18.ロードの場合②
使い魔は基本的に1人一匹、魔法使いが成人したら常に側に置くのが魔法界での『普通』だった。魔法使いと使い魔は契約を結び、魔力で繋がる。
魔法使いによって、使い魔にする対象は様々だ。どんな使い魔を使役するのか、使役出来るのかは魔法使いの力量が問われるところだった。
あるものは魔物を使い魔とし、
あるものは精霊を使い魔とし、
あるものは人間界の動物を使い魔とし、
あるものは一から作ったものに魂を入れた『人形』を使い魔とした。
---まぁ、使い魔を作れるほどの魔力がないロードには関係ないことだったが。
しかし全く関係ないわけではなく、使い魔はロードの実家にもいた。
使い魔は基本的に1人に一匹なのだが、『家付き』の使い魔もいる。
通常、魔法使いが命を落とす時、使い魔は契約から解放される。しかし力の強い魔法使いに仕えた使い魔は契約が切れずにそのまま血筋についてしまうことがある。その契約した魔法使いの血が薄まるまで、その『血筋』に仕えるのだ。
ロードの父親も使い魔を使役していたが、その家付きの使い魔と馴れ合ってるところなどロードは見たことが無い。
目の前の、使い魔だと思われる女の子と男の子のやりとりがロードは不思議だった。使い魔同士が会話をするところさえ初めてみた。
「これ、にげてきたのかも。あいつらから。チのにおい、するかも。」
「そうですね、そうかもです。どろぼーじゃ、ないかもです。あなた、こーゆーやつの中にいました?」
女の子が両手の人差し指を交差させた。どうやら十字架を表しているようだ。
「そう…だけど、きみたち、は?」
「まだ、いえないです。あんしんして、わたしたち、あなたのテキじゃないです」
「これ、つける」
黒髪の男の子になにやら頭巾のような布を渡された。
「これ…は?」
「やつらのレーダーに、はんのうしなくなる。すがたも、見えない」
「はやく被ってくださいです」
「え、レーダーってなんなの」
「くる、よ、やつら」
女の子が頷いて小屋から出ていった後、その男の子の言葉通り、車に乗った怪しげな男たちがやってきた。そのうちの1人には見覚えがあった。やつだ。
「それ、つけてれば、だいじょうぶ」
家畜小屋に隠れながら、男の子はコソッとロードに耳打ちして、そっと小屋から出て行った。ねこのように足音を全く立てない子だ。ロードはそんな物音を立てずに移動する自信がないのでおとなしく言われた通りに頭巾を被りじっと動かない事にした。
男たちは小屋の隣の家をノックするが誰も出てこないので諦め、そしてロードの家畜小屋も探しにきた。男と目があって、ロードの心臓が高鳴る。見覚えのある顎に傷跡がある男だ。
どうしよう、彼女のように囚われるのだろうか。彼らのように殺されるのだろうか。
そう思考がぐるぐるしてロードは動けずにいた。だが、男はロードと目があったはずなのに気づいたそぶりもなく出て行った。
「いたか?」
「いねーわ。こっちに反応あったんだがな」
「おまえの見間違えじゃねーの」
そう男たちは言葉を交わして出て行った。
程よくして、女の子と男の子が戻ってきた。
「なんなの、あいつら?君達知ってるの?」
「まじょがりのだんたい」
「あのひとたち、マスターのてきです」
「…魔女狩り…?」
魔女狩りがマスターの敵という事は、この2人はやはり魔法使いの使い魔なのだろう。
「あなた、どうしますか。あのひとたちがこの村から完全に出て行ったら、その頭巾は、返してくださいです。」
男がロードと目があったにも関わらずロードに気づかなかったのはこの頭巾のおかげのようだ。正直、返したくない。
それにしても探してるのははやり、ロードなのだろう。
「撲は狙われてるのかな」思わず言葉に出してしまう。
「あいつらの、ねらいは、まじょかけいぼくめつ」
「………えっ?」
今なんと言った?マジョカケイボクメツ?
「あなた、わずかだけどちゃんと魔力のにおいします。そのままこの辺りにいたらイヌジニです」
「!!」
「とりあえずマスターに報告するです」
「ま、まって、マスターってどんな人?」
「マスターはマスターです」
「や、えと、人柄とか、歳とか」
「ひつよう、ありますか?」
「えっ」
「あなたに、報告するひつよう、ありますか?マスターに確認します」
「あっ…はい…」
なんとも融通の利かない機械のようだ。
そもそも確かに使い魔とは、本来は契約者の言われた事しかしない性質だったような気がする。主人以外と会話をするという事自体が、珍しい事だろう。
♪
「起きなさいです」
女の子に起こされた。ロードは緊張の糸が解けたからか、藁の上でいつの間にかて寝てしまっていたようだ。陽の光が小屋に射し込んで少し眩しい。
「なに…」
「移動するです。パスポートありますか。」
「…どういうこと…?パスポートは持ってないけど…」
「じゃあ不法入国するしかないね」
「?!」
いきなり聞こえた、女の子とは別の女の声に驚いた。振り向くと、金髪の少女がいた。
「な、だれ」
「だれ?んー、それはこっちのセリフかな?あなたの今いる小屋は、私の家の小屋だよ。」
「!!」
なんと持ち主だった。
「そ…それは悪かった…。じゃ、君がこの子のマスター?」
「まぁ、そんなとこ。あなたの名前は?」
「…ロード」
「あぁ、あなたが。リゼットから聞いてるよ。生きててよかった。みんな心配してるよ」
「!!リゼットを知ってるの?!他のみんなも?無事なの?どこにいるの?!」
「無事…とは、言いにくいかな。他のみんなも。でも元気だよ。私のところにいるよ」
少女のはっきり言わない物言いに、ロードはイライラしてきた。
「なんだよ!どういう意味だよ!君のところってどこだよ!!」
「ん〜。」
少女は悩んで一ロードに歩み寄り、顔を近づけて言った。
「私も結構危ない橋を渡ってるの。だからそう簡単に教える事は、出来ないかな」
「…っ?!」
なんで自分よりも年下の少女にこんな偉そうに言われているのだろうか。
「ロード、あなたには今、3つの選択肢があるよ。一つめは、この国でこのまま彼らに捕まる。彼らはしつこいよ。1度センサーで感知した魔力の持ち主をどこまでも追いかける。彼らの目的は魔法使いの血筋を根絶やしにすることだから。あなたの魔力は微量だけど、人間とは明らかに違う魔力を持ってるからセンサーに引っかかっちゃったんだね。微量すぎてコントロールするのも難しそう。
あぁそれから、警察に行っても無駄だよ?魔法界では魔力を使えない人を公務員が追放したでしょう?それと同じで、人間界の公務員は魔力を持つ人を捕まえたいの。魔女狩り団体の息がかかってるよ。
2つめは、この国を出る事。世界中に彼らはいるけれど、中でもこの国は特別に組織が大きいから他国なら捕まる可能性は低くなるかもね。それでも油断はできない生活だけど。
悪いけどそれは私にはなんとかできないから、自分でしてね。
3つめは、この世界を捨てること。もう2度とこの人間界には戻ってこれない。あなたのその身体と魔力の感じだと、世界を移動出来るのはあと1度くらいだからね。」
スラスラと、少女はロードの選択肢を挙げる。
「…何者なんだ、君は」
「私はあなたの敵じゃないよ。あなたみたいな魔法使いの味方。安心してよ、悪いようにはしないから。」
ロードは考えた。
まずひとつめ、このままでは必ず捕まると少女は言っているのだ。
「奴らに捕まったら…殺されるの?」
「んー、まぁ心か身体のどちらかは死ぬと思うよ?」
…絶対捕まりたくない。
2つめ、国外か。
しかし殆ど何も持たずに施設を出てきたので身分を証明するものを持っていないし、少女のいうような不法入国をするなんて犯罪だし警察に捕まる。捕まらないという自信はあまりない。施設に戻ったら何か身分証明書になるものがあるだろうが、施設の建物はまだ奴らが張っている事だろう。そして身分証明書を持ったとしてもお金がない。現実的に厳しい。
3つめ…世界を、捨てる。
「でも僕は、魔法界を追放されたんだ」
「私は魔法界へ行けって言ってるんじゃないよ」
その少女の言葉をうけ、俯けた目を素早く少女に向けた。
「世界は魔法界と人間界の二個だけじゃないよ?ただ、他の世界に行くのなら、魔法界にももう2度と行けないよ。あなたは、あなたの家族にはもう2度と会えなくなる。人間界にも、もう戻れない。それでも良いという覚悟が出来たなら教えて?私が連れて行くよ。今日1日だけ待っててあげる。」
「なんで、君はそこまでしてくれるの」
「同胞だからだよ。その頭巾も今日1日だけ貸してあげる。家には上げてあげられないけど、小屋の中は使って良いよ。もう誰も使ってないんだけど、ララがいつも掃除してくれてるから綺麗だよ。ルル、ついててあげて。」
少女がそういうと、チリンと音がした。足元をみると黒猫がにゃーと鳴いた。
「明日の明朝に返事を聞きにくるから、決めといてね?じゃぁララ行くよ。ルル、よろしくね。」
そういうや否や、少女はロードの言葉を待たずして女の子と共に小屋を出て言った。
小屋の中に、ロードと黒猫だけが残された。
「…おまえルルっていうの?」
「ミャォ」
♪
この頭巾があれば怖いものはない。
これを持ち去って逃げ回ろうかと考えたりもしたが、黒猫の視線が気になって出来なかった。
あの少女は監視も含めてこの猫をつけたのだろうか?
少女は選択肢があると言っていたが、ロードが考えるには実質選択肢はなかった。
日が完全に登ったころに白髪の女の子がパンを3つほど持ってきた。
「マスターからです。感謝するです。」
「ありがとう…」
たしかこの子はララと呼ばれていたな。
「ララ、君のご主人は僕をどこに連れて行こうとしてるんだ?」
「ララのご主人様はあなたをどこにも連れて行きません」
「…? 違う世界へ僕を連れて行くと言っていただろ?」
「ララのご主人様はあなたに会っていません」
話が噛み合わない。いや、そういえばララは最初、「ご主人様」ではなく「マスター」と言っていなかったか?
「えーと、きみのご主人様とマスターは、別人なのか?」
「別の個体です」
「…きみは、家付きの使い魔なの?」
「ララは家付きではありません。」
もうわからなくなってきた。家付きではないのに主が2人いるとはどういう事態なのだろう。
「きみとマスターの関係はなんなの?」
「マスターはララのマスターです。あなたにいう理由が見当たりません」
「うぐ…、ま、マスターは僕をどこに連れて行こうとしているの?」
「ララにはわかりません」
ララも知らないのか。果たして本当にあの少女を信じていいものか、ロードは考えあぐねていた。
「マスターは悪い人じゃないです。」
そりゃきみにとってはそうかもね、とロードは言いそうになった。
♪
「さぁ、返事を聞かせて?」
翌朝の早朝、まだ日も登っていない時間帯に少女はやってきた。
「…、僕をどこに、連れて行くの?」
「あなたみたいな人がいる小さな世界だよ」
どういうことだ。世界を追放された者たちがいる世界なのだろうか?
「……わかった。どうせ、行くところもないし」
「よし、そうと決まれば移動するよ!」
そういって少女はロードを裏庭へと手招きした。
そこに、木の枝が一本土に突き刺さっていた。根元の土は掘り返したばかりのようだ。
「この枝に触って?そして願って。あなたの1番の願いを願って。」
「…願う?」
「そう。なんでも良いよ。お金が欲しいだとか、サッカー選手になりたいだとか、彼女が欲しいとかー…リゼットに会いたい、とか?」
………この少女、嫌いだ。
ロードはそう思いながら、枝に触れる。
枝は突き刺さってるだけのように見えるのに、触っても動く気配はなかった。
「はやく願って?」
…うるさい少女だ。
言われたとおりに願った。
今いちばんの願いを。
ロードは今まで特に何かを願った事はなかったが、施設が襲われてからはずっと願っていた。
----リゼットたちが、無事でありますように。
その瞬間、ロードの世界は反転した。
♪




