十四話 完璧なわけないよ
合宿を早めに切り上げ、いつものレッスン室に戻ってきた。そこにはぐったりした8人の姿。「あの人」から直々にレッスンを受けたらしい。とても怖い人だけれど、実力は十分だ。世奈は、自分の不甲斐なさを実感した。
なんだか今日は一日が終わるのが早い気がした。ほとんどベッドから立ち上がることなく、気がついたら日が暮れ出していた。皆そろそろご飯かな?あ、私のご飯も来たみたい。
「ありがとうございます…」お粥だ。まぁ定番だよね。看護師さんに手伝ってもらいながらなんとか食べきった。
昨日以来メンバーの顔を見ておらず、少し寂しい気持ちにもなっていた。看護師さんが部屋を後にした時を見計らい、『病人がむやみに携帯をいじらない』というのは分かっていたのだが、『皆の様子を見たい』と御影くんにメールを送った。しばらくして動画ファイル付きの返信が来た。動画を開いてみる。皆口々に「マネージャー大丈夫?」「昨日はごめんなさい」などこちらを見つめて話してくれた。嬉しくなったところで看護師さんらしき足音を聞きつけ携帯を閉じ、寝ているふりをして、そのまま爆睡した。
翌朝、昨日よりは下がったがまだ熱があるので、私だけ別の車で山から下りて見慣れた街に到着した。その後すぐ病院に駆け込み三日間休養をとらせてもらうことにした。その間にも新曲発表に向けて、そして番組出演に向けてのレッスンがみっちり入っているが、上司がそこは任せてくれ、と言ってくれたので今は自分の体調を戻すことに専念しよう。
三日後。すっかり平熱に戻った私はいつも通りの時間に出社した。デスクに着き、溜まった書類の山を整理して、久々のレッスン部屋に向かった。今日はいつも横で見てくれる上司は休みなので一人だ。三日間とお礼は後日伝えよう。さぁ今日もレッスンレッスン!レッスン室に到着し、勢いよくドアを開けた。
「おはよーございまーす!!お久しぶりですお元気でしたか……おぉ?」そこにはすでに満身創痍と言った様子で横たわったりしている8人の姿があった。レッスン着にはすでに汗染みが付いていた。
「ええっと、状況が読めないんですけど一体これは?」「おかえりなさーい!!!」私が右往左往していると、全員私を囲って「おかえりなさい」「待ってました」「愛しのマネージャー!」などと言って泣きそうな顔をしていた。ますます状況が分からない。
「明石くん、リーダーらしくこの状況を説明してください。」「どうしたもこうしたもないんだ。この三日間、誰が俺たちの相手してくれたと思う?」「え?あのいつも私の隣で見てくれてる上司ではなく?」「しゃ・ちょ・う。」「…!?」その声に私は尻餅をついた。
「うそ、あの社長が…!?」我がシャインエール・プロダクション社長。双子らしくて、双子の弟の方は関連子会社の社長をしている。うちの社長は兄の方。社長はとっても…スパルタなのだ。
「鬼みたいだった〜!ツタ兄も手出しできなかったんだよ!悪い人だー!!」「僕もちびりそうになったもん…」「目つきが、怖かった…」「ただ暴力だけは振るわれなかったのでそこだけは救いですが。」「俺も流石にアレには太刀打ちできなかった。」「いや、でも真面目な特訓ではあったんだけど…」「悪い人では…ないと信じたい。」「皆、お疲れ様です。私が帰ってきたからにはもう少しゆとりを持ってやれますから!」皆を安心させるしかない。そしてもう一つの疑問。
「そういえば、なんで皆さんそんなに汗びっしょりなんですか?トレーニングはまだのはず…」
「社長が朝からトレーニングこなせって言ってきて、そのノルマを達成しようとしてたんだ。これがそのノルマ。」紙切れを差し出す明石くん。内容に目ん玉が飛び出そうになった。
「あ、僕が考案した二人三脚とかは褒められて入れてもらったんですけど、その他にもそこに書いている通りたっくさん…」「お疲れ様です!!」思わず私は土下座してしまった。
「マネージャー、ちょっと休憩取らせてよ。少しだけだから、お願い。」「汗が引くまで休んでください。皆さん社長のノルマ、サボらずにこなして偉いです。あとで三日間どんなトレーニングをしたか教えてもらういますね。今はどうかゆっくり休んでください…」8人はまた横たわった。
「そろそろいいですかね?まず三日間のトレーニング内容を教えてください。」私の問いかけに一人一人答える。
「新曲の歌唱、振り付け、基本だけどしっかりやれって言われてほぼ休みなしに叩き込んだ。」
「さっき言った鬼スパルタ体力作りメニュー。これで全員基礎体力はついたと思う。」
「あと個人個人の苦手を見てくれて、個人メニューも組んでくれた。例えば俺は体を柔らかくしてダンスを俊敏に、綺麗に見せるトレーニングとか。」
「僕が提案した二人三脚水中息止めも何セットも。チームワークは身についたかな。」「…それ、社長が全部一人で?」怖いだけの人では無い。長年芸能人の卵を見てきただけあって、マネージメントの実力も申し分ないのだ。私もそれくらい要領よく動いて、この子達をもっとうまくさせたいと強く思った。
「番組のリハーサルも!ばんぐみかんけーしゃさんがいっぱい来て、話す内容とか教えてくれた!」「さすが…社長ですね。では次は、三日間やった内容を改めて実演してもらいたいです。どれくらい身についたのか、私もこの目で見たいんです。」そう言って番組でも披露する新曲を通してやってもらった。
「…!すごい、段違いです!皆よくここまで…!!」思わず私は立ち上がって拍手した。「鬼スパルタメニューの甲斐があったかな。」どれもこれも社長のおかげだ。全部…そうだ。私が教えた分って彼らの輝きを構成するうちの何%に値するんだろう。ふと考え込んだ。
「マネージャーさん?マネージャーさんってば!」「っはい!?」「もうぼーっとしない!指摘するところは?」花咲くんに言われハッとした。「…そんなの、どこにも…」「え?確実にレベルアップはしたけど完璧なわけないよ。何か言ってみてよ!」「どこにも…」この時間違いなく、私は自己嫌悪に陥っていた。




