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ep92 武力行使

 花代はお盆を持って、まずは高校生組の机に向かい、翔と純の前に珈琲を、詩織と翼の前にカフェオレを置く。そして、蒼達に笑いかけて一度カウンターに戻る。

 戻ってくると圭哉の前にメロンソーダー、清隆の前にココア、そしめ蒼の前に見るからにどこかで買ってきたと思われるような個包装されたどら焼きとミルクを置いて、去っていく。


「えっ?」


 純と翔が蒼の前に置かれたものを見て驚きで声を出す。詩織達も無言で蒼の前に置かれた物を見ていた。

 しかし、圭哉と清隆はいつものことのように気にしない。


「今日はどら焼きか。なんとなくお供えでもらった物っぽいね」

「おばあちゃんもわざわざ蒼の為に毎回用意しなくてもいいのにな」

「えっ、待って? どういう事?」


 当たり前のように話し出す圭哉達に当夜は立ち上がって叫ぶ。全員の視線が当夜に向く。高校生組は当夜の発言にうんうんと頷いている。


「俺、人の作った物食べれないんだ。商店街(ここ)の人達みんなそれ知ってて、市販のもの用意してくれるんだよ」


 蒼は高校生組を見ながら嬉しそうに笑う。すると純が申し訳なさそうに瞳を伏せた。


「それは、潔癖症って事? 勝手に店決めてごめんね」

「あっ、大丈夫ですよ。蒼、なんだかんだで月1では必ずここ来てるんで」

「え?」

「それに嫌なら気にせず断る人間なんで気にしなくて大丈夫ですよ?」


 蒼が答えるより前に圭哉が純の疑問に答える。なんでお前が答えるんだよと蒼は隣の圭哉を見る。


「通ってるのは知ってたけど月1だったんだ」


 蒼の前に座る清隆が意外そうに言う。蒼は清隆に向き直った。


「ここの雰囲気落ち着かない? それに、常連さんがよくお菓子くれるし」

「餌付けは順調にされてるね」


 蒼の言葉に清隆は楽しそうに笑う。時折清隆は蒼の事をペットに思ってるんじゃないかと思うことがある。商店街の人に餌付けされているとよくいい、蒼の行動を楽しむ。腹黒めと蒼は彼を睨む。

 しかしその視線を受けて清隆は微笑む。楽しそうな様子に解せないなと蒼は思った。そしていつまでも清隆の相手をしているわけにはいかないと気づく。

 蒼は純達に向き直った。


「親切なお兄さん達の気持ちを受け取っただけだから、気にしなくて大丈夫!」


 言葉にしながら白々しいなと蒼は内心で思う。申し訳なさそうだったから申し出を受けただけ。それ以外に理由はないし、知らない人間に奢られる気は毛頭ない。下手に貸しを作るとめんどくさいと思う。

 きっと圭哉達は気づいているだろう。


 それぞれ頼んだ飲み物を飲みながら、話をする。話題はもっぱら、宮端商店街やその周辺のことだ。

 当夜が御影島を探検しており、今はこの辺りを回っているそうだ。

 

「3人とも、生まれも育ちも御影島なの?」

「そうですよ。だから、この辺りのことは結構詳しいと思います」


 翼の問いに清隆は優しく微笑みながら答える。学校でその笑みを見せたら、女子生徒達が王子様だと悲鳴をあげていることだろうと蒼は理解のできない現象を思い出した。女子生徒も圭哉もなんで清隆の悪魔のような腹黒さをわかっていないんだろう?

 他の人たちの話を聞きながら、蒼はそう思う。そして、我関せずと出されたどら焼きを食べる。モチモチの皮に甘すぎない餡で蒼の顔は自然と綻ぶ。それを当夜達と話しながら、清隆がチラリと見たことに蒼は気づくことはなかった。



♢♢♢♢




「本当にいいの?」


 先程から純が何度も蒼に確認する。カメリアで奢ろうとした純に断りを入れ、自分で代金を払った。お詫びだったのにと気にした様子の純に蒼はいつも通りの作り笑い(・・・・)を浮かべる。


「いいよ、それにどら焼きはおばあちゃんがプレゼントって言ってくれたし!」


 だから気にしなくていいと蒼は言外に伝える。純は納得がいかなそうだが、折れてくれた。優しい人でよかったなーと蒼は思った。その時、蒼の人より優れた聴覚が悲鳴を捉える。


「ちょっと行ってくる!」


 蒼はそう伝えると周りの声も聞かずに悲鳴の方に走り出す。どんな強者がいるのか、自分が天才ではない事を証明できるかそんな思いが蒼を興奮させ、足を早めさせる。

 先ほどいた場所より500mほど離れたところに、1人の男がいた。その男の近くにはぶつかってこけたの女の人が倒れている。悲鳴の正体はこれかと蒼は悟った。


 男は血走った目で周りを見回している。彼の首筋には刻まれたタトゥーの一部がチラリとのぞいている。どこかで見たことがある気がすると蒼は思いながら、男に近づく。

 倒れていた女性は近くの男性が手を差し伸べて立たせているのを蒼の視界の隅が捉えた。


 男の異常性が伝わってきており、周りにいる人間は警戒するように距離を置いている。蒼の聴覚が野次馬が警察を呼ぶと言っている単語を捉えた。確かにと蒼は思う。今はまだ何もしていない、でも何かをやりそうなそんな気がした。

 警察を呼ぶからと蒼は男に1歩近づく。本能がこの男を逃してはダメだと訴えている。


「ねぇ、あんたがこけさせた人に謝った?」


 そして、蒼は男の顔をジッと見つめて口を開く。その目は男の些細な動きも見逃さないように瞬きする惜しむ。


「んだと、ガキ」


 血走った目を走らせた男はそういうと、蒼に向かって突進しながら殴りかかってくる。蒼はまるでダンスを踊るように軽やかな足取りでそれを避けた。しかし、避けたはずの腕が何故か顔面に近付いてくる。


「ーーっ!?」


 蒼は慌てて後ろに半歩引く。そして、男と距離を取る。今、明らかに男は物理攻撃を無視していた。相手は能力者か? それも空間移動関連のと蒼は辺りをつける。そう考えていると、男は一瞬で蒼の前に現れ、顔目掛けて蹴りを放つ。片手で帽子を抑えながら、蒼はバク転をして蹴りを避けながら再度距離をとった。

 瞬間移動で間違いないな。蒼は相手の能力をほとんど断定するように推測する。そして思い出した。

 4月のシージャック事件の犯人が似たようなタトゥーを腕に入れていた気がすると。そいつらの仲間か? と思いながら蒼は瞳を閉じる。


 空間移動系には目の情報より気配で動きや場所を当てた方がいい。蒼は能力者との戦い方を熟知していた。

 そして、気配が不意に蒼の後ろに現れる。蒼は一切の迷いなく、後ろに向けて回し蹴りをお見舞いする。体が180度回転しているのを感じながらも、確かに手応えがあった。そして瞼を開く。そこには攻撃を受けて後ろに倒れ込みそうになっている男がいた。蒼はニヤリと笑いながら男の右腕を両手で掴むと、思いっきり自分の倍は体格のいい男を背負い投げで投げ飛ばした。

 

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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