ep87 蒼と商店街の人々
ある休日の日。蒼はいつも通り、馴染みの宮端商店街を歩いていた。昔からの知り合いが声をかけて、市販のお菓子や果物などをくれる。蒼はお礼を言いながら、戦利品を鞄に入れていく。ダンボールが積んである狭い路地を通ろうとした時だった。
何もないところで躓いた蒼はそのままダンボール箱の方へバランスを崩す。危ないともちまえの運動神経と体幹で元直し、ダンボールとの衝突を回避する。
セーフと喜んだ瞬間、犬が前方から足元に駆けてきた。
「あっ」
と思った時には遅かった。なんとか片足で保っていたバランスが崩れ、ダンボールに激突する。ドスンという音と共に蒼の方に積まれたダンボールが崩れてくる。
蒼は中身が空のことだけを動体視力で捉えて安心するも、避ける術はなかった。
盛大に蒼の上にダンボールの雨が降る。
「あー、もう!」
思わず声を出すと近くの店員が顔を出す。
「おー、騒音がしたと思ったら蒼か。相変わらずコントみたいなことやってるなー」
顔見知りの八百屋の店長が笑いながら、ダンボールを退けてくれる。
「ありがと。でもなんでこんなとこにダンボール積んでるってか、レオン!」
「わんっ」
近くのカフェの看板犬である柴犬のレオンに向かって蒼は怒る。レオンはお座りをして尻尾を高速で振って、目を輝かせている。
「いっつも、言ってんだろ! いきなり足元にじゃれついてくるな!」
蒼がなんとかダンボールから抜け出して、レオンに怒鳴る。しかし、レオンは遊んでーと言うように蒼の周りを駆け回る。蒼が怒れば怒るほど遊んでもらえると喜んでいるようで、力が抜ける。八百屋の店長と協力して崩したダンボールを積み上げるのをレオンはじーと見つめて待っている。
そして最後の1つを積み上げた瞬間にレオンが終わったね? と言うように蒼に飛びつく。ふらっと一瞬ふらつくも、同じ轍は踏まないと蒼はなんとか踏ん張る。
レオンはペロペロと嬉しそうに蒼の顔中を舐めてきて、蒼は涎でびっしょりとなる。
「相変わらず、動物に好かれるなぁ」
八百屋の店長はその様子を微笑ましそうに見てから、店に戻って行った。
「おやっさん、ありがとー!」
レオンに舐められながらも蒼はお礼を言う。八百屋の店長は片手を上げて店へと戻っていた。すると反対側のレオンが走ってきた方向から袴にエプロンをつけた女性が走ってくる。
そして、レオンに舐められている蒼を見て、あっと声を上げる。
「レオンがいきなり走り出したから何事かと思ったら、蒼か。焦って損した」
「待って、レオンのおかげでダンボールに激突して潰されたんだけど!?」
レオンは蒼から離れて女性の方へと走っていく。
「まぁ、蒼の不幸はデフォルメだから」
「俺は大変なんだから、そのノリで言うのやめてよ!」
蒼の抗議も女性は流す。くそぅと思いながらも、何を言っても無駄かと蒼は諦めた。どこからか敗北のゴングが聞こえた気がした。
「それより、レオンにリード付けろよ。3日に1回の確率で足元目掛けて突進してくんだよ」
「蒼にしかやらないから、実害はないに等しいし、レオンは賢いから」
「俺には実害出てんだよ!?」
「でも、蒼だし」
「なんで、みんなそういう流れにすんだよ!!」
蒼は泣きたい気持ちになった。2週間に1回くらいの間隔でこのやりとりをしている気がする。その都度、流されてそろそろ諦めた方がいい気もしてきた。
しかしレオンは蒼に不幸を運んでくることが多い。帽子が風に飛ばされた時は遊んでと言うように帽子を奪取して走り出された事がある。発作を抑えながら半泣きでレオンを追いかけたのはまだ記憶に新しい。
だから蒼は諦めるわけにはいかない。蒼はめげない事にした。そんな事を考えていると聞き捨てならない言葉が蒼の耳に飛び込んできた。
「もうこの商店街で蒼が不幸で騒ぎを起こすのは日常で名物でもあるからな」
「何、その名物!?」
「なんなら、蒼の不幸に遭遇すると運気が上がるとも……」
「俺の運をこれ以上吸い上げないでくれない!?」
もうここの商店街の人達嫌だと蒼は泣きたくなった。他人事だと思って駿河家の住人と同様に蒼の不幸によって起こる騒動を楽しんでいる。少し蒼はめげそうになった。
「あはは。まぁ、大怪我するとかなら心配するけど、蒼は持ち前の運動神経とかで無傷だからさ、次はどうなるか賭けてる人もいるし」
「そいつら全員教えてくれ、しめる」
「数多いよ?」
「まさか、商店街の顔馴染みほとんどとか言わないよね!?」
蒼は少し涙目になる。しかし女性は笑うだけで何も言わない。それが蒼に確信を与える。
蒼が食べれる食べ物を恵んでくれるいい人達だと思ってたら、まさか全員敵だったとはと誰も信用できないと鼻を啜る。
その様子を笑いながら見ながら女性はレオンを撫でる。
「あっ、そろそろ店に戻らないと。行くよ、レオン」
「わんっ」
レオンはもう一度蒼を見て尻尾を振ると女性と共にカフェに戻って行った。
蒼はしばらくその後ろ姿を眺めていた。
「何やってんだ、蒼?」
後ろから聞き慣れた声に呼ばれ、蒼は振り返る。そこには不思議そうに首を傾げている幼馴染である師崎圭哉とその部活の先輩達がいた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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