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Dreaming Maker Memories  作者: 菖蒲P(あやめぴー)
一章
23/33

二十二話 なりたい自分になるんだ

デビューシングル発売日に、Dreaming Makerのメンバーはサイン会を行うことになった。意気込むメンバーもいれば、対人スキルが危うく緊張に苛まれるメンバーも。

Dreaming Maker、Rock'in Heartたち新人アイドル出演の番組の放映日、それはつまりDreaming Makerのデビューシングル発売日に当たる。それに際してCDショップでのサイン会が開かれることになった。有名なCDショップ…ではなく外れの方にある小さな個人経営のお店ではあるが、割と高頻度で歌手やアイドルのCD発売記念のイベントなどを開いているそうだ。一度メンバーと偵察に行ったが、店の中にはサインがずらり。中には聞いたことのある歌手のサインもあった。花咲くんは一番サイン会にワクワクして、紙を見つけてはサインを書き連ねた。織くんはユニット入り前まで通っていたダンススクールの後輩たちにサイン会に参加するように声をかけているらしい。皆出会った初日とは違って一つの目標に向かっている、そんな感じがした。そんな中、ふとメンバーに目を配ると、一人、ため息の多い子がいた。


「雪室くん?皆こんなに楽しそうなのに、あなただけなんか元気ないですよ?」

声をかけると雪室くんはいつもの笑み、もとい苦笑いを浮かべた。

「あはは…この間の番組は大勢に見せるものだったからまだいいけど、サイン会はファン一人一人に向き合うんですよね。見ての通り僕、人と心を通わせるのが苦手なんです。どうしても自分の本音を隠しちゃうというか…」

確かに雪室くんは出会った時から自分の意見は控えめだった。いつも中間でメンバーを繋ぎ止める役目で、最年長らしいっちゃらしいけど、いまいち個性が足りないというか、隠してるようにも見えた。雪室くんも葛藤してるんだなぁ。またマネージャーらしく手を貸して、全力でサポートするしかない。と心に誓った。




不安はありつつも雪室くんも人と話す練習を重ねたらしい。私とも目が合う頻度が高くなった。そうしてサイン会は当日を迎えた。

「サイン、サイン!早く皆に書いてあげたいなー!」

「うん、僕も楽しみ。」

店の外にはファンの列。そんなに大勢ではないが、デビュー間もないアイドルにしてはファンも多い方だと思う。メンバーと私は時間前まで店の裏側で待機していた。

「さぁ、そろそろ時間になりますよ!サインをして、ファンの言葉を真摯に受け取って、笑顔で返してあげるんです!それがワンセット!皆さんの魅力を伝える大チャンスですから、自然体で臨んでくださいね!」

私の声にメンバーも声を揃え、店の中に入った。私は小窓からこっそりと彼らの様子を覗くことにした。


店主のおじさんが慣れた様子でファンを誘導する。すると、おじさんの誘導をくぐり抜け、真っ先にメンバーの前に現れた女の子、とその子に腕を掴まれているもう一人の女の子がいた。見覚えのある顔、灯ちゃんと伶奈ちゃんだった。

「ようお前ら!来たぜ!なぁなぁ、今日買った新品の白シャツにサインしてくれよ!胸のところと腹と、腕と、背中!さぁ遠慮なく!」

「ちょっとちょっと、勝手に誘導抜けちゃダメでしょ!それとちゃんとパンフレットにサインしてもらう約束なんだから!」

相変わらずのかしまし娘である。おじさんになだめられ一度元の位置に戻り、大人しくなった二人はパンフレットにメンバーからサインをもらった。最初のファンがRock'in Heartの二人で良かったと私は安心した。これで調子付いて緊張もそこそこに進められるだろうと思った。そう確信してメンバーの顔を一人一人見つめると、雪室くんが一人だけ先ほどよりもさらに緊張していた。あちゃー、あの二人が逆効果だったか。私もドキドキしながら様子を見届けた。


先ほどの灯ちゃん、伶奈ちゃんの大声はともかく、小窓から覗いている限りではファンとメンバーの会話は聞こえてこない。ファンはここから見える角度的に私の方に背中を向けているので表情も分からない。うまく行ってるか否かは、メンバーの表情を確認するしかない。


まずは明石くん、いつも通りの笑みを浮かべて愛想はいい感じだ。織くんはやたら動きが大きいが、ファンも喜んでいる、ように見えた。久瀬くんは一人一人に握手までしてファンサービス精神旺盛だ。一応サイン会だから握手はいらないのだが、それは後で注意しておくとしてまぁ悪くはないと思う。割と控え目な性格の蔦屋くんも頑張っている様子が見えた。笑顔はたまにぎこちないが、努力が上回っているように見える。親バカかもしれないが私としては許容範囲内である。花咲くんは時折やる気が空回りしそうになりながらも元気に、時折椅子から立ち上がってファンに気持ちを伝えていた。ファンも何度も頷いていた。その隣にいるのが雪室くんである。どうだろう、サインを書いて、ファンの言葉を聞いている。うん、それはいいんだけど、笑顔が緊張に負けていた。ファンの列もどんどん前に進み残り少なくなっていくその度に、雪室くんは最後尾のプラカードを確認していた。雪室くんのさらに向こう側にいる遠山くん、御影くんが時折雪室くんに声をかけている様子が見えた。全員のサインが終わったところで私はおじさんに手招きをされ、メンバーたちの元へ駆け寄った。


おじさんはやれやれ、と言ったポーズをして雪室くんを鼻で指した。

「雪室くーん、生きてますかー?」

「死んでまーす。」

机に突っ伏した雪室くんはうっすら目に涙を浮かべていた。そこにおじさんが歩み寄り、雪室くんの肩をポンと叩いた。

「ただ、改善の余地がないわけじゃないぞ坊主。お前の強みを見つけることができたら、緊張をも上回る結果が出るはずだ。自分のやりたいことを一番に考えて、なりたい自分になるんだ。キャラ作りだっていい。他人から愛されて、自分自身も愛せたらそれで問題ないんだからよ。」

「なりたい自分…」

雪室くんは涙を拭い、天井を見上げた。

「…僕は、こんな引っ込み思案だけど、笑うことが好きです。誰かを僕の力で笑わせたらとっても嬉しい。アイドルになるなら、誰かを幸せにできる、腹から笑わせるような一人のアイドルになりたいです。」

雪室くんに笑顔が戻ってきた。心からの笑顔だ。

「じゃあ雪室くん、皆を笑いの力で幸せにするアイドルになってみますか?」

「…はい!ビシバシお願いします!」

私の提案に雪室くんは頷いた。そしてメンバーに向き直る。

「というわけで、雪室くん以外の皆さんにも個性や強みを活かしてもらう時が来ました!皆さんの長所を伸ばす特訓もしていきますよー!」

揃った返事が返ってきた。デビューシングルが発売し、ひと段落ついたところでレッスンの内容もより深いものにすることになった。一人一人の魅力を引き出していく役目も私にある。私も体調に気をつけてメンバーをより一層鍛えていく覚悟をした。

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