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ep98 検証その1

 蒼の話を聞き終えると、眞琴は立ち上がる。そして、ローテーブルに近付くと興味深そうにミサンガを持ち上げて、天井に翳すようにして見つめている。

 眞琴のメガネが淡く光っているように見えて、蒼は首を傾げる。


「ほお、面白いな、これは」


 眞琴は楽しそうに笑うとミサンガを一度机の上に置く。そして、チラリと蒼を見た。


「どした? まこっさん」


 視線を受けて、これは何か頼まれるのかと思いながらも蒼はソファにもたれかかったまま、眞琴を見る。

 眞琴は何度か、蒼とミサンガを交互に見てから、考え込むように指を顎に当てる。

 

 考え込んでいる眞琴を見ながら、蒼はなんとなくローテーブルに置いてあった英文の書籍を手に取る。空調の吹き出し口から出る風が時折、蒼の身体を通過していく。

 本の内容は、研究の論文だった。現代科学で、どこまで魔法の再現ができるかという物だった。


 日本以外に能力者は生まれない。だから、この論文を書いた人も能力者の存在は知らないんだろうなと蒼はつい気になり、速読する事にした。


「椎名、お前は能力者じゃなかったよな?」

「んー、そうだけど、何?」


 あと少しで読み終わるところで、眞琴に声をかけられ蒼は生返事を返す。しかし、それが気に入らなかったようで眞琴に本を取り上げられた。


「あっ、まこっさん、あと少しだったのに!」


 思わず、文句が先に溢れる。眞琴は本をローテーブルの上に置き直す。


「読みたいなら、後で貸してやる。検証に付き合え」

「……検証?」


 眞琴の言葉に蒼は首を傾げる。ミサンガの検証ならこの家の住人に頼めばいいのに、何故無能力者の自分に頼むんだと不思議に思う。


「このミサンガに能力が付与されているのは間違いない。これが恒常的なのか、制限があるのかはまた調べないとわからん。今はこのミサンガを装備した者の能力が阻害されるのか、装備した者の行動全てが阻害されるのかを調べたい」

「あっ、なるほど。そういうことか」


 眞琴が検証したいことがわかった蒼は、ソファから立ち上がる。そして机の上に置かれたミサンガを手に取り、左手に着ける。


「で、何すればいい?」

「普段が十分奇行だから、そのままでいい。ただ、リビングに出て住人に話しかけずに、動いてろ」

「まこっさん、奇行って酷くねぇか?」


 蒼はケラケラと笑いながら眞琴を見る。


「とりあえず、眞琴さんは俺が着けた瞬間見てるから、元々効果はないってことだよな? あとは、ミサンガの存在を知らない奴らにはどう映るかの実験でいい?」

「そうだ。普段騒がしいお前が静かなら、その時点で異常だからな。あとは一般人代表で朽梨を呼んでくるか」


 眞琴は肯定すると先に部屋を出た。蒼を呼びに行ったんだろうと蒼は当たりをつける。そして、少し考えてから先程の読みかけの本を手に取り、部屋を出た。

 冷房のよく効いた部屋にいたからか、部屋の外は少し暑く感じた。しかし、蒼は気にせずに近くの壁にもたれて本を開いた。


 しばらくして、本を読み終わり顔を上げる。リビングでは住人達が思い思いに過ごしている。


「読み終わったのか?」


 真横から声が聞こえて、蒼は思わず飛び退いた。そして、声のした方を警戒しながら見るとそこには、先程の蒼と同じように壁にもたれている葵がいた。

 蒼はそっと胸を撫で下ろす。


「びっくりした、アイさん、いつから隣にいたんだ?」

「来宮に呼ばれて割とすぐか?」


 葵は壁から身体を離すと、蒼の方へと距離を詰めた。


「来宮からの伝言だ。かなり読書に集中してるようだったから、俺がことづかった」

「えっ? あっ、本!」

「……いや、検証の件だ」


 蒼は本を持ち上げて葵に見せる。その様子に、葵はなんとも言えない表情をした。蒼は気にせずにリビング内を見渡して結論を出す。


「ああ、そっちか。まこっさんが居ないってことは俺での検証終了ってことか」


 うんうんと納得しながら、蒼は葵に背中を向けて眞琴の部屋に向かう。後ろで葵が戸惑っている気配を感じたが、気にせずに眞琴の部屋の扉をノックした。


「まこっさん! 本返すから開けていい? ってか開けるよ!」


 蒼は迷わずに、ドアノブに手をかけて扉を開けた。そして左腕につけていたミサンガを外しながら、中へと入っていく。


「おいっ」


 勝手に扉を開けた事に対してか、背後で葵の咎める声が聞こえるが、無視する。そして、扉は自然と閉まろうとする。

 ドンっと大きな音を立てて扉が閉まった。

 それと同時に葵の声も遮断された。

 

 室内では眞琴がデスクチェアに座り、モニターを確認しながら、キーボードを叩いていた。蒼は迷わずに本をローテーブルの上に置くと、眞琴の方へと歩を進めた。

 眞琴の部屋は机上には乱雑に者類があるが、床は何も落ちていなくて綺麗だ。

 意外だなと思いながらも、蒼は歩きやすいからいいかとそのまま眞琴の横まで近付く。


「まこっさん、本ありがとう! それで検証はどうだったんだ?」

「元気だな、椎名。認識は阻害されていなかったぞ。普通にお前が壁にもたれて本を読んでいるだけだった」

「そっか! 次は能力者でやる?」


 蒼は検証の結果を聞き、納得すると次に眞琴がするであろう検証について尋ねる。

 眞琴はデスクチェアを回転させて、蒼の方に向くと話が早いなというようにニヤリと笑う。


「すでに被験体は呼んである。次は、能力者そのものに起きるのか、能力だけが阻害されるのかだ」

「ってことは、能力が比較的に目でわかりやすい人がいい。わかった、りっひーだ!」

「ほぉ、正解だ。桑内のサイコキネシスが1番、視覚的にわかりやすいからな。今回はもう1人、観測側の被験者も呼んだ」


 眞琴はくるりと椅子を回転させると、立ち上がる。白衣のポケットにそれぞれ手を突っ込む。そしてチラリと時計を見る。


「そろそろか」


 小さくそう呟くと扉に向かって優雅に歩き出す。少し遅れて白衣の裾が後を追っているようで面白い。

 蒼は少し考えてから、先ほど座っていたソファに座り、ミサンガを見つめる。やはりただのミサンガにしか見えないなと思っていると、控えめに扉をノックする音が聞こえた。


「ピッタリか」


 眞琴がニヤリと笑う気配がして、扉が開いた。扉の外には少し居心地の悪そうな理人がおり、眞琴によりすぐに室内へと招かれる。

 

「本当に俺、ここに入っていいんですか?」

「何をいう、家主が入れと言ってるんだ。何が問題だ?」

「いやあ、女性の部屋に入るのは思春期の男としては思うところもありまして……」

「あっ、りっひー! 何遠慮してんの?」

「蒼もいたんだ……」


 理人は蒼の姿を確認した瞬間に、疲れ切った顔をした。そして無情にも扉は閉まり、哀れな羊は逃げ道を塞がれた。

 

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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