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夢桜  作者: 空亜
第1章
18/22

17.ロードの場合①



ロードは魔法使いなのに魔法が使えなかった。


ロードの両親は2人とも魔法使いだし、家も古くからある由緒正しい魔法使い…なのだが、祖父だけがなんの魔力も持たない人間だった。


人間の血が濃いと、生まれた子が魔力を持たない事は珍しくはない。だがロードのように家系を見ても祖父1人しか見当たらないのにも関わらず魔法を使えないケースは稀であった。



人間世界と並行して、魔法使いの世界(魔法界と呼ぶ)がある。住むのは魔法使いと魔法生物、そして魔物や精霊のみであり、魔力の持たない生き物は生息しない。完全に魔法使いだけの世界で、魔力を持たない者は住むことさえ許されない。それは魔法使いの子供であるロードも例外ではなかった。


魔力を持たない者が住むことを許されない理由はいくつかある。

生活用品を使うことさえ魔力が必要な事が多い為だとか、『魔法使いだけの世界』を維持する為だとか。

しかし単純に、魔法界の魔法使いたちは魔力を持たない者を同族だとは決して思えないことが理由であった。


ロードは13歳の誕生日まで魔法界で育った。


13歳になると魔力が安定してくることから、魔法界では13歳から成人と呼ばれる。

それまでは魔力は不安定で、個人で持つ魔力の総量は増えたり減ったりするのだ。


13歳までに魔力が使えるようになる可能性を見て、ロードも13歳までは普通に魔法界で暮らしいていた。


その運命の13歳の誕生日。

ロードの元に、公務員の魔法使い達がやってきた。


学校の魔法授業を受ける事が出来ないと判断された生徒は、13歳の誕生日に本当に魔法が使えないのか、魔力はどのくらいなのかを検査をするのだ。


そして、この検査に通らなければ魔法使いではなく人間だと判断され、世界を追い出されるのである。



ロードは----

検査に、落ちた。



ロードは人間世界には行ったことがなかった。

本来なら魔法学校の授業に、選択授業としてある『人間世界史』の『人間世界体験学習』で1度は行く事が出来るのだが、魔力が一定以上確認できないロードはその授業を選択していたのに行かせてもらえなかった。


もし、魔力が一定以上持たないのなら『人間世界』と『魔法界』を何度も行き来することが出来ないからだ。魔力の少ない身体は世界を移動する事に身体がついていけない。行くことは出来たとしても魔法界に帰って来れるかわからない。


その最悪のケースを想定して、魔力が少ない魔法使いは人間世界に行くことを禁じられている。


そうして検査に落ちたロードは行ったこともない上に知り合いも居ない土地へ、1人追放されるのだった。


しかしなにも魔法界の公務員たちだって、知り合いが誰も居ないところへ子供を何の援助せず放り投げるほど鬼ではない。ロードは魔法界の支援を受けている人間世界の施設へ行く事になった。



そんなロードが人間世界で生きて数年が経った頃、事件が起こる。


施設にいた子供たちや職員たちが謎の団体に囚われたり殺されたりした。職員や施設の住民たちに庇われながら、ロードは1人なんとか山奥にある田舎の村へと逃げ込んだ。


しかし、行くあてもなく、頼る人も居らず、ただただ、誰の家かもわからない民家と隣接している家畜小屋に身を隠し、祈るのだった。







ロードの祖母は、人間世界へ留学に行った時にロードの祖父と知り合った。

そして恋をし、魔法界に帰ってから妊娠が発覚したのだ。その時はもう、彼がどこの誰なのかは分からなかった。分かるのは、魔力の持たない人間ということだけ。親族はその事実を世間から必死に隠した。魔法界では人間との子供など、批判・軽蔑の対象だった。


そして親族から批判を受けながらも彼女は出産した。親族の心配は杞憂に終わり、魔法の使える娘、キャランが産まれた。

そこで安心したのも束の間だった。

キャランは由緒正しい家筋の魔法使いの男と結婚したのに、その間に出来た子供のロードは魔法を使えなかったのだから。

しかも、元々身体の弱かったキャランはロードを出産してから徐々に衰弱し、半年後に亡くなった。



ロードには同じ年に産まれた姉がいる。

見た目はロードとそっくりなのだが、その姉は魔法が使えた。それが関係あるのかどうかロードには分からなかったが、ロードは親族にとって居なくても良い存在だった。


魔法界追放となった子供の家は、家族も一緒に人間世界に行ってはいけないという掟はない。そう、家族ごと引っ越しをする手もあるのだ。人間世界で働く魔法使いだって存在するし、働き口もないわけではないのだ。


しかしロードが追放となった時、ロードの家ではそのような考えは一切なかった。


---あぁ、やっぱり。

---どうしてあの子は魔力を持たなかったのかしら。

---追放なら仕方ない。



そう言った言葉がロードの耳には入ってきた。

主にロードに避難の目を向けて居たのはロードの父親の親たち、つまり祖父母であった。彼らは口ではロードの事を可哀想にと言い、内心では追放になって安心したのだ。魔力の持たない魔法使いが家系にいるなど、彼らにとっては汚点でしかなかった。

ロードの父親はロードの母親を愛していたしロードに優しかったが、ロードを庇うような事はなかった。


彼らに特に酷い扱いをされていたわけではなかったが、ロードは追放になったときやっとこの居心地悪さから解放されるのかという期待が不安よりも勝った。



ロードは申し訳なさそうに佇む父親に、「じゃ、元気で。」と一言で情緒のない別れをしてリュックひとつで魔法界を出た。




「クシュンッ」

少し冷えてきた。

季節は夏なのだが今夜は冷える。

ロードは自身のいる家畜小屋を見渡した。

家畜小屋にしては小綺麗な小屋だ。家畜も見当たらず、床のワラだって綺麗だ。すぐ真横の民家も誰か住んでいる気配はない。しばらくはここで身を隠せそうだ。


それにしても、施設を襲ってきた奴らは一体何者なんだろう。囚われた施設の人たちはまだ生きてるだろうか。助けに行くべきなのだろうか?しかし魔法も使えないロード1人に一体何が出来るのだろう。精々、警察を呼ぶくらいだ。しかしあれだけ騒いだのだからすでに警察が動いて居てもおかしくない。


ロードは興奮しきっている心臓をなんとか落ち着ちつかせて現状把握に努めた。

これからどうするか。それがロードの1番の課題だった。


ロードがなんとか冷静に今後のことを考えていると、鳥の羽の音が聞こえた。


---こんな夜中に鳥?夜鳥か?


ロードはそっと、小屋から顔を覗かすと、

まん丸の金の瞳と目が合ったーーーー



「わぁ???!」

「うきゃあ???!!」


お互いに悲鳴をあげて一歩後ろに飛び退く。

ロードはもう一度よく見ると、そこには女の子がいた。金の丸い瞳に白い髪をしている。向こうも目を見開き口をあけて驚いている。


---なんだろう、この女の子。何かが変だ。


そうロードが思っていると、女の子の方から話しかけた。


「あなた、なにものですか?どろぼー?ユルサナイですよ?」


驚きの表情が、いつの間にか敵意剥き出しの表情に変わっていた。女の子は獲物を狙う獣のように金の瞳を光らせたので、ロードは慌てて手振り身振りで否定する。


「ち、ちがうよ?ここは君の敷地?勝手に入った事はごめん。ただ、いま悪いやつから逃げてるから少し隠れさせて欲しいんだ」

「わるいやつ?おにですか?」

「そう、おに、おにごっこなんだ」


ふーん、と女の子が少し考える。

すると、チリンと鈴の音が聞こえて、気づいたらその女の子と同じ歳くらいの男の子が女の子の後ろにいた。黒髪に、猫のような瞳をしている。

「どう、おもいますか?」

女の子は後ろを振り向かずに呟いた。チリンとまた鳴らせながら、男の子はロードに近づいてきた。鈴の音は男の子の首からしていて、鈴のついた首輪をしていた。この子の保護者は悪趣味だなとロードは男の子を観察した。この男の子もなんだか変な感じがするが、やはりその違和感の正体がわからなかった。


「これ、まりょくのにおい、するかも」

「!」

「…ううん?………ほんとですね」


男の子に匂いを嗅がれて身動きが出来なかったロードだが、その言葉で、2人への違和感にようやく気付いた。

人間にみえるけれど人間ではない。

動物のようだけど動物ではない。


そうだ、僕はこの子たちの正体を知っているーーー魔法界ではよく見かけた、『使い魔』だ。


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