ep93 謎のミサンガ
蒼は気絶した男の前に座り込むと、目の前で手を振って意識が完全にない事を確認する。周りの人達も蒼が出てきたからと野次馬がかなり減っていた。残っていた数人も男が制圧されたのを見て、その場から離れていく。
「もお、弱い! これじゃ俺が弱いものいじめしたみたいじゃないか!」
蒼は男の前で怒鳴る。叫んでいることも本心だった。だが、頭では別のことを考えていた。能力者の存在は秘匿。しかし、この目の前の男は当たり前のように能力を使っていたが、一切の騒ぎが起きていない。普通は人が瞬間移動したらもっとパニックが起きないか? 蒼は冷静に考える。
「ん? これ何?」
蒼は男の腕に先程までなかったはずのミサンガが巻かれていることに気づいた。少し考えてから蒼はそのミサンガを解いてポケットに入れる。駿河家には真琴がいる。きっと渡したら何かがわかるだろうと蒼は考えた。
「えっ、何事!?」
蒼を追って来たらしい当夜達が蒼と気絶した男を交互に見ている。圭哉と清隆は見慣れた様子でまたやったのと呆れた顔だ。
「そいつ抑えてるなら、変わろうか?」
清隆が蒼に近づき、声をかける。蒼は清隆の方を見て首を傾げる。
「えっ? 別にいいよ。ゆきさんより俺の方が強いし」
そう答えると清隆は少し残念そうな顔をした。変なのと思いながら、蒼は誰とも交代する気はなかった。秘匿されている能力者で目が覚めてもすぐに制圧しないと逃げられる。早く警察が来ないかなーとのんびりと思う。そしたら中原さんに繋いでもらおうと知り合いの特対の刑事を思い出していた。
「あれ? 風見さんだ」
不意に翼が声をあげて、商店街の入り口を見る。知り合いかなと蒼も能力者への警戒は緩めずにそちらを見る。
「は? 翼?」
焦ったように近付いてきたオッドアイの男を見て蒼は、大声を出した。
「あの時の、大道芸のお兄さんだ!」
「は? 大道芸って……お前あの時の小学生!」
1年前に出会った人であとあと唯華が警察だと言っていたのを思い出した。風見も思い出したようで、思わずと言うように蒼を指差す。
「風見さん、知り合いですか?」
「いや、なんて言うかな……」
風見は口籠る。そりゃそうだよなと蒼は思った。ちょうど1年ほど前、蒼はこの刑事と成り行きで協力して能力者の集団とやり合っている。しかし秘匿されている能力者の話もできない為、風見は誤魔化すしかない。蒼はそれを察した。そして気づいた。能力者の事を知っている刑事は風見も当てはまる。
「なぁ、お兄さん」
「なんだ、ガキ」
チョンチョンと袖を引く。風見は明らかに面倒そうな顔をしたが、蒼が屈むようにジェスチャーするときちんと蒼の近くに屈んでくれた。蒼は周りに聞こえないほどの小声で風見に伝える。
「こいつさ、さっきまで暴れてた空間移動の能力者なんだけど」
「はっ!? お前、また当たり前のように制圧したのかよ」
その言葉を聞いて風見は驚きながら呆れると言う器用な事をした。そしてため息をつくと懐から手錠を取り出す。手錠には小さな石が付いており、能力者を無効化する手錠だと蒼は察した。
「暴れたんなら捕まえとかないといけないな。一応署に連れてくわ」
風見は白々しくそう言うと、気絶している男を背負う。そして、翼達と少し言葉を交わして去っていった。
「椎名君、風見さんと知り合いだったんだね」
翼が笑いながら蒼に話しかける。蒼は笑って答える。
「うん。……喧嘩仲間?」
「一応、風見さん警察だからそのカテゴライズはやめてあげた方がいいと思う」
「いや、翼ちゃん、一応って……」
「あー、確かに元ヤンって聞いてから元ヤン臭は隠しきれてない感じだよな!」
「おい、当夜。お世話になってるんだからそんな言い方ないだろ」
高校生組がそんな話をしている。気付くと日がだいぶ傾いてきた。誰からともなく帰りますかという話になり、高校生組と別れる。
「蒼、今日はどうするんだ?」
残された圭哉が蒼に尋ねる。家に泊まるかどうかの確認だろう。泊まる予定だったが、能力者の持っていたミサンガを眞琴に確認して欲しい、だから今日は駿河家に行くことにした。
「今日は他に行く! またな!」
蒼はそう言い、圭哉と清隆に手を振った。そして疑問を回収するために、自然と足取りは早くなった。
♢♢♢♢
走り去っていく蒼を圭哉と一緒に清隆は見送る。隣で圭哉が盛大にため息をつく。
「本当に、あいつは。部長、今日は付き合わせてしまってすんません」
「別にいいよ、楽しかったし」
「先輩って、なんだかんだ蒼のこと好きですよね」
「まぁ、見てて楽しいからね。一家に1人蒼がいたら飽きないのにと思うぐらいには気に入ってるよ?」
「そんなに蒼がいたら怖いし、うるさいっすよ」
清隆の言葉に圭哉は軽く引いたように青ざめていた。楽しそうなのになぁと口の中で清隆は呟く。
しかし、依存先の一つである圭哉とそんな彼が信頼してるからと仲良くしてもらえている清隆では蒼の中での比率は違うのだろう、きっと圭哉は清隆の知らない蒼を知っているんだろうなと考える。
だが、清隆は表情には出さずにいつも通り、優しい先輩の顔で圭哉に笑いかける。
「まあ、気をつけて帰りなよ。また明日部活で」
「はい、部長も気をつけて。お疲れ様っす」
圭哉はそう言うとそのまま、左の道を進んでいった。圭哉と離れそのまま真っ直ぐに家路についていた清隆は遠目で見えていた喧嘩していた蒼の姿を思い出す。
初めて見た時と同じように綺麗な所作だったなと無意識に笑う。そして蒼を初めて見た日のことを思い出す。




