ep81 諦めていた世界
昴が頷くと話が終わったとばかりに唯華は部屋を去った。残された3人はしばらく無言だったが、中原が少しすると立ち上がった。
「まぁ、そういうことだと。これからよろしくな」
そう言って、中原も部屋から去っていき、昴と美月だけが残された。困った様に笑う昴に美月は申し訳なさそうに微笑む。
「とりあえず、よろしくね。昴君。屋敷と昴君の部屋の案内するね。あと住人の紹介」
「お願いします、美月さん」
そして美月による屋敷の案内が始まった。一度ロビーまで戻る。
「ここが、ロビー兼リビングみたいな感じかな?」
たくさんの椅子やソファ、机が置いてあり、壁際には大きなテレビが設置されている。よくよく確認すると、椅子に座ってカップを傾けている女性や、机に向かって勉強している少年がいた。
「あっ、3人もいる。紹介するわね」
美月はそういうと、まずマッサージチェアーに座っていた青年に声をかける。
「理人君、新しい住人を紹介するわ」
「あれ、美月ちゃん。またゆいにパシられてるの?」
「その言い方はないでしょ、理人君」
理人と呼ばれた青年は美月に笑いかけてから、昴に視線を移す。そしてマッサージチェアーから立ち上がると、昴に笑いながら手を差し伸べた。
「君もゆいに拾われたのかい? 僕は桑内理人。能力はこれだ」
ウィンクをしながら手を動かすと近くにあったマッサージチェアーが浮く。
「サイコキネシスですか?」
「そう。模様替えとかに便利だよ。そういえば美月ちゃんに新しいベッド運ばさせられたのはこういう事?」
手を下ろしてマッサージチェアーを元の位置に戻しながら理人は笑って美月を見る。美月は呆れた様にため息をつく。
「ちゃんと説明したよ? 忘れちゃったの?」
「あはは、そうだったかな」
掴みどころのない青年だと昴は思った。そして当たり前の様に能力を見せてくれた彼に驚く。能力者は差別の対象だ。隠れる様にして生きている。それが当たり前だと思っていた。それがこの家の中だけかもしれないが普通に能力を使っている。その事に感動を覚えた。
「はじめまして、私は日向昴といいます」
「よろしくねー、昴さんは男でいいんだよね? 中性的な人だけど」
見た目で性別を掴めないと言われる事に昴は慣れていた。理人に笑いながら頷く。
「はい、男ですよ」
「何歳? 僕は高2なんだ。ここ男の住人少なくて嬉しいな」
「年齢ですか?」
「あっ、言いたくないならいいよ?」
「いえ、23です」
「えっ、もっと若いと思っていた。姫ちゃんと同い年だね」
人懐っこく笑いながら理人は嬉しそうにしている。昴は少し戸惑った。"サーカス"の人間が増えていくにつれ、初対面は少しの警戒がどうしても必要だったからだ。
「あまり、人の年齢を初対面の人に言わないでいただけませんこと?」
不意に昴の後ろから声がした。振り返ると先程までソファで優雅に寛いでいた女性が立っていた。
「あっ、姫ちゃんごめん。つい」
「ついじゃないですわ」
姫と呼ばれた女性はそのまま昴の横を通り抜けて理人に詰め寄る。理人は目を逸らしながら言い訳をしている。男性が少ないと言っていたが、この屋敷は女性が強いのかもしれないと昴は思った。助けを求める様に隣にいる美月を見る。
美月は呆れた様な表情で2人を見守っていたが、昴の視線に気づき、しまったという様に2人の間に入った。
「姫、新しい住人に自己紹介。貴方の後ろにいるわ」
「あっ、そうでしたわ。私も自己紹介しようとこちらにきたのに、理人の発言で忘れていました」
そういうと姫はぐるりと回り、昴に向き直る。しかし、目線が合わない。疑問に感じるも、すぐに答えがわかった。
「初めまして、私鬼頭姫と申します。……隠すことでもないので伝えますが、全盲ですの」
「日向昴です。あの、少し頭に触れてもよろしいですか?」
昴は全盲と聞き驚いた。しかし全盲をハンデと思っていなそうな姫に感動した。彼女に景色を見せてあげたい。その一心で問いかける。
「……? 構いませんが、なんでしょうか」
不思議そうにする姫に近づき、昴は失礼しますと彼女の額に自分の右手を添える。そして目を閉じる。どうせなら綺麗な光景がいい。昔見た流星群を頭の中に思い浮かべて能力を発動する。
「えっ……?」
姫が驚きの声をあげる。きっといきなり脳内に流れてきた映像に驚いているのだろう。昴は瞳を閉じた状態で彼女に説明をする。
「私の能力は、私の見た景色を他者の脳内に映像として見せることが出来るのです。どうでしょうか?」
「……ありがとうございます。世界って綺麗なんですね。昴さん、よろしければですが、美月と理人の顔も教えてもらってもいいですか」
姫の涙ぐんだ声が聞こえる。自分の能力が役に立った。それだけで昴は嬉しくなった。
「いいですよ」
昴は瞳を開けて改めて2人を見る。そしてその顔を頭に思い浮かべながら姫に映像を流す。美月も理人も何も言わずに昴と姫を見ている。それからしばらく、姫の希望する映像を昴は見せるのだった。
自分の能力はこの人の為にあったかもしれない。昴はそう思った。
しばらくして、姫は涙を手のひらで拭いながら昴にお礼を言う。
「昴さん、ありがとうございます。諦めていた世界が見えてとても幸せでしたわ」
「いえ、姫さんのお役に立てたのならよかったです」
昴も姫に笑いかける。見ていた美月達は笑顔で2人を見ている。
「よかったね、姫ちゃん」
「昴君、本当にありがとうございます」
涙を拭っている姫に理人はハンカチを渡す。姫は理人からハンカチを受け取って涙を拭う。
一方の美月は昴に頭を下げていた。
「いえ、私がやりたくてしたことなので」
「それでも、姫が本来見えなかった世界を見れたのは本当だから。ここの責任者としてお礼を言わせてください。昴君が来てくれて本当によかったです」
その言葉に昴は胸が熱くなるのを感じた。"サーカス"では必死に調和に勤めていた。時には自分の心を殺しながら。
しかし、この場所は素の自分を受け入れ、必要としてくれた。感謝したくはないが、唯華に感謝をしなくてはいけないと思った。
「あっ、八楽君の事も紹介しないといけないですね」
美月がそう切り出したことで、2人と別れ、机に向かって勉強をしている少年の方へ美月の案内で向かった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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