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ep99 検証準備

 眞琴の部屋で理人は体を小さくしながら、促されるままに

蒼の隣に腰をかけた。

 部屋の主人である眞琴はポケットに手を突っ込んだまま、定位置のようにデスクチェアに戻ると、ゆったりと座る。足を組む。


「えっと……、俺が呼ばれた理由は?」


 隣で居心地の悪そうな理人を蒼は不思議そうに見つめる。すると、前から視線を感じた。理人から視線を動かすと、眼鏡越しに眞琴がジーと見つめている。

 一瞬、首を傾げるもすぐに理由に思い至る。蒼は手の中で遊んでいたミサンガを目の前のローテーブルに置いた。


「これか!」

「そうだ、桑内。まずはこのミサンガをつけろ。私達は検証をしたいんだ」

「いや、検証ってなんですか? 怖いんですけど!」


 大袈裟なくらいに身体を後ろにのけぞらせながら、理人は怯える。


「大丈夫だよ、りっひー! 俺もつけてたけど爆発とかしないから!」

「嘘でもその単語が出る時点で、さらに恐怖が煽られているからね?」


 蒼が理人に親指を立てるも、それがさらに不安を煽ったようだ。理人の顔がさらに青くなる。

 蒼はチラリと眞琴を見る。それだけで言わんとしたことが伝わったようだ。ゆっくりと眞琴は頷いた。

 それを確認し、蒼はローテーブルに置いたミサンガを掴み、ゆっくりと理人に近づく。


「はっ? ちょっと、待って、蒼!?」


 ソファから逃げようとする理人の両足の間に膝をつき、片手を掴もうとする。逃げ遅れた理人はせめてもの抵抗と蒼の両手を掴む。

 蒼が理人をソファに押し倒したような形にも見えるが、部屋にいるのは自分達と眞琴だけだから、問題ないと判断する。お互いに手を押し合い、主導権を奪おうとするが平行線だ。


 蒼は一瞬、隙をついて空いている足で理人の肘を狙うか考えたが、流石に良くないかと思い直した。その瞬間、背後から何かが迫る気配がした。

 蒼は、瞬時に理人の両手を話して、ソファの背もたれ側から飛び退いた。

 ローテーブル側だと障害物が多く、次の手に備えられないと判断したからだ。


 蒼に向かって、飛んできたのは本だった。身体を起こした理人が自由になった指を振り、正確に蒼へと本を襲わせる。


「おいおい、一応その本は私の私物だぞ?」


 どこかのんびりした様子の眞琴の声が聞こえるが、2人とも無視した。


「いきなり、何すんだよ、りっひー!」

「それはこっちの台詞だからね? まず最初に説明からだろ? 当たり前のように武力行使に出るなよ」


あまりに尤もな言い分に、蒼も次の言葉を紡げない。蒼が迎撃の構えを解き、両腕を脱力させたのを確認すると、理人は指を振り、本を本棚へと戻した。

 そして、眞琴へと向き直る。


「状況が全くわかりません。本を使ってしまったことは謝りますが、まず説明からお願いします」


 普段温厚な人間は怒ると怖かったと蒼は思い出した。眞琴も少し罰が悪そうに視線を理人から逸らしていた。

 

 しばらく、室内を沈黙が支配する。


「ごめん」

「……悪かったな」


 その空気に負けて、蒼と眞琴は理人に謝った。理人は満足そうに頷くと、2人を交互に見る。そして、もう一度自分が何をすればいいのか確認してきた。

 蒼と眞琴はお互いに目を合わせると、視線だけで説明を押し付け合う。先に折れたのは蒼だ。

 ソファの後ろから理人の隣に移動するとミサンガを改めて見せながら、検証の説明をした。


 黙って最後まで説明を聞いていた理人は最後に一言だけ思わずと言った形でこぼした。


「最初っから説明すればよかったよね? この時間が無駄だよ」


 おっしゃる通りと蒼達は何も言えない。理人は息を吐くと蒼からミサンガを受け取った。

 そして、躊躇うことなく腕につける。


「初めからそう言ってくれれば、怯えはしたけど引き受けたよ。今後はこういうのやめてよ?」

「善処しよう」

「眞琴さん、善処じゃないです。絶対にしないでください」

「最近の若者は心が狭いな」

「わかりました、今から美月さんに報告してきます」


 眞琴が不服そうにしていると、理人は扉に向かって歩き出す。その途端、眞琴は焦ったように理人を止める。


「待て、わかった。今後はしない。駿河妹には黙っていてくれ」

「わかってくれたなら、よかったです」


 理人は笑う。蒼が知らない間に、美月と眞琴の上下関係がついていたようだ。少し気になったが、今はそのタイミングではないと蒼は堪えた。


「それで、俺は何からやればいいんですか?」

「まずは、普通にしていろ。ただし、誰にも話しかけるな。お前の存在を気付いているか確認する。次に狭範囲、それこそ右手から左手の間を移動させる程度に能力を使う」


 眞琴は説明しながら、指を1本1本立てていく。そして、3本目の指を立てながら続ける。


「最後に広範囲での能力展開だ。それにより、ミサンガの認識阻害が発動した能力に対してか、能力者周辺に対してかを検証する」


 眞琴の話を聞きながら、蒼はうんうんと頷く。それにプラスして、ミサンガの装着を知っているか否かで認識の阻害が変わるのかも確かめる。そこまで、思い出して、蒼はあれ? と思った。

 思わず、眞琴に近づき、白衣の裾をグイグイと引っ張る。


「どうした?」


 眞琴は不服そうに蒼を見る。蒼は眞琴に耳打ちしようと必死に背伸びをするが、届かない。見かねた眞琴が蒼に合わせて屈んでくれる。

 蒼はありがたやと一度拝むとすぐに耳打ちした。


「能力者でミサンガのこと知ってるのか?」

「ふっ、そこは抜かりがない」


 眞琴が笑った瞬間に、部屋の扉が無遠慮に開いた。そして、扉を丁寧に閉じながら、朝陽が室内に入ってくる。


「呼ばれてきたよ! 言われた通りにこの部屋のやり取りも声は聞こえなかったけど、遠視(透視)はしていた。眞琴さんの依頼通りに!」


 元気に手を上げながら朝陽は報告する。

 蒼は、人選間違ってないかと思わず眞琴を見るが、満足そうな顔をしているため、問題ないのだろう。

 朝陽は眞琴の前まで歩いてくるとさらに続ける。


「それと、そろそろ中原さんが到着するよ?」

「でかした、高梨。では、検証その2を行おうか」


 楽しそうに笑いながら、眞琴は3人に部屋を出るように促した。メガネの奥は楽しそうに歪んでいる。

 根っからの研究者だなと蒼は思いながら、後に続いた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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