋に戻った。
「戻りましたー…」そう言って部屋に戻った私は、目の前の光景に抱えた段ボールを落としそうになった。
「テメェ、ナメてんじゃねーぞクソガキ!」
「…や、やめてよ。年下に掴みかかって、恥ずかしくないの?」
「ツタ兄は何も悪くないだろー!離せよこの巨人!」
織くんが蔦屋くんに掴みかかっていた。花咲くんが織くんを引き剥がそうとするがビクともしない。
「なんですか、もう!織くん、蔦屋くん、頭を冷やして説明…」
私がそう言いかけると、雄大くんの腕が力強く私の体に振り払われた。後ろによろけると雪室くんと遠山くんが私の体を支えてくれた。
「マネージャーさんに手を上げるな、冷静になれ織。」
「織くん、落ち着いて。」
「…分かってるよ…悪かった。」
織くんは以前ほど暴走はしていない様子だ。申し訳なさそうに一度だけこちらに目を合わせた。
「僕にも謝ってよ。マネージャーさんも話を聞けば分かるから。」
「…わーったよ!マネージャーにも話す!」
いつにもなくご立腹の蔦屋くんの睨みを受けて織くんはますます申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「俺のレッスンはダンスだったんだ。俺は自分の実力見せつけるチャンスだと思ってすげぇ嬉しくて、自慢気になって踊り出したらセンセーからダメって言われて。そしたら蔦屋が『僕も教えてあげようか?』って言い出しやがって、頭にきたんだ。蔦屋に何が分かるんだって。」
「確かに僕はダンスも歌もまだまだ未発達で雄大にも敵わないけど、僕は協力し合えたら少しでも前に進めると思ったんだ。僕たち今までずっと協力し合って解決してきたんだから、それを忘れるなって思ったんだ。」
二人はそう説明してくれた。
「そうですね、皆で協力し合う、結束するってことは前も話しましたよね。織くんもそれを分かっているとは思うけど、先に行きたくなる気持ちが勝って一人走り出したって感じですか?」
「…まーそうだな。俺自慢とか好きだし、誰かにチヤホヤされてーし、周りが着いてこないなら一人だっていいってどこかで思ってんだ。一人だけならともかく、俺たちは八人組なんだ。結局八人で進まなきゃDreaming Makerとしては成長できねーのによ…自分にブレーキかけたりするの苦手なんだよ。」
ため息をついてすっかり意気消沈した様子だ。
「ごめんね、仲直り。僕たちのこと頼ってほしいし、雄大のことも頼らせてね。」
座り込んだ織くんにしゃがんだ永遠くんが小指を向けた。織くんはやるせなさそうに小指を繋ぎ返した。
その後のレッスンは割と順調に進んで、解散の時間になった。皆さっさと部屋を出て行った。私も部屋を出て行こうとした時に、携帯に着信が入った。大地からだ。どうしたんだろう。
「もしもし〜、大地?」
『はい、世奈さん、お久しぶりです。』
大地の声が返ってきた。
「それで、何か用事?」
『用事ってほどでもないんですけど、ちょっと話聞いて欲しくて。伶奈ちゃんたちに変わりますね…』
『よー!世奈さん!あのさあのさ!…』
『声が大きい!すみません。』
電話に伶奈ちゃんと灯ちゃんが出てきた。二人ともいつもの元気っぷりが声でも分かる。いや、いつも以上に元気な声音だ。
『…えっとですね、私たちRock'in Heart、CM出演が決定したんです!えっと、ただそれを自慢したかっただけなんですけど…すみません、余計な時間取らせてしまって…』
「…い、いや!自分のことみたいに嬉しいよ!聞かせてくれてありがとう!」
私はその場で飛び跳ねるくらい嬉しくなった。CM出演が決定したという事実にも、彼女たちの生き生きした声音にも。やっぱり嬉しい話って話す側も聞く側も幸せになれるんだな、と思った。織くん、元気なさそうだったから自慢話聞いてあげようかな。と思った。




