ep85 共犯関係のはじまり
昴が駿河家で暮らす様になってから、1週間ほど経過した。屋敷から出れないと思ったが、美月の付き添いで買い物に行ったりと予想以上に自由な生活が待っていた。
八楽や大地に理人と一緒に勉強を教えたり、姫に食事風景を見せたり、美月の料理の手伝いを行うなど、"サーカス"で心を痛めていた心が癒される生活で、最初の数日は戸惑った。しかし、住人の温かさにより徐々に戸惑いは解消された。
今日もいつもの様にロビーで理人達と話していた。穏やかな生活に心が洗われるのを感じながら、馴染み始めた日常を謳歌していた。
「日向、いるか?」
玄関から来た男に名前を呼ばれるまでは。自分の名前が呼ばれた事に驚き、玄関を見ると特対の刑事である中原が昴の方に歩いてきていた。初めて会った時と同じ様にくたびれたスーツを着て、苛立ちを隠しもしない。
「いますが、どうしましたか、中原さん」
昴は椅子から立ち上がり、中原に声をかける。中原は早歩きで近づいて来ると、理人達に視線を向ける。
「悪いな、日向を借りて行ってもいいか?」
中原の問いに理人達は戸惑った様な視線を昴に向けながらも頷く。その様子から中原が焦っている事に気づいてる様子が窺えた。
「事情は向かいながら話す。一緒に来てくれ」
中原はそういうと玄関に向かって歩き出した。心配そうな瞳を向ける理人達に微笑んでから昴も中原の後を追い、玄関から屋敷を出た。
駐車場には刑務所からこの屋敷まで送ってきてくれた彼の車が止めてある。助手席に乗る様に中原に顎で促されて、乗り込む。中原も運転席に乗り込み、車のエンジンをかける。
「随分と屋敷に馴染んでいたな」
「……そうですね。私の理想があの屋敷にありました」
中原の問いに一瞬真意を探る様に中原を見る。しかし、世間話をしている様子しか感じられない。だから昴は素直に答える事にした。昴の話を聞き、中原は少し笑う。
「それならよかった。山吹の強引さから少し心配していたんだ」
本当に心配をしていた様子で前を見る瞳は優しい。特対の刑事は敵だと思っていた。しかし、中原みたいな人もいる。そう思うと肩書きだけで決めつけるのは良くないなっと今まであった先入観を捨てる。
「悪いが、お前の能力については山吹から聞いてる。見た景色を相手に見せれるだけじゃなく、物の記憶も読めるんだよな?」
「……そんなことまで知られていましたか。記憶が読めるというよりは直近のその場の景色を見ることができるだけです」
屋敷の住人にも言っていなかったもう一つの能力を中原が知っている事に驚きを隠せない。それと同時に、自分が屋敷から連れ出された理由はこれだと直感的に思う。
「実は、轢き逃げ事件が起きた。能力者は関係ないが、お前の能力が使えるか確認したくて、案件を巻き取った。犯人の車のナンバーだけでいい、今から現場に行くから読み取ってくれないか? 轢き逃げ犯を捕まえたい」
「……特対は能力者専用では?」
普通の事件の解決の手助けをお願いされて昴は驚いた。屋敷にきた時の条件を聞いた際は、"サーカス"関連の案件で連れ回される可能性を考えていた。しかし、普通の犯罪に関わる事になるとは思わなかった。
「特対の前に、警察だからな。この島の平和を守るのが仕事だ。それに、俺は"サーカス"が大人しく悪さをしなければ捕まえる気はねぇよ」
「……そんな考え方もあるんですね」
「はあ!?」
昴の言葉に中原が怪訝そうな声を上げる。昴はその理由を口にした。微かに握った拳が震える。
ちょうど車が赤信号で止まる。
「いえ、特対は全員能力者というだけで捕まえる集団だと思っていたので」
「あー……、先代の部長はそんなところがあったな。悪かった。能力者だからって差別だけでなく、なんの罪のない奴らを捕まえる事を止められなかった」
中原は信号がまだ変わらない事を確認して、昴に頭を下げた。昴は一瞬何が起きたかわからなかった。
警察が自分に頭を下げた? 目の前光景が理解できない。これは現実なのかとする思う。しかし、真摯な中原の姿を見て、自分達も特対というだけで差別をしていたという事実に気づいた。
握っていた手から力を抜く。
「お互い様です。認められないからと犯罪まがいをしている人々もいました。自分が良ければ他人を傷つけてもいい原因にはなりませんから」
「あんたが、"サーカス"の創始者でよかった。山吹の言う膿出しが終わって、まともな奴らだけが残ったんなら、俺は俺の権限で一般人に害がなければお前らを捕まえない様に目を光らせる。だから、この期間はお互いを共犯者として知っていく機会にしようじゃないか」
多分、中原はこれを伝えたかったのだろうと思った。だから自分が管轄じゃない轢き逃げ事件を巻き取って昴を連れ出した。きっとそうだと昴は感じた。
「そうですね、中原さんとなら共犯関係になるのも……悪くないかもしれないです」
昴の答えに中原は笑う。そして信号が青を表示した為、また車を走らせる。
しばらくして、事故現場に到着した。中原が調査中の警察官に声をかけて人払をする。車内で特対は能力者秘匿の義務から、人払をする権利があると教えてもらっていた昴はその様子を見ている。移動している警察達が昴を訝しんでいる。
それに気づいた中原が笑いながら伝える。
「こいつは、最近雇った協力者だ。身元も確かだから安心しろ」
中原の言葉に納得したのか昴を見る視線はなくなる。そして、人がいなくなったのを確認すると中原は信号まで近づく。
「午前10時頃、青信号を渡ろうとした歩行者が信号無視の車に撥ねられた。歩行者は重傷だが命に別状はねぇ」
中原は状況の説明をする。そして目でやれるか? と問いかける。罪の無い人が傷つくのは昴も許せない。中原に頷くと、信号に近づく。そして右手を信号機に左手を中原の頭に当てる。
「は?」
中原が驚きで声を上げる。昴は少し笑いながら説明をする。
「私が見た光景をそのまま中原さんに見せます。本来の能力の使い方です」
そして、昴は瞳を閉じて能力を発動させる。数時間前まで景色を早戻しする。そして、発見する。人を轢いた黒い軽自動車がそのまま走り去っていく光景を。
「ーーっ」
中原の反応から彼も無事に見えたのだろうと判断して手を離す。
「これで捕まえられそうですか?」
メモ帳に車のナンバーや特徴を書き出している中原に昴は笑いかける。
「お前、すごいな」
中原は感心した様に頷きながら、どこかに電話をかける。昴は微かに息を吐く。自分の能力が悪を捌くのに使われている。どこか心地よいものを感じた。
そして、中原の運転で昴は屋敷へと戻る。何度もお礼を言い、車に戻る。その後ろ姿を見つめながら、"サーカス"にいる時には感じなかった達成感を昴は覚えたのだった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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