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ep80 結果か、過程か

 昴は拳を握りしめる。爪が皮膚に食い込み少し痛みを感じた。それが今の状況が現実である事を突きつける。


「この屋敷の住人はほとんどが能力者だ。ここで君が"サーカス"をどうしたいか考えるといい」

「考え直す必要はありません。私は一度身内に引き入れた者を見捨てる人間になる気はないです」

「それで裏切られてもか?」


 馬鹿にする様に唯華は言う。昴はその言葉を考える。わかっていた。過激派の者達は"サーカス"を利用していると。隠れ蓑にしている事は頭では分かっていた。しかし、話し合えば、何か変わるかもしれない心はそう訴える。

 昴は何もせずに諦めるのも見捨てる事もしたくなかった。


「裏切られてもです。やらずに後悔するよりも、私はやって後悔する方がいいです」


 決意の込めた瞳で真っ直ぐに唯華を見る。しかし、唯華は一蹴する。


「戯言だな。口先ではなんでも言える。結果は起こってからじゃないとわからない。その先に絶望が待ってる」

「……それこそ、実際に起こるかわからない机上の空論です」


 昴の言葉に、唯華は可笑しな事を聞いた様に笑う。その様子に昴の隣にいた中原がギョッとした様子になる。


「私が誰か忘れたのか? 既にそういう計画が立ってるんだ。そもそも君が捕まったのも過激派の計画のうちだぞ?」

「ーーっ!? 何を……」


 唯華の言葉に昴は呼吸が止まった。何を言われたのかわからなかった。そんな様子の昴に気づいているはずの唯華はつまらなそうに続ける。


「たまたま強盗を企てている輩の話を聞いた、過激派の1人が君と背格好が似ていることに気づいた。そして伝えたんだ。生贄を用意できると。あのタイミングで君が強盗事件の近くにいた理由を思い出してみな」


 唯華の言葉に昴は口腔内が乾燥していくことに気づいた。確かに自分があの場所にいたのは過激派の1人と待ち合わせをしていたからだ。しかし、と信じたくない昴の顔から血の気が引いていく。


「思い出したか? 仕組まれていたんだ。君がいると邪魔な勢力が"サーカス"内部にはいる。"サーカス"を長く保たせたいならこのタイミングで膿出しをするべきだ。」


 唯華の言葉は甘い蜜の様に感じた。それは自分の考えを否定する者であるが、願いを肯定する者だった。"サーカス"の安寧、それが昴の願いだ。その為にはやむを得ないのではないかそんな考えが頭をよぎる。頷きそうになった。でも、話し合えば人は変わる可能性はある。

 昴は何も言えなくなった。すると隣で状況を見守っていた中原がため息をついた。そして昴に優しく語りかける。


「まあ、山吹の肩を持つわけじゃないが、あんたの考えが能力者の自由な生活なら、この屋敷はそれを体現している。一度、違う角度から"サーカス"を、そしてこの屋敷のあり方を見るのもありなんじゃないか」

「……」


 昴は何も言えなくなった。"サーカス"は隠れるようにして生活している。しかしこの屋敷は住宅街にあり、昴の憧れた能力者が普通の生活をしているのではないか。

 "サーカス"が裏の能力者の集まりだとすると、この屋敷は表の能力者の集まりだ。確かにここで生活する事で今後の"サーカス"に活かせるヒントを得られる様な気はした。


 しかし、唯華の言いなりになるのはごめんだ。どうしたものかと考えていると、控えめに部屋の扉がノックされ、先程の女性、美月が入ってきた。


「ゆいがきつい言い方や脅しをしてる気がして……」


 そう言いながら美月は唯華を見る。唯華はその視線を気にしている様子はない。


「脅すとは心外なんだけど、私はただ事実を伝えているだけ」

「正論と情報で脅しながらでしょ?」


 美月は呆れた様にため息をつく。そして昴の方を見て頭を下げた。


「きっと、ゆいが惑わせる様な事を言いましたよね、すみません。でも、事情は聞いています。きっと新しくやり直す時にここの暮らしはプラスに働くと思います。ゆいも過激派以外は守る様に動かせますから、今回はゆいの案に乗っていただけませんか?」

「……元々私に選択肢はありませんよ」


 真摯に話す美月に昴は少し絆された。しかし、タダで折れるのは今までの自分を否定する様な気がして、言葉を絞り出す。


「そうかもしれません。でも自分で選んだって思った方がいいと思うんです」

「どっちだろうと結果は一緒でしょ」

「結果じゃなくて過程が大切って話ね」


 美月の言葉に唯華が呆れた様に言葉を返す。しかし美月は微笑みながらそう返す。

 それを聞き、昴は思った。唯華は信用できない。でも美月は信用できる。だからこの提案を飲もうと。


「わかりました。他に何か条件はありますか?」

「ものわかりが良くなったな。条件は1つ、君の自由は制限させてもらう。この屋敷の中は自由だ。しかし外に出るのは中原さんか、この屋敷の住人と一緒で目の届く位置にいる。それだけだ」

「見張ってわけですか」


 唯華の言葉に昴は頷く。確かに自由にさせてくれるなら自分は何があっても"サーカス"に合流しようとするだろう。それを予防されたのだ。


「生憎、君を信用はできないからな」

「……お前はまたそういう事を言う」


 中原が呆れた様に呟くと、昴を見た。


「お前は特対ってか俺の協力者という形で捜査に協力してもらう。能力者の情報はお前の方が詳しいだろ? この島の秩序を守る為に、犯罪を犯そうとしている能力者は捕まえる。悪さをする奴がいなくなれば、少しは能力者も生きやすい環境を作れるかもしれないからな」


 中原は特対として決して能力者の味方にはならないのだろう。しかし、能力者を差別なく見てくれている。特対にそんな人間がいることが知れただけでも昴にとっては幸運だ。


「……わかりました。仲間を売るつもりはありませんが、私が分かる範囲では協力しましょう」


 隣の中原に手を差し伸べる。自分の目的のためにも利用しよう。そういう心持ちで唯華の提案を受け入れることにした。


「何か変な事をしたら、遠慮なく逮捕するからな」


 中原はそう言って、昴の手を握る。きっと中原は柔軟に考えられる。この出会いが将来"サーカス"のためになる。

 今の昴はそう信じることしかできない。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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