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ep100 検証その2

 部屋から出ようとした眞琴は、ハッと気付いたように足を止める。そして、理人にワイヤレスイヤホンのような形のものを1つだけ渡す。


「これをつけておけ。インカムのようなものだ。検証段階をこちらで指示する」

「わかりました」


 理人は受け取ると、左耳にイヤホンをつける。眞琴はそれを見て満足すると、先に部屋を出た。

 理人、朝陽の順に後へと続く。蒼も部屋を出ようとして、チラリと本棚を見る。でも流石に勝手に持っていくのは良くないなと先ほどの自分の行動は棚に上げて、部屋を出る。


 すでに理人はいつも通りの入り口付近にある椅子に座っていた。眞琴は1番理人が確認出来る位置を陣取っている。流石、研究者だなと蒼は思った。

 朝陽は勉強している大地に絡んでおり、この実験わかってるのかと一瞬心配してから気付いた。


 朝陽はミサンガ装着を知っている能力者枠なだけで、多分検証の説明は何も受けてないんだろうなという事実に。

 それなら、その行動で問題ないなと蒼は近くの壁にもたれかかる。


「来宮、急に呼び出してなんだ。電話でも言ったが、今忙しいんだよ」


 玄関から中原が入ってきた。眞琴は鬱陶しそうにしながら端末を弄る。一般人代表の被験体兼観測者は中原だったかと蒼は拝んだ。

 きっと、忙しいのは先程、唯華と一緒に押し付けた能力者でだろうなと把握する。忙しいが、治安に関係する警察は大変だなと他人事のように思う。


 眞琴は中原を自分の座る椅子の横に座るように指さしていた。眞琴の反対の椅子には月陽と朝陽が座っている。眞琴の観測対象はその3人のようだ。


 中原から視線を理人に向ける。理人はイヤホンをした左耳を抑えながら嫌そうな顔をしている。

 これは、眞琴に普段と違う行動を奇行系でするように指示されたなと当たりをつける。

 普通の行動だったら、検証にならないからなと思ったところで、蒼はあれ? と思った。

 壁から背中を離して顎に手を当てて考える。さっき、本を読んでただけで終わった俺はもしかして、眞琴の中では奇行になっていたのか? という事実に。


 蒼が大人しく本を読むのは駿河家では浸透している。しかし眞琴は知らなかったみたいだ。実は検証その1は失敗してないかと思ったが、口をつぐむことにした。

 また背中を壁に預ける。理人を見ると顔を赤くしながら立ち上がって屈伸をしている。守りに入ってるなと蒼は心の中で笑う。


「……理人君、何やってるの?」

「……うん、忘れて」


 近くにいた大地が理人を見ながら言い放つ。理人は小さくなった。普段保護者ぶってる相手に言われるのは堪えるよなと視線を中原に移す。中原も呆れたように理人を見ている。


 通常なら認識の阻害が起きない。次の検証だ。現在、理人に視線が集まっている。少し時間を置いてから狭範囲の能力使用が始まるんだろう。

 小さくなった理人を大地が慰めている。

 堪えきれない笑いが蒼から漏れる。


「理人君は何に巻き込まれているんですか?」

「あっ、すーさん。こっち来たんだ。今はまだ内緒だ」


 蒼の横にきた昴に蒼は笑いながら人差し指を口元に運ぶ。

 昴はチラリと理人を見る。


「そうですか。あまり理人君に迷惑かけないであげてくださいね?」

「すーさんは、りっひー贔屓あるよね」

「……この家での常識枠の1人ですから」

「あははっ。確かにそうかも」


 少し視線を逸らしながら答える昴に蒼は笑う。チラリと眞琴を確認すると端末に指示を打ち込んでいる。

 理人はまた左耳を押さえながら、指示を聞いている。

 なんだかんだと素直に従うから、いい実験体だと思われてるんだよなと、分析する。


 そして、理人は近くにあった本やノートを浮かせる。手を使わないジャグリングのように指をくるくる回して、動かしていた。隣にいる大地は気にしていない。

 そのまま先ほどまでいた席に戻って勉強の続きをしている。

 蒼は隣にいる昴に声をかけた。


「すーさん。今、りっひーは何やってる?」

「えっ? 普通に立っていますが?」

「そう、ありがとう」


 昴の言葉で、理人が能力を使っている姿が見えていないことを把握する。とりあえず、ミサンガは能力の使用を認知しづらくさせるものだとまず1つわかる。

 チラリと眞琴を見る。眞琴はすでに端末に指示を打ち込んでいた。


「おー」


 少し時差があったが、ジャグリングしていた本達がリビング内を人や物を避けて飛び回る。しかし、朝陽以外は驚いた様子はない。朝陽が声を出す前に眞琴が睨んで止めているのが見える。

 朝陽は口を両手で塞ぎ、こくこくと頷いていた。隣に座る月陽が訝しむように朝陽を見ている。


「あちらは何かあったんでしょうか?」

 

 その様子を見て昴が不思議そうにしている。そんな昴の前を本が通過した。検証結果は出た。しかし、蒼はもう1つ気になることが出来た。

 昴に断り、眞琴の元へと向かう。


「まこっさん、それ貸して!」

「いいが、どうした」

「後でのお楽しみ!」


 蒼は眞琴から端末を受け取ると文字を打ち込み、理人へと指示を飛ばす。


 能力の使用を中止。一旦、人のいない場所まで退去後に、誰にも見られないと念じる。で、今いる椅子に座り直して。


 ミサンガは能力だけなのか、それとも装着者の意思により変化があるのか。蒼はそこが気になった。

 理人が蒼の方を見た。蒼はグッと親指を突き上げる。

 少し迷った様子の理人は頷くと、一度食堂がある廊下へと消えていった。

 

 少し待っても理人は戻ってこない。蒼はどっちだろうと考えてから、端末にまた指示を飛ばす。


 念じるのやめて、普通にして。


 打ち込んで、先程まで理人がいた場所を確認する。そこには当たり前のように椅子に座っている理人がいた。


「あれ? 理人はいつ戻ってきたの?」


 月陽が不思議そうに首を傾げる。それに対して朝陽は笑う。


「何言ってるの? 理人君すぐ戻ってきてたよ」

「いや、戻ってきてないだろ」


 中原が呆れたようにため息をこぼす。

 蒼と眞琴は目を見合わせた。検証の結果、1番恐れていた結果が出てしまった。眞琴は蒼から端末を受け取ると文字を打ち込む。

 理人が安心したように、息を吐いた。検証はこれで終わりだ。


「私の部屋……だと全員は無理だな。客間を借りる。中原も来い、読んだ理由を説明する」


 眞琴は有無を言わさず、朝陽の腕を掴むと客間に向けて歩き出した。端末で指示を出していたようで、理人も向かっている。

 蒼は少し考えてから、昴の元に向かい声をかける。


「すーさん、多分これすーさんも知っておいた方が良いやつだと思うから、一緒に来て」


 戸惑う昴を従えて、蒼も客間へと向かった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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