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ep94 変わった子供

 初めて蒼を見かけたのは今から2年程前だ。やっと中学の生活に慣れてきたそんな帰り道、いつも通りの道を歩いていると、どこからか声が聞こえる。気になって声の出所を探るの近くの路地で3人のガラの悪い男達に囲まれている気の弱そうな少年がいる事に清隆は気づいた。カツアゲか? と思いながらも声をかけて助ける勇気は清隆は持ち合わせていなかった。

 近くに交番がある。そこに助けを求めようと踵を返そうとした時に、帽子の被った子供が清隆の横を駆けて行った。

 子供が向かった方は今カツアゲが行われようとしていた場所ではなかったか。清隆は嫌な予感がした。


 思わず立ち止まり、子供の向かった方角を見る。人がなんとかすれ違える程度の幅の狭い路地の為、道は塞がれている。


「ねぇ、お兄さん達」


 帽子を被った子供は躊躇わずにガラの悪い男達に声をかける。清隆からは背中しか見えず表情はわからないが、自信に満ちた声が清隆の耳を打つ。


「弱いものいじめとかダサいからやめたら?」

「はぁ? んだと、このガキ」


 明らかな挑発に清隆は心配になった。しかし暴力沙汰とは無縁に生きていた。だから助けに入ることはできない。すぐに交番に助けを求めるのが正解だともわかっていた。しかし、清隆は自信満々の子供から視線を外せなかった。

 その発言に男の1人が怒鳴りながら移動し、子供の前に立つ。身長差がかなりのものだ。なんで、喧嘩を売っているんだと清隆は思ったが、体はこれから起こるであろう暴力に怯え、動かすことができない。件の子供は清隆に背を向けている為、表情は見えない。


 男が子供に殴りかかろうとした。振り上げた拳は子供の小さな体を吹き飛ばす。そう思い、思わず一瞬目を逸らした。ドスっと鈍い音と、低い男の呻き声が聞こえた。驚いて視線を戻した清隆の瞳に、男が背後に倒れていく様子がスローモーションで流れていく。


「えっ……?」


何が起こったか清隆にはすぐに理解できなかった。

 ただ、子供が何かした。それだけはわかった。殴りかかろうとした男を逆に子供が倒した? それが清隆には俄に信じられなかった。相手は明らかに子供の身の丈の倍はあるような男だったのだ。しかし、子供はさらに予想外の発言をする。


「あー、やっぱり雑魚だった!」


 清隆は自分の耳を疑った。自分が恐れた男を雑魚という子供に少し興味を持つ。交番に行こうとしたことを忘れ、子供の後ろ姿をただ見つめていた。

 子供は苛立ったように倒れた男に近づく。


「ただ、足払いしただけだろ!? 持ち堪えろよ!」


 そして理不尽にキレながら、唖然と見ていた他の男2人に近付いて、男の1人の手を掴む。そして、自分の倍はあるんじゃないかという男に足払いをし、もうひとりの男に向けて投げ飛ばす。少ない動きで見事に男3人を短時間で無効化していた。


「あー、もう! 俺は弱い者いじめ見るのも嫌いだけど、するのも嫌いなんだよ!!」


 理不尽にキレる子供に男達に絡まれていた少年は、怯えたように逃げていく。助けられたはずなのに自分よりも年下の子供に助けられ、混乱したのだろうとお礼を言わず去っていった少年の思考に当たりをつける。

 同じように子供の一方的な暴力に清隆は唖然とした。しかし無駄のない動きを綺麗だとも思った。何か武術を嗜んでいるのだろうか、清隆は子供に興味を持った。しかし、声をかける前に、子供は「やばっ」と叫び、走って行ってしまった。


 次にその子供を見かけたのは家の中で近くにある宮端商店街にお使いに来た時だ。すでに最初に見かけて数ヶ月経っており、清隆の記憶からはあの時の光景は消えかけていた。

 八百屋で頼まれていた野菜達を買い、帰路についていた時に、どこからかカラスの鳴き声と甲高い怒鳴り声が聞こえた。


「おい、今馬鹿にしただろ! お前!! 降りてこい、卑怯者!!」


 声のする方を確認すると電柱に留まっているカラスに向かって指を差しながら怒鳴っている子供がいた。

 あの時の子供だと清隆は思い出した。前回見た流れるような強さはなりを顰めて、年相応にぷりぷりと怒っている。

 しかもその相手がカラスだというのが子供の変わりっぷりを示していた。


「カァー」

「今、鼻で笑った!? ふざけんな!」


 カラスが鳴いただけでキレるその様子に清隆は面白い子だなと思った。5mほど離れた位置でその様子をつい見てしまう。子供から清隆は目を離せなかった。その時、清隆の隣を少年が通っていく。そして呆れたように子供に声をかけていた。


「何、カラスに喧嘩売ってんだよ」

「は? 売られた喧嘩を買ってんだよ!」


 どうやら知り合いのようだ。しかしカラスに喧嘩を売られたから買ったとはどんな思考回路をしているんだろうか? 清隆はさらに興味を持つ。どんな子なんだろうと気になって仕方がない。話しかけようかと少し迷った。


「うるさい、バカ哉」

「カラスに喧嘩売られたって買ったやつに馬鹿って言われたくない!」

「でも、俺より馬鹿なのは間違いないじゃん!」

「ざけんな、蒼!」


 そんなやり取りをしながら少年達は歩いて行ってしまった。蒼って名前なんだと清隆はなんとなくその名を胸に刻んでいた。また遭遇したいなと彼もまた家に向かい歩き出した。


今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!

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